この記事は2024年2月29日に「The Finance」で公開された「コベナンツとは?わかりやすく解説【初心者向け】」を一部編集し、転載したものです。


金融取引において重要な条項である「コベナンツ」。本稿では、その意味や種類、利用メリット・デメリット、違反時の影響など、初心者にもわかりやすく解説します。

目次

  1. コベナンツとは
  2. コベナンツ条項が必要な背景
  3. コベナンツの種類
    1. (1)アファーマティブ・コベナンツ
    2. (2)ネガティブ・コベナンツ
    3. (3)フィナンシャル・コベナンツ
  4. コベナンツを利用するメリット
    1. (1)金融機関のメリット
    2. (2)事業者のメリット
  5. コベナンツを利用するデメリット
    1. (1)金融機関のデメリット
    2. (2)事業者のデメリット
  6. コベナンツに違反した場合
  7. コベナンツが利用されるケース
    1. (1)シンジケートローン
    2. (2)プロジェクト・ファイナンス
    3. (3)LBOファイナンス
  8. まとめ

コベナンツとは

コベナンツとは?わかりやすく解説【初心者向け】
(画像=twinsterphoto/stock.adobe.com)

コベナンツとは、金融機関(貸し手)が企業(借り手)に対して行われる融資契約の融資契約書、または社債発行要領上で企業側に課せられる一連の条項(=義務)のことです。
情報開示義務、財政制限義務などのさまざまな条件が含まれているのが特徴です。また、貸し手に不利益が生じた場合、設定されたコベナンツに基づいて契約解除等ができるようになっています。具体的には借り手が契約期間中に行うべきことを示した「アファーマティブ・コベナンツ」や反対にしてはならないことを示した「ネガティブ・コベナンツ」などがあります。
借り手の事業行動が制限される一方で、財務の健全化につながるなどのメリットもあります。

さらに金融庁は、有価証券報告書等にてコベナンツに関する債務状況等の開示を企業に義務付けるとし、「企業内容等の開示に関する内閣府令」にて公表しました。
令和6(2024)年4月1日から施行され、企業は有価証券報告書を通じてより詳細な財務情報を公開する必要があります。情報開示を義務化することで、投資家やステークホルダーに対して透明性のある情報提供を強化し、市場の活性化につながるとしています。

<企業内容等の開示に関する内閣府令改正内容>

  1. 「重要な契約」の有価証券報告書等への記載(上記【3】(1)以外)
    令和7(2025)年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等から適用
    ※ただし、施行日前に締結された契約については、令和7(2025)年3月31日以前に開始する事業年度に係る有価証券報告書等までは省略可能
  2. 財務上の特約に係る臨時報告書の提出(上記【3】(1))
    令和7(2025)年4月1日以後に提出される臨時報告書から適用
    ※ただし、財務上の特約に変更があった場合等に係る臨時報告書について、施行日前に締結された契約については、令和8(2026)年3月31日以前に提出される臨時報告書までは省略可能

引用:「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案に対するパブリックコメントの結果等について

コベナンツ条項が必要な背景

これまで日本における資金調達は、銀行融資に依存してきました。中でも恒常的な取引があるメインバンクとの取引関係から生まれる融資が中心でした。「メインバンク制」と呼ばれる取引では、借り手が貸付金を返済できなくなった場合、主に担保による回収が行われていました。

しかしバブル崩壊後に金融環境は大きく変化し、企業はメインバンクに限らず、さまざまな金融機関と取引するようになります。こうした変化により、貸し手の融資におけるリスク管理の観点から、担保の価値よりも企業のキャッシュフローの健全性が重視されるようになりました。
そのため、金融機関は借り手の財務情報を常に把握し、変化があった際には迅速に対応ができるような体制が求められるようになりました。
こうした背景から、金融機関側に対して貸付金の安全な回収を保証するため、コベナンツ条項の導入が進められています。

コベナンツの種類

(1)アファーマティブ・コベナンツ

アファーマティブ・コベナンツとは、借り手が履行しなければいけない作為義務を定めた条項です。つまり借り手が「行うべき事項」を明確に定めた条項です。アファーマティブ・コベナンツにより、借り手には以下のような義務が発生します。

