健康食品ブームがM&Aを創出

2位はロート製薬がシンガポールの漢方薬大手、ユーヤンサンを三井物産と共同で買収するとした案件で、取引金額は880億円。漢方、サプリメント、食品と幅広い生薬由来の商品を手がけるユーヤンサンを取り込み、アジア地域での成長加速につなげるのが狙い。ロート製薬といえば、目薬で有名だが、今や主力はスキンケア商品であり、今後はフィジカル、メンタルほか社会的にも健康的な状態で人生を過ごす「well-being」をテーマに事業を展開。そのために、食品事業を第三の事業の柱に据えるべく、健康食品、サプリメントに力を入れていく。

この領域はコロナ禍により、健康意識の高まりから全世界的に市場が拡大しており、昨年4月にキリンホールディングスが豪州で健康食品事業を展開するブラックモアズを約1700億円買収を発表し、その後子会社化している。この領域をターゲットに医薬品、食品業界が入り乱れてM&Aを活発化させそうだ。

需給変動と技術開発への対応が求められる半導体業界

3位は信越化学工業が半導体シリコンウエハーの鏡面研磨加工を手がける三益半導体工業をTOBで子会社化するとした案件。取引金額は680.43億円。三益半導体は長年、信越化学のシリコンウエハー加工を受託し、2005年には業容拡大を目的に持ち分法適用関連会社化した。

シリコンウエハーの製造において、信越化学は世界ナンバーワンのシェアを持つが、それでもなお、移り変わりの激しい需給環境や技術開発の高度化が求められる同業界において、人材や経営資源の有効活用を進め、強固な経営基盤を築く必要があると判断した。

IT人材獲得が目的の案件も注目

注目案件は、NTTデータグループによるソフトウエア開発のジャステックの子会社化。TOBによる子会社化で買付代金は最大で342.4億円。現在、全世界的にIT人材が不足しており、同グループではかねてより国内外の人材の獲得を経営課題としてきた。今回の子会社化もエンジニアリソースの獲得が業界ポジションの維持・基盤の強化に欠かせない状態になっており、人材獲得がひとつの目的となっている。

IT人材の不足は政府も課題視しており、経済産業省が公表した「IT人材需給に関する調査」によると、2030年のIT供給人材は113万人とするが、79万人の人材が不足する事態も予測されている。

こうした状況を先読みして、国内でもIT人材に関するM&Aが毎月のように発生している。4月だけを見ても、Orchestra HoldingsがITエンジニアの獲得を目的にエー・アンド・ビー・コンピュータ(東京都港区)からSES(システムエンジニアリングサービス)などの事業取得を発表(5月2日に中止を発表)。No.1がITエンジニア派遣やシステム開発を手がけるOZ MODE(東京都渋谷区)の子会社化を決めている。IT人材をキーワードにしたM&Aは金額面で目立たないものの、注目すべき分野だ。

◎4月M&A:金額上位

1 小野薬品工業 米デシフェラ・ファーマシューティカルズをTOBで子会社化 3760億円
2 ロート製薬 シンガポールの漢方薬大手ユーヤンサンを子会社化 880億円
3 信越化学工業 シリコンウエハー研磨加工の三益半導体工業を子会社化 680.4億円
4 電源開発 オーストラリアの再エネ企業、ジェネックス・パワーを子会社化 346.7億円
5 NTTデータグループ ソフト開発のジャステックをTOBで子会社化 342.4億円
6 イオン北海道 西友から北海道のスーパー事業を取得 170億円
7 ヒューリック 受験塾運営のリソー教育を子会社化 160.2億円
8 ホシザキ フードサービス機器輸入販売のフィリピン最大手TLXなど2社を子会社化 113.8億円
9 東洋エンジニアリング ブラジルのエンジニアリング企業TSPI株を追加取得で子会社化 100億円
10 電通総研 Webサイト構築・運用のミツエ―リンクスを子会社化 84.1億円
11 ノーリツ鋼機 子会社のプリメディカをメディパルホールディングスに譲渡 38億円
12 タスキホールディングス 資産コンサルティングベンチャーのオーラを子会社化 23.4億円
13 TBSホールディングス 米コンテンツ販売代理店、ベロン・エンターテインメントを子会社化 16.2億円
14 ジーニー デジタルPR事業のソーシャルワイヤーを子会社化 13.2億円
15 トゥエンティーフォーセブン 英会話事業「NOVA」を傘下に持ついなよしキャピタルパートナーズによるTOBを受け入れ 12.9億円