総括
FX「新政権への強権不安、景気減速、利下げ議論、財政赤字拡大懸念で売り込まれる」メキシコペソ見通し
予想レンジ 8.4-8.9
(ポイント)
*新政権、与党モレナによる強権的憲法改正懸念を市場は嫌いペソ下落
*財政赤字拡大、景気減速、利下げ議論で選挙前から下落
*ニアショアリングによる景気拡大基調は変わっていないが、1Qの景気減速が不安
*2Q以降は再び景気回復か
*4Qには米大統領選。トランプ不安はある
*政府は混乱を沈静化する発言を行なった
*メキシコの格付けはジャンク債の手前だ
*中銀は6月利下げ議論開始示唆も、5月前半消費者物価は高止まり
*移民と郷里送金でメキシコは米国に大きく依存
*年間首位から9位へ後退
*米墨インフレ格差、金利差、景況感格差の指標でデコボコな動き
*トランプ大統領候補の有罪判決はメキシコにどう影響するか
*中銀四半期報告書ではインフレ予想を引き上げ
*IMFに下方修正されたGDPが重し
*フィッチ、メキシコの2024年の成長予測を2.2%に下方修正
*メキシコで鳥インフルによる死者確認=WHO。猛暑も懸念
(与党連合が選挙圧勝、財政赤字拡大懸念でトリプル安)
6月2日の大統領選挙は予想通り、シェインバウム氏の勝利となり、メキシコ史上、初の女性大統領が誕生した。現在のAMLO大統領の後継者で、社会保障や治安政策などを継続する。しかし、市場の反応は厳しく、ペソ、株、債券が大きく売られた。AMLO大統領の政策を引き継ぐと財政赤字が膨らみ、格下げにも繋がると判断された(5月24日号既述だが後述します)。圧勝で独断的な憲法改正も可能になったことで国営企業への支出も継続出来、財政赤字が拡大することも危惧された。
ペソは選挙後6.49%安、先週末の年間3位から9位へ後退した。ボルサ株価指数は年初来5.07%安。10年国債は一時10.3%へ上昇したが利下げ観測もあり昨日は10.1%へ低下。
(6月6日、再びペソを下落させたミエル与党議員の発言)
メキシコ与党が、AMLO大統領が提案した一連の改革案の可決を目指すと述べたことを受けて、メキシコペソは下落した。
ミエル議員らは、新議会が開かれる9月に投票できるよう改革に関する議論を開始したいと、Xの動画で述べた。シェインバウム新大統領が就任して軌道にのるまで波乱は続きそうだ。
市場は新政権が経済に対する政府の介入を強め、与党の権力へのチェック機能を排除することを懸念している(シェインバウム氏は否定している)。
これはメキシコの資産全体に衝撃を与え、資産運用会社は急いでペソへのエクスポージャーを削減した。投票後の反応は、投機筋によるペソの過剰保有を考えると、ストップロスの波によってさらに悪化した可能性が高いと見られている。
AMLO大統領が表明した改革案の可決に向けた動きにより、与党がさらに過激な措置を取る可能性があるとの懸念も高まっている。
投資家にとって最も懸念される改革には、現在の最高裁判所を選挙で選ばれた判事に置き換える法案、選挙法の見直し、自主規制機関の廃止などが含まれる。政府に多くの権力が集中することを市場は嫌う。
(次期政権が選挙後の市場混乱に対し安定化発言するも、昨日巻き戻し)
シェインバウム次期大統領は選挙の圧勝が金融市場を揺るがしたことを受け、ラテンアメリカ第2位の経済大国の安定を確実にすると投資家らに保証した。ラミレス財務大臣は投資家に対し、「われわれのプロジェクトは財政規律に基づき、メキシコ中銀の独立性を尊重し、法の支配を順守し、国内外の民間投資を促進するものである」と述べた。
政府は「マクロ経済の安定」と「財政の健全性」という優先事項を守るため、投資家や格付け機関と連携していくと付け加えた。 投資家らがこの発言を歓迎し6月4日。5日はメキシコ金融市場は回復したが、昨日のミエル議員の与党の権力強化を目指す発言で、投資からは失望しペソは再び売られた。
(トリプル安を招いたのは財政赤字拡大懸念)
フィッチは次期政権について、財政赤字の拡大による公的債務拡大を含め、ソブリン信用格付けを巡る3つの主要リスクを指摘した。
残り2つのリスクとして、経済成長を損なう政策が行われる可能性と、選挙圧勝で憲法改正も可能となり統治体制と法の支配が劣化する可能性を挙げた。
AMLO大統領は任期最初の5年間に財政規律を守る政策を行ったが、6年目の今年は財政赤字の対GDP比率が、昨年と一昨年の4.3%から5.9%に拡大する見通しとなっている。
フィッチは「長期的なリスクをもたらしかねない相当に高水準の赤字だ。次期政権であと数年間この状態が続けば、間違いなく信用に悪影響を及ぼす」と述べた。
フィッチのメキシコの格付けは「BBB-」でジャンク債の1歩手前、S&Pは「BBB」、ムーディーズは「Baa2」でジャンク債の2歩手前、見通しはいずれも「安定的」。
(メキシコ中銀、インフレ予想上方修正 物価状況踏まえ金利を調整)
中銀はインフレ率目標を3%(プラスマイナス1%)としている。 中銀は現在、2024年4Qの平均年間インフレ率が4.0%になると見込んでいる。2月の前回報告書では3.5%と予測していた。
年間コアインフレ率の予想は前回の3.5%から3.8%に引き上げた。コアインフレ率は5月上旬時点で4.31%だった。 中銀は報告書で「理事会はインフレ圧力を注意深く監視し、今後はインフレ見通しを評価して政策金利の調整について議論する」と説明した。
それでもロドリゲス総裁は6月27日の理事会で利下げの議論も行うとしているが、その前に発表される5月と6月前半の消費者物価次第だろう。