この記事は2024年6月28日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「20年で様変わりした漁獲量、水産国・日本が直面する海洋異変」を一部編集し、転載したものです。


20年で様変わりした漁獲量、水産国・日本が直面する海洋異変
(画像=9kwan/stock.adobe.com)

(農林水産省「海面漁業生産統計調査」ほか)

今年6月7日の国際連合食糧農業機関の公表によれば、2022年における世界の漁業・養殖業の生産量(藻類や海洋哺乳類を除く)は約1億8,540万トン。そのうち、海面漁業の生産量は43.0%である。一方、今年5月末に農林水産省が公表した最新の「海面漁業生産統計調査」によれば、23年における日本の漁業・養殖業の生産量(海藻、海洋哺乳類を除く)は337万トン(前年比▲4.7%)で、そのうちの8割を海面漁業が占める。日本は、海洋の影響を漁業・水産加工業の生産活動や食料調達の面で受けている。今回は、00年と23年の日本の海面漁業を比較分析したい。

23年のデータを魚種別に見ると、イワシ類が約3割と、最も割合が高い(図表)。その後、貝類やサバ類と続く。00年と比べても、イワシ類が1位を占めるのは変わらない。だが、イカ類は4万6,500トンへ大幅に減少し、ランキング外に転落している。イカ類は、世界的にもその資源量が減少していると国内外の科学者に指摘されている。特にスルメイカの生産量の減少は著しく、21年に水産庁が設置した「不漁問題に関する検討会」では、サンマやサケと共に不漁要因と対策が話し合われた。

一方、イワシ類の生産量は増加が続いており、なかでもマイワシは1995年以来の高水準となっている。ただ、マイワシと並んで流通量が多いカタクチイワシは低迷している。マイワシやカタクチイワシ、マサバは、餌となる動物プランクトンを巡って競合関係にあり、マイワシが繁栄しているときは、競合する他魚種の資源状況は芳しくない場合が多いといわれる。

80年代から90年代にかけてマイワシの資源量は高水準にあり、その漁獲は日本全体の漁業生産量を押し上げていた。国立研究開発法人である水産研究・教育機構は、当時、マイワシの産卵場の拡大があったが、現在はまだ見られていないとしている。そのため、今回も過去のような現象が起こり、さらなる豊漁となるかは不確実である。

2017年8月から始まった黒潮の大蛇行はいまだに続いており、日本近海における海水温の上昇率は世界平均よりも高く推移している。海水温の変化は、漁場の形成様式にも大きく影響する。加えて、能登半島地震など規模の大きい災害だけでなく、各地で豪雨後の淡水や土砂流入による漁場環境の悪化などの事象もたびたび発生している。魚の北上、小型化、旬のズレなどの報道もよく耳にする機会が増えた。

海洋の影響を大きく受ける日本は、こうした異変にどう対応していくべきか。海に続く陸地の在り方も含めて、真剣に考えていく必要がある。

20年で様変わりした漁獲量、水産国・日本が直面する海洋異変
(画像=きんざいOnline)

農林中金総合研究所 リサーチ&ソリューション第2部 主任研究員/田口 さつき
週刊金融財政事情 2024年7月2日号