建設現場のDX事例と導入が始まる最新テクノロジーとは?〜建設DX展パネルディスカッション

建築・建設・不動産業界の課題を解決する先端技術が集う日本最大級の専門展示会「JAPAN BUILD TOKYO」が2023年12月13日から12月15日にかけて開催されました。この記事では、本展示会内で古野電気株式会社のブースにて実施された「建設DXセミナー」における、Koto Onlineとのコラボレーションによるパネルディスカッション【建設DXの業界潮流の変化と将来展望に関する深掘り】の内容をお届けします。

建設DX展パネルディスカッション

【人物紹介】

石野 祥太郎氏
古野電気株式会社 技術研究所 建設DX事業責任者
広島大工・慶應大法卒の文理両道。広島大院工学系修士卒後、2011年に古野電気株式会社入社。以来、マイクロ波回路、無線システムの研究開発に従事。一貫して新商品・新技術・新市場の開拓に取り組み、2019年より建設DX事業責任者。現場に関わる全ての人が生き生きと働き、豊かに暮らせる社会の実現を目指している。
田口 紀成氏
株式会社コアコンセプト・テクノロジー 取締役CTO兼マーケティング本部長
2002年、明治大学大学院理工学研究科修了後、株式会社インクス入社。自動車部品製造、金属加工業向けの3D CAD/CAMシステム、自律型エージェントシステムの開発などに従事。2009年にコアコンセプト・テクノロジーの設立メンバーとして参画し、3D CAD/CAM/CAEシステム開発、IoT/AIプラットフォーム「Orizuru(オリヅル)」の企画・開発などDXに関する幅広い開発業務を牽引。2014年より理化学研究所客員研究員を兼務し、有機ELデバイスの製造システムの開発及び金属加工のIoTを研究。2015年に取締役CTOに就任後はモノづくり系ITエンジニアとして先端システムの企画・開発に従事しながら、データでマーケティング&営業活動する組織・環境構築を推進。

――まずは、自己紹介をお願いします。

石野:古野電気の石野です。弊社は魚群探知機を世界で初めて開発した会社で、船舶向けの機器製造を主力事業としています。海上で視界が悪い時、船舶はデータを用いて運航することが可能です。このように我々は「見えないものを見る」という技術領域に強みを持っていますが、この技術を建設現場に向けて適用しているのが、弊社の建設DX事業となります。私は本事業の責任者を任され、3年が経過しました。建設現場は、船舶と比べるとデジタル化が遅れており、現地での目視確認が主流です。将来的には、現場に度々行かずともデータで全てを把握し、効率化することで現場監督が本来の仕事に専念できる環境を目指しています。

田口:コアコンセプト・テクノロジーのCTO、田口です。製造や建設のシステムインテグレーションを行っており、DX支援とIT人材調達支援を事業の柱としています。製造や建設の生産性向上のためには「3D技術の活用」が重要だと考えており、建設業界でも3Dデータの活用を提案しています。人材調達支援事業では、プロジェクト毎に最適な人材を期間限定でアサインしています。

また弊社では、現在、「Koto Online」というオウンドメディアを展開しています。「DX」という言葉にはキラキラしたイメージがありますが実際はそうではなく、現実的に効果のある「DX」とはどういうものなのか、地に足のついた「DX」とは何なのかを、このメディアを通じでお届けしようと考えています。

――あらためて「建設DX」という言葉の定義について所感をお聞かせいただけますか。

田口:オウンドメディアを通じて多様な方々からDX成功の秘訣を聞いていますが、成功した企業は自社に合ったDXの定義を設け、デジタル技術を利用して業績を向上させたと考えています。業績向上のためのデジタル技術は企業によって異なり、基幹システムの更新や業務プロセスの改革なども含まれます。そのため、会社の数と同じくらい定義の数があります。しかし重要なのは、業績が良くなったり、環境負荷が減ったというった成果です。結果として、成果が得られ、その過程でデジタル技術が使用されていれば、それをDXだと定義すると考えています。

石野:3年ほど前に「建設DX」という言葉が出現しました。以前は「建設テック」と称されていましたが、DXはテックよりも広範な意味合いを持つようになりました。おそらく旗印として掲げた言葉なのではないかと思います。今の課題としては業務の効率化です。それが現状の2024年問題の話です。2030年以降には、自動化の話になると思います。集約されたデータを基にしたフルデジタルな施工が行われるようになると予測しています。

