富士通<6702>が英国で批判の矢面に立っている。英子会社が納入した郵便事業者向け会計システムに欠陥があり、英郵便会社とフランチャイズ契約を結んでいた関係者数百人が不正会計や横領罪で訴追され、破産や自殺などが相次いだ。年始に現地テレビ局が「英史上最大規模の冤罪」と呼ばれている同事件をドラマ化し、世論の批判が富士通に向かっているという。
トラブルを起こしたのは、富士通が買収する前のICL
もっとも欠陥があった会計システム「ホライゾン」は、日本の富士通が開発したのではなく、英International Computers Limited (ICL)が1996年5月に受注し、2000年頃に納入した。ただ富士通は1990年にSTC plcからICL株の80%を12億9000万ドル(約1877億円)で取得し、子会社化。1998年に完全子会社化し、2002年にはICLブランドを廃止した。
そのため日本の富士通が損害賠償責任を問われなくても、英子会社が賠償命令を受ければ業績に影響するのは避けられない。ICLは英国政府との関係が深く、公共部門から多くの情報システムを受注してきた。「ホライゾン」もそうだが、英治安判事裁判所の事案管理ソフトウェア「リブラ」や歳入税関庁、労働・年金省の情報システムなど、富士通なしには政府系ITシステムが回らないと言えるほど依存度が高い。
富士通が恐れるのは「ホライゾン」の損害賠償金支払いよりも、英公共部門のIT調達から排除されることだろう。そうでなくても英子会社は国民保健サービス(NHS)のデジタル化で納期遅れが度重なり、契約を打ち切られている(これに対して富士通側は違約金訴訟を起こし、英国政府から7億ポンド=約1298億円の支払いを受けた)。さらに「ホライゾン」の欠陥騒動で英国で批判が高まれば、英公共部門のIT調達から外されるリスクもある。
日本企業には荷が重い欧米企業のPMI
海外子会社に頭を痛めてきた日本企業も少なくない。とりわけ欧米先進国の企業を買収した場合は、現地子会社の主導権を握れず、現地任せにした結果、経営が立ち行かなくなったり、致命的なミスや不正を招いたりする悲劇もあった。
つまり、PMI(M&A後の経営統合プロセス)の失敗だ。英BBCによれば、2004年から2008年まで英国子会社の社長だったデイヴィッド・コートリー氏の口癖は「Keep Japan out(日本には言うな)」だったという。親会社の富士通に気づかれなかったことで、「ホライゾン」のトラブル対応が後手に回った可能性もある。
東芝が買収した原子力関連子会社の米ウエスチングハウス(WH)は、多額の簿外債務を抱えて経営破綻。そのあおりを受けて債務超過状態となった東芝が、上場廃止を回避するためにアクティビストから出資を仰ぐ。最終的には再建策が二転三転した後、2023年12月にTOB(株式公開買い付け)で上場廃止となった。
「ホライゾン」問題がWHのように親会社の屋台骨を揺るがすほどの大打撃になることはないだろうが、買収した英子会社がお荷物と化す懸念はある。英公共部門からの発注が打ち切られれば、現地に子会社を持ち続ける意味はない。子会社が英国政府との信頼関係を維持できるかどうかがカギとなる。さもなくば富士通が見限って、英子会社を売却することになるかもしれない。
文:M&A Online