合成ゴムやリチウムイオン電池材料などを手がける日本ゼオン<4205>がCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)の活動を活発化させている。

同社は2021年に米シリコンバレーに投資子会社「Zeon Ventures」を設立し、スタートアップへの投資を開始。2022年に1社に、2023年に4社に投資を行い、2024年はペースを上げ3月までにすでに2社への投資を実行した。

また、こうしたスタートアップなどとの共創を促進することを目的に、2026年度中に川崎工場と総合開発センターの敷地内(川崎市)に、社外の企業が利用できる「共創イノベーション施設」を建設し、世界中の顧客やパートナー企業と連携して新製品開発を加速するという。

日本ゼオンのこうした取り組みの成果はどのような形で表れてくるだろうか。

電池や脱炭素など米企業7社に投資

日本ゼオンは2030年を最終年とする10カ年の中期経営計画STAGE30で、温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させるカーボンニュートラルと、製品や資源の価値を長く保全、維持し、廃棄物の発生を抑えるサーキュラーエコノミーの実現を目標に掲げている。

Zeon Venturesは、この方針に沿って設立された企業で、新規事業の探索の一環として成長分野のスタートアップに対し、5000万ドル(現在の為替レートで75億円)規模の投資を行っている。

投資先は「医療・ライフサイエンス」「CASE(自動車次世代技術)・MaaS(交通手段の統合)」「情報通信」「省エネルギー」の4分野が中心で、2022年にリチウムイオン電池の電極製造プロセスを開発する米国のAM Batteriesに初めて投資。

その後、カーボンニュートラル関連の米Visolis、アンモニア関連の米AMOGY、グリーン水素関連の米Verdagy、電池関連の米Mitra Chem、光関連の米Syzygy Plasmonics、電池関連の米Coreshell Technologiesにそれぞれ投資してきた。

商業化に向け覚書を締結

また2023年投資したVisolisとは、日本ゼオンがバイオイソプレンモノマーと持続可能な航空燃料(SAF)などの商業化を促進するための覚書を締結した。

バイオイソプレンモノマーとSAFは、Visolis の技術を活用してバイオマス原料を元に生物反応(発酵)と化学反応を組み合わせて製造するもので、カーボンニュートラルの実現に貢献することが期待さている。

今後、商業化の実現可能性を調査するとともに、バイオ材料に対する高いニーズがある靴やタイヤなどの市場についても評価用製品サンプルの提案を始めるとしており、CVCの成果が近づきつつある。

こうした成果の創出を加速するために共創イノベーション施設の建設を決めており、顧客やスタートアップとの共創のほか、工場と研究所の社員が同じフロアで執務することで、新たな技術や製品の開発を促進するという。

日本ゼオンでは同施設が「イノベーションの創出に向けた挑戦への象徴的な存在になる」としている。 

日本ゼオンのCVC「Zeon Ventures」の出資先
2022 リチウムイオン電池の電極製造プロセスを開発する米国のAM Batteriesに投資
2023 カーボンニュートラルに資する生産技術、製品を開発する米国のVisolisに投資
2023 アンモニアのエネルギー変換モジュールシステムを開発する米国のAMOGYに投資
2023 費用対効果の高いグリーン水素電解技術を開発した米国のVerdagyに出資
2023 リン酸鉄リチウム電池向けの正極材料を開発する米国の Mitra Chemに投資
2024 光を用いて化学反応を促進させる技術を開発する米国のSyzygy Plasmonicsに投資
2024 リチウムイオン電池の電極をナノ層で被覆する技術を開発する米国のCoreshell Technologiesに投資

*Zeon Venturesの公表資料より作成

文:M&A Online