この記事は2024年4月26日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「再選濃厚なモディ政権に影が差すインド経済減速要因」を一部編集し、転載したものです。


再選濃厚なモディ政権に影が差すインド経済減速要因
(画像=EmmaStock/stock.adobe.com)

(IMF「World Economic Outlook Database」)

4月19日にインドで下院総選挙の投票が始まった。6月1日まで地域によって7回に分けて実施され、6月4日に一斉開票される。下院で多数派を占める政党から次期首相が選出されるため、総選挙は有権者が政権を選択する重要な政治イベントに位置付けられる。

総選挙の争点は2期10年続いたモディ政権に対する評価だが、情勢はモディ首相率いるインド人民党(BJP)が優勢だ。過去半年間に実施された世論調査を見ると、今回の総選挙はBJPを中核とする与党連合「国民民主同盟」(NDA)が下院で過半数を確保すると予測されている。

モディ政権が高い支持を集める背景には、堅調な経済と宗教色の強い政策の実施がある。モディ政権は2014年の発足時から「メイク・イン・インディア」を掲げて海外からの投資誘致に取り組み、行政手続きのデジタル化、複雑な税制の簡素化などの改革を推し進めてきた。コロナ禍以降は新たな補助金制度を導入して製造業振興策をてこ入れし、半導体の国産化にも注力している。

インドの実質GDP(国内総生産)成長率はコロナ禍の全土封鎖で大きく落ち込んだが、21年度にはコロナ禍前の水準に回復。その後は主要国で最も速く7%程度の高成長となり、その後も勢いを維持している。国際通貨基金(IMF)によると、名目GDPは今後数年で日本とドイツを抜いて世界3位となり、29年には6兆ドルに達する見通しだ(図表)。

モディ政権は、今年1月にはインド北部アヨーディヤにヒンズー教のラム寺院を建立し、前回総選挙の公約を達成した。ラム寺院は、ヒンドゥー教徒とイスラム教徒が所有権を争い、1992年には全国的な暴動が起きた宗教間対立の象徴ともいえる土地に建てられた。こうしたモディ政権のヒンズー教至上主義の政策が、国民の約8割を占めるヒンズー教徒から支持されている。

モディ政権が下馬評どおり3期目に突入すれば、積極的なインフラ投資や補助金制度などの製造業振興策を継続し、投資主導の成長を目指すとみられる。BJPの選挙公約を見ると、インド西部で進める高速鉄道計画を北部や南部、東部にも拡大するなど、全土でのインフラ整備を柱に掲げている。企業寄りの政策を重視するモディ政権の継続が決まれば、民間企業が早いタイミングで投資を再開することが予想される。

しかし筆者は、総選挙後にモディ政権による経済改革が加速するとは考えにくいとみている。労働市場の柔軟化が期待される「改正労働法」は州政府との関係から施行が遅れており、土地収用や農業の改革も上下院の“ねじれ”により再開が見通せないからだ。

モディ政権の行き過ぎた宗教色や保護貿易主義が加速すれば、「ビジネスの難しい国」として、海外からの投資マネーが他国に流れてビジネスや雇用の機会が広がらなくなる恐れもある。米中に次ぐ世界第3位の大国に躍進した後も成長を続けるには、3期目入りが濃厚なモディ政権の手腕にかかっているといえよう。

再選濃厚なモディ政権に影が差すインド経済減速要因
(画像=きんざいOnline)

ニッセイ基礎研究所 准主任研究員/斉藤 誠
週刊金融財政事情 2024年4月30日号