  • 報告・開示義務
    • 借り手は、財務状況に重大な変化や予兆がある場合、または支払能力に関わる事項がある場合には、金融機関に報告する義務があります。報告では、正確かつ適法に作成された財務諸表や開示文書の提出が必要です。
  • パリパス条項
    • 借り手は他の無担保債務と同等か、それ以上の優先順位で当該債務の支払いを行うことを保証しなければいけません。
  • 事業維持条項
    • 借り手は必要な事業許可を維持し、主たる事業を継続する必要があります。
  • 財務制限条項
    • 借り手は一定水準以上の純資産額を保ち、信用格付けを維持することが必要です。

上記のようなアファーマティブ・コベナンツによって、金融機関は借り手の財務状況が健全であるかを把握します。たとえば「報告開示義務」では、「損益計算書や貸借対照表、キャッシュフロー計算書の提出」や「資金計画書、試算表」などの開示によって、透明性のある財務情報が保証されます。

(2)ネガティブ・コベナンツ

ネガティブ・コベナンツとは、借り手が融資期間中に避けるべき行為を義務付ける条項で、特定の制限や禁止事項を定めています。ネガティブ・コベナンツにより、借り手には以下のような義務が発生します。

  • 担保提供禁止
    • 対第三者、対シンジケートローン貸付人に対して、担保を提供することを禁止
  • 事業維持
    • 事業内容変更や組織再編(合併、会社分割、株式交換・株式移転等)、および重要な資産の譲渡や処分を禁じることで、事業の安定を図る。
  • 反社会的行為禁止
    • 暴力的な要求行為や、法的責任を超える不当な要求行為を反社会的行為を禁止

事業維持条項では国税庁が定義している「主たる事業」の概念が重要になります。
国税庁の「第1節 納税地及び納税義務」によれば、主たる事業とは「原則として、その法人が主たる事業として収益事業を行うことが常態となっていないかどうかにより判定する。この場合において、主たる事業であるかどうかは、法人の事業の態様に応じて、例えば収入金額や費用の金額等の合理的と認められる指標(以下1-1-10において「合理的指標」という。)を総合的に勘案し、当該合理的指標による収益事業以外の事業の割合がおおむね50%を超えるかどうかにより判定することとなる。」と明記しています。
つまり、企業にとって最も収益性が高い事業が主たる事業であり、全体の収益の50%以上を占める事業が該当します。

(3)フィナンシャル・コベナンツ

フィナンシャル・コベナンツとは、財務制限条項とも呼ばれ、融資契約において財務に関する条件や制約のことです。フィナンシャル・コベナンツによって、借り手は特定の財務基準を維持することが義務付けられます。
具体的には最低限のキャッシュフローの確保を定めた「ガバレッジ・コベナンツ」や負債水準などを定めた「レバレッジ・コベナンツ」などです。これらのコベナンツを設けることで、財務上における基準を示し、維持を求めることで貸し手側は貸出リスクの変化を確認できます。
フィナンシャル・コベナンツは借り手が安定した財務運営を行うことを目的としており、3ヶ月ごとなど定期的なモニタリングを行うのが特徴です。

コベナンツを利用するメリット

(1)金融機関のメリット

金融機関側のメリットは、以下のようなものが挙げられます。

  • リスク管理の強化
  • デフォルトリスクの回避
  • ガバナンスの強化

コベナンツを設けることで、金融機関は借り手の財務活動に規制を加えることができるため、資金繰りのリスクを避けることが可能になります。前章で解説したように「アファーマティブ・コベナンツ」を設ければ、借り手は財務諸表の開示が義務付けられるため、金融機関は借り手の経済状態を把握できます。
さらにコベナンツに違反していたことが発覚した場合には、金融機関はすぐさま介入ができ、融資の条件見直しや融資の回収が行えます。速やかに金融機関が介入できることは、貸し倒れのリスクを減少させる手段にもなります。
また、「ネガティブ・コベナンツ」を設けることで、借り手による無計画な事業拡大を制限し、健全な経営を促すことも可能です。経営の健全化ができれば、長期的な企業ガバナンスの強化にもつながります。

(2)事業者のメリット

事業者側のメリットは、以下のようなものが挙げられます。

  • 財務管理の強化
  • 市場での信頼の構築
  • 有利な条件での融資獲得

コベナンツによって定められている財務基準を遵守することで、事業者の財務管理は必然的に強化されます。加えて適切な財務管理ができていると判断されれば、金融機関やステークホルダーに対するアピールにもなり、市場における事業者の信頼構築にもつながります。
さらにコベナンツが遵守されていることで、財務上の健全性が証明されるのも大きな点です。健全経営ができている証明になるため、より良い条件(低金利など)での融資も受けやすくなります。

