海運国内首位の日本郵船<9101>が、子会社の郵船ロジスティクス(東京都品川区)のオランダ法人Yusen Logistics(Benelux)を通じて、自動車部品の配送を手がけるオランダの物流会社Parts Expressを買収した。
日本郵船は2027年3月期を最終年とする4カ年の中期経営計画で、中核事業である物流事業の強化を打ち出しており、今回の買収はこの一環。
2023年2月に買収した米国の物流会社Taylored Services Parent、2024年2月に買収したEC(電子商取引)向け配送事業を手がける英国のNoel Topcoに次ぐもので、同社では「成長エンジンである物流事業への積極投資を続ける」とさらなるM&Aに意欲を見せている。
さらに中期経営計画では中核事業の強化に加え、「M&Aで新たな安定成長事業を創出する」ともしており、4年間でM&Aなどに1400億円を投じる計画。今後は中核事業とともに、新規の分野でもM&Aの出番が増えそうだ。
運搬の難しい部品配送に特化
Parts Expressは1892年設立の老舗企業で、従業員600人ほどで約400台のトラックを運行し、クロスドックサービス(荷受けした商品を検品、仕分けを行った後、そのまま配送先に出荷するサービス)や夜間配送サービスなどを行っている。
自動車の窓ガラスやマフラーなど破損しやすい補修用部品や、運搬が難しい部品の配送に特化しており、自動車補修用部品の配送ではベネルクス(ベルギー、オランダ、ルクセンブルク)でトップのシェアを持つという。
日本や欧米、韓国などの自動車メーカーや部品メーカーが顧客で、オランダに5カ所、ベルギーに4カ所の拠点がある。
買い手となったYusen Logistics(Benelux)は、ベネルクスを中心に自動車やヘルスケア、小売り向けの物流事業を展開しており、Parts Expressを傘下に収めることで重点事業に位置付けている自動車分野での物流を強化する。
売却から買収に転換か
日本郵船の中期経営計画では、中核事業として物流事業のほかにコンテナ船と不定期専用船の3事業を上げており、今後これら分野での投資をはじめ、新規事業や新規の市場・顧客の領域でも積極的な投資を計画している。
またM&Aについては「低・脱炭素輸送」「船舶再資源化」「LNGバリューチェーン」「サプライチェーン最適化」などの新技術、新サービス分野での活用を見込んでおり、中核事業、新市場、新技術など全ての分野で4年間に1兆2000億円の投資を見込む。
同社のM&Aに関する適時開示情報によると、2009年に太平洋海運を子会社化したあとは、売却が続いており、2015年の客船事業のCrystal Cruisesから、2023年の日本貨物航空まで売却は5件に達する。
この間のM&Aは、2016年に日本郵船、商船三井、川崎汽船の3社の定期コンテナ船事業を統合した案件のみで、買収はなかった。
現中期経営計画が進むにつれて、適時開示を含めた買収案件が増えていく可能性は高そうだ。
開示年月 | 日本郵船の適時開示M&A |
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2009年5月 | 太平洋海運を子会社化 |
2015年3月 | 客船事業のCrystal Cruisesを香港企業に譲渡 |
2015年6月 | 船舶用燃料噴射系装置メーカーの日本ノッズル精機をダイハツディーゼルに譲渡 |
2016年10月 | 日本郵船、商船三井、川崎汽船の定期コンテナ船事業を統合 |
2019年1月 | 客船子会社・郵船クルーズの株式50%を船舶投資ファンドに譲渡 |
2021年5月 | 郵船不動産を日本郵政傘下の日本郵政不動産に譲渡 |
2023年3月 | 日本貨物航空をANAホールディングスに譲渡 |
文:M&A Online