「東京都心からオフィスが逃げ出している」という。2023年8月時点で都心のオフィスビル空室率が過剰供給の指標とされる5%を31カ月連続で上回っているからだ。ポストコロナで在宅のリモートワークからオフィス勤務へのUターンが進んでいるにもかかわらず、空室率の改善は今ひとつ。このまま東京都心のオフィス需要は低迷し続けるのか?

富士通、横浜ゴム。LIXIL…本社移転が続々と

富士通<6702>は9月22日、汐留シティセンター(東京港区)にある本社を、川崎市の川崎工場などに移転すると発表した。コロナ禍に導入したリモートワークが定着し、オフィスを維持する必要がなくなったのが理由。都心のオフィス契約を解除することでコスト削減を図る。

2023年3月には横浜ゴム<5101>が、本社機能を東京都港区から神奈川県平塚市の平塚製造所に移転。LIXIL<5938>は2022年12月に東京都江東区のWINGビルから東京都品川区の住友不動産大崎ガーデンタワーへ「都心内移転」すると発表した。ただし、オフィス面積を約10分の1に削減する大幅なダウンサイジングとなる。

「効率が悪い」「社内コミュニケーションに問題がある」とオフィス回帰を進める企業がある半面、リモート勤務を継続して固定費であるオフィス賃料の削減に踏み切る企業も増えているのだ。

それどころか「取引先にリモートの抵抗感がなくなり、リモート営業も当たり前になった。その結果、営業で接触できる企業数が対面よりも飛躍的に増えて売上増につながっている。出張費などのコストも削減できた」(製造業支援会社管理職)との声もあり、リモート化の流れが加速する可能性も高い。


都心のオフィス空室率はわずかながら改善の方向へ

では、現実に都心からのオフィス離れは加速しているのか。オフィス仲介業の三鬼商事(東京都中央区)によると、8月の東京都心(千代田区、中央区、港区、新宿区、渋谷区)におけるオフィス空室率前月比0.06ポイント減の6.4%と、2カ月連続で減少した。前年同月比では0.09ポイント減と、わずかながら持ち直している。

中央不動産鑑定所(東京都中央区)が実施したオフィス解約・移転事例分析によると、2021年10月から2022年9月までは4カ月当たり100件程度で推移していたが、同10月〜2023年1月は82件、同2月〜5月は83件と落ち着いてきた。同期間の個別案件では、移転先でオフィスを減床している事例は16件だったが、逆に増床している事例は20件と4件上回っている。

減床の理由で最も多かったのがコスト削減だったのに対し、増床の理由は社内コミュニケーションの活性化や業務効率と生産性の向上、企業ブランド力や人員増などだった。リモート勤務志向かオフィス勤務志向かで、企業の対応が分かれるようだ。

東京都心のオフィスビルは2023年に前年比2.7倍の130万平方メートル、2年後の2025年には141万平方メートルが供給される見通しだ。オフィスの供給増に、企業の需要が追いつけるかどうかだ。そのカギとなるのは一時は6割を超えたリモートワーク実施率が、現在の約45%からどう動くかにかかっている。もっともリモートワーク実施率が減少しても、求人難で社員を確保できなければ人員減となりオフィス需要は伸び悩む。

一方で、需要が減少すればオフィス賃料が下がり、オフィスの都心への回帰や進出の誘因にもなる。様々な要因が絡むため、今後の予測は難しい。

2023年2〜5月の主なオフィス削減案件

社 名旧オフィス所在地旧オフィス面積(㎡)移転先新オフィス面積(㎡)概 要
日本総合研究所(日本総研) ガーデンシティ品川御殿山(品川区北品川) 13,101 オフィス縮小・返却
日本マイクロソフト 品川グランドセントラルタワー(港区港南) 11,550 オフィス縮小・返却
シスコシステムズ ミッドタウン・タワー(港区赤坂)   5,610 オフィス縮小・返却
ファーストリテイリング ミッドタウン・タワー(港区赤坂)   3,231 Dプロジェクト有明(江東区有明) 賃貸済みの物件へ移転集約
佐賀銀行 銀座ファーストビル(中央区銀座)     759 住友不動産日本橋ビル(中央区日本橋本町)    495 縮小移転
TOKAIホールディングス 浜離宮インターシティー(港区海岸)     700 汐留ビルディング(港区海岸)    405.9 賃料コスト削減

(移転発表を含む、中央不動産鑑定書調べ)

文:M&A Online