ストライク<6196>は17日、東京都内でスタートアップ企業と事業会社の提携促進を図るイベント「第17回 Conference of S venture Lab.」を開いた。今回のテーマは「DeNAが新規事業に挑み続ける秘訣とは」。トークセッションでは、DeNA<2432>の原田明典常務執行役員CSO(最高戦略責任者)が同社の取り組みの軌跡を振り返り、オープンイノベーションの可能性を語った。
大企業とスタートアップでは事業パラダイムが違う
原田CSOは市場調査や課題調査に基づき予測計画主義的に取り組んだ新規事業がなかなか開花しないことから、オープンイノベーションに関心を持ったという。うまく行っているスタートアップを見て「なぜ彼らは成長しているのか」との興味からベンチャー投資をするようになった。
実際に投資してみると「規模が小さいんじゃないか?」「やっていることのワケが分からない」と疑問だらけだったが、そうこうするうちに成長する事例を何度も目の当たりにし、大企業とはパラダイム(特定の時代や分野において支配的な規範となる物の見方や捉え方)が違うことに気づいた。
そうしたスタートアップから学び、自社サービスのジャッジの基準に改良を加えたり、時に買収したりすることでライブストリーミング事業を成功に導く。「iモードやiPhoneが出た頃とは全く違う状況で、とてもではないが今のイノベーションはできないという自信喪失の後に外から学ぶことで、オープンイノベーションを成功させた」(原田CSO)のだ。
オープンイノベーションでは投資側から爆発的な成長を期待されがちだが、「ソーシャルゲームのように短期間で成長し、利益率も高いという事業ネタが毎年のように出るわけではない。自分たちで捉えられる範囲で良いスタートアップを手に入れる」(同)とのスタンスでオープンイノベーションに取り組んでいるという。
どの段階のスタートアップを買収するのかも重要だ。原田CSOは「レイターステージで待ち構える大手ファンドと、シードクラスを狙っているべンチャーキャピタルの中間に当たるミドルクラスのGP(General Partner)がいいなと思うタイミングで買収すれば、DeNAに最適なステージで買収できることがある」と話す。
スタートアップ投資でキャピタルゲインの優先度は低い
同社のLP(Limited Partner)投資で期待するリターンで、最もプライオリティーが低いのはキャピタルゲイン(株式の値上がりによって得られる利益)だという。「キャピタルゲインのリターンは運の要素が大きい。LPではトレンド把握や関係構築、M&Aソーシングなどを狙っている」(原田CSO)そうだ。
「スタートアップと接触することにより、若者の間のSNSでの情報交換がインスタグラム経由ではないといった新たな事実が見えてきたり、こちらの既存事業であるゲームなどとのコラボレーションや利用が実現できたりする」(同)ことも。
「パラダイムの世代が違うのだから、スタートアップを古いパラダイムでジャッジせずに『これが正しいのだ』と修正するためにも彼らとの間でトレンド把握や関係構築をしておく必要がある」(同)と、出資による交流と関係づくりの重要性を説いた。
出資後に連結子会社化してリーダーシップを持って取り組む事業と子会社化せずに伸ばしていく事業との線引きについては、「市場が盛り上がっていくところに入らないと勝てない。成長スピードや競争のポイントが不確かな状態で入るため、事業が進んだ時点で都度、DeNA傘下の方が伸びるのかそうでないのか判断する」(同)という。
続くピッチでは企業が大学の部活に小口スポンサーとして出資できるプラットフォームを運営するスポンサーズブーストや、スポーツクラブ・スクールの売上管理・月謝決済・会員管理・連絡網などを一元化できる「スポスルアプリ」を提供するスポスル、ウェルビーイングテック企業のフォレストデジタルが、それぞれのビジネスモデルについて説明し、事業の将来性をアピールしていた。
第18回 Conference of S venture Lab.は1月24日の18時から、「北九州の事業会社が、スタートアップ提携を進めるわけ」をテーマに、北九州市のCOMPASS小倉で開催する。
文:M&A Online