建設DX展パネルディスカッション

――「建設DX展」から感じられる、「建設DX」の変化や潮流について教えてください。

石野:建設DX展には3年連続で出展していますが、前回から急激に注目が集まったと感じています。今回もブースの大きさや参加企業の数から前回と同じくらいの盛り上がりを見せていると感じられますし、「建設DX」への関心の高まりがうかがえます。

田口:建設DXにおいては、特に人手不足が大きな課題になっていますよね。展示会では「無人化」「自動化」といったキーワードが目立ちます。2024年の働き方改革に向け、実際に問題に対処して成果を上げている企業が注目されていると感じます。

――ところで、両社はどのような経緯で建設業界向けの事業展開に至ったのですか?

石野:古野電気は船舶向けの事業を主力としていますが、新しい市場を探求し、新規事業の展開が必要だと考えています。その中で、弊社の技術や知見が、建設業界と相性が良いと感じ、様々な実験を繰り返す中で、現場の課題感を発見しました。建設業界は想像していたよりもアナログで、トンネルの中や地下、高層階など、電話すら通じないところがたくさんあり、その中で日中作業されている方がたくさんいる。そこに対して何か貢献できないかと考えたのが始まりです。船舶で使用される機器は堅牢性が高いので、建設現場でも弊社の通信ソリューションが役に立つと確信を持ちました。

田口:製造においては、設計図面から製造図面に作り替えるプロセスがあります。私たちは、3D技術を用いてその自動化に成功しました。一方の建設業においては設計図と施工図がありますが、図面の違いによって情報の連動が難しく、まったく違う図面を作っているケースもあります。私たちは、設計から施工までのプロセスを3Dで統一することで、効率化と正確性の向上に寄与できると確信しました。建物を作ることまで自動化するのは難しいですが、少なくとも情報が一元化・統合されて、誰がどこで見ても間違いのない情報にアクセスできる環境は作れると考え、3Dというキーワードで製造業から建設業に入っていきました。

――大手の取引先がたくさんありますが、業界のニーズに合致していたということですね。

田口:3Dソリューションは多岐にわたりますが、満足できるソリューションはまだ少ないように思います。施工には多数の企業が関わるため、一つのプラットフォームで情報を共有するのは困難です。情報共有を容易にするためには、3Dモデル内で情報を統合できるインターフェースの開発が必要になります。現在、竹中工務店様が弊社と共にインターフェースを開発し、活用していただいています。会社ごとに異なる事情があるなか、どのようなコミュニケーション方法が全員に満足をもたらすか、真摯に向き合いながらシステムを構築しています。

――ただの「DX」や「建設DX」「製造DX」など様々な言葉がありますが、これらの違いはどのようなものでしょう?

田口:デジタル技術を活用して生産性を高める取り組みは、業界に関係なく求められます。建設や製造とDXの前に付けているのは業態の違いでしかなく、各社DXというキーワードで音頭を取り、実際にデジタルを使って業務を変えていくという話をしています。

「X=トランスフォーメーション」ということもあり、デジタル技術で、ビジネスモデルを変えようという話がよくあります。しかしビジネスモデルを変えれば、業績が爆発的に上がるわけではありません。デジタル技術を使い、緩やかに業績を維持・向上させようと、みなさん現実的に考えていると思います。今ある技術を活用しながら業務を変えていくということをすれば、それはもう「DX」と言って差し支えないと思います。

――通信技術は、まさにDXを実現させるベースの部分。田口さんがおっしゃる“今ある技術を使ってみなさんの仕事を変えていく”可能性がありますね。

石野:建設業界では、まだ多くの業務がオフラインで行われており、現場の無人化や自動化はまだまだ進んでいません。例えば、トンネルの先端に行ってハンマーで叩き、音を確認するという検査がありますが、この検査に多くの人が従事しています。トンネルの現場というのは基本的に山奥なので、移動だけでも1日かかりますし、それを行うために多くの人が山奥に行かなければなりません。私たちは通信ソリューションとカメラで、遠隔臨場による検査を提案しています。

田口:例えば、電気自動車のパーツは少ないものの、各パーツは高度な技術を要します。その組み立てが現在では人の手を借りずに自動で行われています。電気自動車を完全に自動で組み立てることも可能になっており、これは特に自動車産業において、工場内の自動化が進んでいる証拠といえるでしょう。
しかし、建物の場合はそうはいきません。建物は量産品ではなく、一品ものです。製造業でも一品ものは特注品とされ、生産ラインの効率化の恩恵が少ないです。量産品の自動化は進んでいますが、特注品に関してはそれほど進展していないというのが現状です。

