16年ぶりに1000件の大台を突破し、活況を呈した2023年のM&A。2024年も勢いを増していくのでしょうか。2024年の注目ポイントについて、M&A Online編集部の編集委員の黒岡博明と糸永正行、副編集長の大澤昌弘で話し合いました。

2024年の注目ポイントは?

大澤:2024年のM&Aについてどう見ていますか?

糸永:件数の伸びは金利の動向がポイントになります。注目しているのは、人材を確保するためのM&Aです。M&Aのメリットとして、時間を買う、規模を買う、人材獲得の3つがあります。この先の日本は人手不足が課題ですから、人材獲得に注目したM&Aには注目ですね。外食チェーンのM&Aで従来であれば、店舗拠点の獲得が目的だったわけですが、人材獲得のほうがプライオリティが高いような案件が出るような可能性もあるとみています。

糸永:もうひとつは、MBOが確実に増えそうだということです。今後金利が上がることを想定するなら、経営に口出しされることを望まない上場企業のオーナー経営者としては、早めにMBOが選択肢に入ってきそうです。

黒岡:金利の動向には注目しています。2022年春から急激な円安ドル高が続いた為替相場は、2023年の10月に再加速して1ドル150円を超え、日本企業の海外M&Aは衰えを見せるかとも思ったのですが、結果的に件数は増えました。M&Aにおいて為替は中立的に見るべきかと思います。

では、金利も為替と同じように中立的な要因なのかですが、それは違うような気がします。金利負担は非常に大きなものになるからです。マイナス金利を続ける日銀の金融政策が正常化に向かうならば、資金調達環境はM&Aにマイナスに働きそうですし、それをピークに件数にも影響が出るのではないかという気がします。

大澤:2023年の経済産業省が公表した「企業買収における行動指針」(新指針)が2024年も持続的に効力を持ったものかを見極めたいと思っています。M&Aが企業価値の向上につながる方法であり、そのために真摯なM&Aの提案に対して、取締役会で株主利益につながるかを検討すべしとした、新指針が2024年も引き続き効力を持って浸透するかに注目しています。そこに加えてアクティビストの動きも気になるところです。そもそも、アクティビストの存在自体の良し悪しも議論されることがありますが、どう見ていますか。


アクティビストは善なのか悪なのか

糸永:アクティビストについて語るときに、そもそもですが、「会社は誰のものか」というテーマに日本は揺れているわけです。日本では株主のものと見る人は少数派で、経営者のもの、社員やらステークホルダーを含んだものという意見もありますが、究極的には、株主もしくは経営者のいずれかで見ていると言ってよいと思います。新指針の中身は、経営者のものではなく、株主のものであると明確に受け取れる内容ですから、経営者のものだと思っていた経営者にとってはMBOという選択肢を取ることになると思います。

黒岡:経営に緊張感が高まり、基本的には良い存在なのではないでしょうか。短期的な利益を求めて、さやどりを狙った株式の大量取得を仕掛けるところもありますが、すべてのアクティビストがそうではありません。投資先企業の内部に入り、経営の改善を進め、企業価値の向上につなげるというのがアクティビストの本領でしょう。

糸永:もうひとつ述べておきたいのが新指針についてです。会社は株主のものだという認識を日本に浸透させたのは功績だと思います。日本企業は1990年代後半から内部留保をため続けてきましたが、その資金は経済の発展に使われることはありませんでした。新指針はM&Aを促すものでしたから、流れを大きく変えたという見方もできます。

大澤:それを推し量るうえで私が注目しているのは、焼津水産化学工業<2812>の今後です。2023年8月にPEファンドのJ-STARと組んで、TOB(株式非公開化)を行いましたが、結果的に失敗に終わりました。TOB期間にアクティビストといわれる、旧村上系の南青山不動産と3Dインベストメントが市場で買い付けて20%超の議決権を保有することになり、TOBの条件が満たせなくなったからです。南青山不動産は株主であり続けていますし、2024年には動きがありそうです。そうしたなかで、会社は誰のものかを改めて問うことにもなりそうですし、新指針の立ち位置の確認など、2024年にどう受け止められ、M&Aが続くのか注目しています。