コベナンツを利用するデメリット

(1)金融機関のデメリット

金融機関がコベナンツを利用するデメリットとしては、以下が挙げられます。

  • 管理コストの増大
  • 借り手との関係悪化

コベナンツの遵守は義務であるため、金融機関側は借り手の財務諸表の確認などを定期的に行う必要があります。こうした定期的な確認は人的資源や業務負荷につながり、管理コストが増えてしまうことが考えられます。
さらにコベナンツが遵守しているかを監視することは、借り手との関係を悪化させる可能性もあります。とくに過剰な監視を行ってしまうと、協力関係を構築することは容易ではないでしょう。

(2)事業者のデメリット

事業者側のデメリットとしては、以下が挙げられます。

  • 事業の自由度の制限
  • 条項違反時の利益喪失

コベナンツは厳格な財務制限が施されるため、新規事業への投資や事業活動の拡大などを自由に行うことができないことが多いです。そのため、長期的な成長機会を逃す可能性も考えられます。
また、コベナンツを遵守することは義務であるため、違反をした場合は融資の回収などにつながってしまう恐れもあります。すぐに回収には至らなくても、条件の見直しなどが考えられるため、慎重な運用が求められます。

コベナンツに違反した場合

事業者がコベナンツに違反した場合、借り手が設定されている財務条件や義務を遵守しなかったことを意味します。このような違反は、金融機関が融資の早期返済などを要求する「期限の利益」の喪失につながる可能性があります。

ただし、違反が発生しても必ずしも一括返済を要求するわけではありません。多くの場合、融資条件の見直しや返済期限の延長などの措置を与えることで、借り手の財務状況の改善を図ります。中には、一度のコベナンツ違反では、「期限の利益」の喪失としてない金融機関もあります。

財務状態が改善されれば、金融機関は融資条件を改めて元の条件に戻すケースが多いです。しかし、繰り返しのコベナンツ違反は、融資の回収の実行はもちろんのこと、事業者としての信用力の低下や将来の融資獲得が困難になることにもつながるため注意が必要です。

コベナンツが利用されるケース

(1)シンジケートローン

シンジケートローンとは、一つの融資案件に対して複数の金融機関が集まり、一つの契約書に基づいた同一条件で融資を行う方法です。「アレンジャー」と呼ばれる金融機関が中心となり、参加金融機関の招聘や融資条件の契約書の作成、各金融機関と借り手との調整役を担います。
金融機関側は、シンジケートローンを活用することで、リスクの分散などにつながります。

シンジケートローンでは、複数の金融機関が関与しているため、共倒れのリスクを回付する意味でもコベナンツが設定されます。借り手の財務状態に対して、金融機関は共通の理解を持ち、健全な財務状況を促す役割を果たします。

(2)プロジェクト・ファイナンス

プロジェクト・ファイナンスとは、特定の事業に対して融資を行い、その事業の収益を返済の源泉として行う方法のことです。プロジェクト・ファイナンスの特徴として、ガスなどの資源開発、鉄道などのインフラ整備など、大規模プロジェクトを対象としていることが多く、貸付がキャッシュフローに依存しているため、他の資産等には返済の保証に利用されないことです。

キャッシュフローに依存しているため、事業が上手くいかなければ、返済の源泉が不足するリスクを抱えています。そのためコベナンツを設定し、リスクの軽減や財務の透明性の確保などが行われています。

(3)LBOファイナンス

LBOとは、Leveraged Buyout(レバレッジド・バイアウト)の略称で、買収の手法の一つです。LBOファイナンスとは、買収対象としている企業の資産や将来のキャッシュフローを担保として、買収資金を調達する方法です。特徴として、大企業同士のM&Aで行われることが多く、貸し手は高レバレッジによるハイリターンが期待できます。

しかし、リスクも大きくなるため、財務リスクの管理やキャッシュフローの監視を目的にコベナンツが設定されることも多いです。

まとめ

コベナンツの活用は、金融機関(貸し手)と企業(借り手)の双方にメリットがある手法です。しかし、コベナンツ違反に至った場合は、相応のペナルティを受ける可能性があります。貸し手と借り手のどちらが上にという関係性ではなく、パートナーとして融資や事業を進めていくことが大切になります。


[寄稿]TheFinance編集部
株式会社セミナーインフォ