石野:建設現場は完全な無人化は難しく、最後まで人が残ると思いますが、その人を支える技術は出てきています。例えば建設現場では入場する際に台帳に名前を書いたりしますが、最近はそれがカメラに代替され、入退場の管理がAIでできるようになりました。これはとても身近なDXの例だと思います。これまでは人や車の出入りを確認するために担当者が必要でしたが、カメラの導入によってそれが不要となったのです。

田口:あるゼネコンさんに聞いた話ですが、受注できるキャパシティが既に枯渇しており、設計の段階で採算性をこれまで以上に厳密に判断することが求められているそうです。建物を建てる前にそれがどれくらいの利益を生み出すかを測ることは簡単な話ではありません。その最適化のためには、施工現場だけでなくその上流もデジタル化を進めなければならないと思います。

建設DX展パネルディスカッション

――建設業における、今後のマーケットやニーズの変化をどのように読んでいますか?

石野:建設業も、一つひとつものを作るという意味では製造業です。製造業の多くが海外での生産を選択する中、建設業界はその場で製造するわけですから、国内での作業が必須で、国内経済においても、雇用面で見ても重要です。私たちは「手間のかかる業務をどう解決するか」という点に焦点を当てています。紙ベースの作業がデジタル化されるだけでも、多くの関係者にとって大きな進歩です。現在、業務の効率化に貢献するさまざまなSaaS系アプリケーションが登場しており、2024年問題に対処するためには、これらのツールの活用が現実的なニーズとなっています。

田口:労働人口の減少と働き方改革による労働時間の短縮は避けられない現実です。現在の建設業界は、都市再開発などのニーズが短期的には存在しますが、長期的には国内人口の減少により需要が減少する可能性があります。生産性を維持するための取り組みは必要ですが、将来的には需要と供給がバランスする可能性があると考えています。また、サスティナブルな働き方が重要であり、安全かつ報酬の透明性が確保された魅力的な現場環境の構築が求められています。

石野:建設業界の年間投資額は約70兆円で安定していますが、大規模な建築では粗利がマイナスになることもあり、無理をしてプロジェクトを進めている現状があります。DXへの投資は現在、建築費用の約2%程度に留まっていると見ていますが、この比率は今後増加することが予想されます。労務費の削減と利益の確保が進めば、DXソリューションへの投資額も増加し、業界全体の生産性向上につながると考えています。私たちはそこに期待していますし、そこに貢献していきたいです。

田口:設計から施工に至るまでの情報連携がより密接になり、情報の一元化が進むことが予想されます。現在は図面ベースで作業が行われていますが、将来的には3Dデータの利用が拡大し、現場との情報連携が強化されることで、データベースが充実し、データの一元化が進むでしょう。これは、建設業界におけるBIM(コンピューター上に現実と同じ建物の3Dモデルを再現する手法)の普及が鍵を握っています。

――まずはベースを見直して、自分たちが何に困っているのかを明確にすることが重要ということですね。

田口:DXに成功している企業に共通するのは、デジタルを基盤とした変革ではなく、顧客や従業員との密接な関係構築にあると感じています。そのような会社はコミュニケーションを直接取っているというよりは、お客さんやパートナーの意思が従業員に届いていて、それをサービスとして反映させるような仕掛けが社内に整っています。結果として効率化の手段であるデジタルに行きついているのです。経営者の意思がどのように従業員に届いているのかも重要です。やはり若い経営者の方がデジタルに対する感度も高いです。デジタルの情報が経営まで上がっていくかどうかも重要なので、その情報が従業員とのコミュニケーションに活用され、経営の意思としてデジタル化が機能するためには、とくに若い人とのコミュニケーションが活発な会社であるということは大きいですね。

――どんなに便利なソリューションでも、きちんと現場で使えなければ意味がありません。そこを担っているのが古野電気であることを忘れてはいけませんね。

石野:使う人をイメージして製品を作ることが大前提です。高機能な製品を提供しても現場での使用が難しい場合が多く、シンプルで直感的に操作できる製品の開発が重要です。また、電気系の知識を持った若い人材の現場への参入が進むことで、建設現場の省力化や効率化が進むと期待しています。

(提供:Koto Online