この記事は2024年6月21日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「相次ぐ自動車の認証不正問題で高まる生産の先行き不透明感」を一部編集し、転載したものです。


相次ぐ自動車の認証不正問題で高まる生産の先行き不透明感
(画像=IvanKurmyshov/stock.adobe.com)

(経済産業省「鉱工業指数」)

鉱工業生産は、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて緊急事態宣言が発令された2020年春に急速に落ち込んだ後、持ち直しの動きが続いた。しかし、21年後半以降は増産と減産を繰り返し、一進一退の局面から抜け出せていない。24年1~3月期の鉱工業生産は前期比▲5.2%となり、四半期ベースの落ち込み幅は20年4~6月期(前期比▲15.1%)以来の大きさとなった(図表)。

1~3月期の大幅減産は、半導体不足等による供給制約の緩和を受けて増産が続いていた自動車が、23年12月に発覚したダイハツの認証不正問題に伴う出荷停止の影響で前期比▲17.3%と急速に落ち込んだことが主因である。ダイハツの出荷停止が順次解除されたことで、3月の自動車生産は前月比9.9%の高い伸びとなり、4~6月期には自動車が生産の牽引役となることも期待されていた。

しかし、4月の自動車生産は前月比▲0.6%のマイナスと低調に沈んだ。さらに、6月にはトヨタやホンダなどで新たに認証不正問題が発覚した。全車種の出荷が停止されたダイハツと異なり、今回の出荷停止は一部の車種に限られるが、自動車は鉱工業全体の1割強を占めるほか、他産業への波及も大きい。4~6月期は2四半期ぶりの増産が見込まれるものの、1~3月期の落ち込みを取り戻すことは難しくなってきた。

鉱工業生産は景気との連動性が高い。実際、景気基準日付は主として景気動向指数(一致指数)のヒストリカルDIを用いて決定されるが、一致指数を構成する10系列のうち4系列が鉱工業指数の関連指標となっている。景気動向指数(CI一致指数)の基調判断は、23年4月から9カ月連続で「改善」となっていたが、24年1月に「足踏み」に下方修正され、2月には「下方への局面変化」へとさらに下方修正された。「下方への局面変化」は、事後的に判定される景気の山がそれ以前の数カ月にあった可能性が高いことを示す。

企業の生産計画を反映する製造工業生産予測指数は、5月に前月比6.9%の高い伸びとなっている。生産が計画どおりに増加すれば、景気動向指数の基調判断は「下げ止まり」へと上方修正される可能性があるが、実際の生産は計画を大きく下回る傾向がある。5月以降も生産の低迷が続くようであれば、基調判断が景気後退の可能性が高いことを示す「悪化」へとさらに下方修正されるリスクも増す。

株価は24年春にバブル期を上回る最高値を更新したが、実体経済は停滞が続く。景気後退が回避されるかを見極める上で、鉱工業生産の先行きが注目される。

相次ぐ自動車の認証不正問題で高まる生産の先行き不透明感
(画像=きんざいOnline)

ニッセイ基礎研究所 経済調査部長/斎藤 太郎
週刊金融財政事情 2024年6月25日号