この記事は2024年5月28日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「生産設備更新や耐久消費財の買い替えを促す中国政府の狙い」を一部編集し、転載したものです。
中国の国務院(日本の内閣に相当)は3月13日、「大規模な設備更新と消費財の買い替えを推進する行動計画」(行動計画)を公表した。
この計画の内容を見ると、まず投資関連では、2007年までに主要産業の設備投資額を23年に比べて25%以上増加させることを掲げた(図表)。また、重点産業のエネルギー効率を高めることや、企業のデジタル設備の普及率を向上させることも目標として示した。一方、消費関連では、自動車や家電製品の買い替えを促すため、全国規模で補助金の支給を実施する方針を打ち出した。
その後、中央政府は、企業が更新すべき設備の内容を具体的に示したほか、耐久消費財の買い替え促進策の策定を各地方政府に対して指示するなど、行動計画の達成に向けて積極的な取り組み姿勢を見せている。このように中国政府が「行動計画」を推進する背景には、主に二つの理由がある。
一つ目が、国内需要の拡大による景気の底上げである。行動計画の公表に先立って、3月5日の全国人民代表大会(全人代)では、24年の実質GDP(国内総生産)成長率の目標を「5%前後」とし、経済成長を最重視する方針を示した。
しかし、足元の中国経済は、住宅販売の大幅な減少が続き、個人消費も減速するなど、景気回復の動きは依然として鈍い。この状況が今後も続いた場合、成長率の年間目標の達成が難しくなる。このため、設備投資などを一段と促進することで、経済成長を支える必要性が高まっている。
二つ目が、産業競争力の向上である。近年、中国国内の人件費上昇などを背景に、衣料品などの分野では価格競争力が維持できなくなり、より付加価値の高い産業の育成が急務となっている。このため、デジタル化の推進により機械産業の国際競争力を高めることなどで、中国の産業構造を全体的に高度化しようとする政府の意図が透けて見える。
政府が企業設備の更新や耐久消費財の買い替えを促進するなか、今後、中国では輸送用機械や電気機械など幅広い産業で設備投資需要の増加が見込まれる。それとともに、自動車や家電などの耐久消費財の需要も拡大することになろう。こうした需要の拡大が、工作機械や半導体関連財などの分野に強みを持つ日本企業に幅広い商機をもたらすと期待される。
ただ、米バイデン政権は、米国政府が中国企業に対して実施しているハイテク関連分野の制裁措置について、日本も歩調を合わせて実施することを強く求めている。今回の中国の行動計画に関連するビジネスに取り組む際には、日本企業は米国政府の規制に抵触しないよう十分に注意を払う必要があろう。
浜銀総合研究所 調査部 主任研究員/白 鳳翔
週刊金融財政事情 2024年5月28日号