この記事は2024年7月5日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「共和党トランプ再選に警戒感を強める米国市場」を一部編集し、転載したものです。


共和党トランプ再選に警戒感を強める米国市場
(画像=Johannes/stock.adobe.com)

11月の大統領選挙に向け、バイデン大統領とトランプ前大統領の第1回討論会が6月27日に行われた。選挙結果を左右するスイング・ステートでの支持率で劣勢のバイデン大統領にとっては、形勢逆転に向けた重要なイベントだった。

しかし、討論会直後のCNNの世論調査では、回答者の67%がトランプ氏に軍配を上げた。大統領選での優勢は、同時に行われる議会選挙でも共和党に追い風となる。

今後の米国経済を占う上で、第2次トランプ政権の経済政策の影響をあらためて検討せざるを得ない。トランプ氏の政策主張はインフレ促進的とみるが、その理由は三つある。

一つ目は、移民に対する厳しい姿勢だ。米国の労働市場関連統計を見ると、極めて堅調な雇用増と労働需給の過熱感の後退が共存している。非農業雇用者数は年初来で月間平均24万8,000人増だが、失業率は昨年末の3.7%から今年5月は4.0%とじり高基調であり、平均時給の上昇率も鈍化トレンドにある。

このパズルを説明する要因は、昨年時点では把握できていなかった年間330万人の移民急増(図表)による労働力人口の増加以外に考えにくい。移民の数を絞れば、労働需給の過熱感が再度高まる可能性がある。

二つ目は、広範かつ大幅な関税引き上げだ。全輸入について10%、中国からの輸入については60%の関税を課すのが現在のトランプ氏の主張だ。ここまでやれば最終製品価格に上昇圧力がかかる可能性は高い。

三つ目は、前政権時に実施したトランプ減税の恒久化だ。これは、歳入増加策を講じない限り財政赤字の拡大につながる。トランプ氏は、その原資を関税収入で賄う方針とされる。だが、関税が上がれば輸入は減るので、さらに関税を上げる必要がある。ニューヨーク市立大学大学院センターのクルーグマン教授は、そのスパイラルを勘案した上で、必要な原資を得るためには平均133%の関税が必要となるとの試算を示す。

有権者の間では、トランプ氏の経済政策に関する評価は高いように見える。しかし、前政権時代との環境の違いを考慮する必要がある。

2016年にトランプ政権が誕生した当時は、世界がディスインフレに悩み、米連邦準備制度理事会(FRB)は超緩和状態の金融政策からの脱却を進められずにいた。減税その他のトランポノミクスは当時としては歓迎すべき高圧経済環境をもたらした。だが、今はインフレの鎮静化が遅れ、FRBは引き締め的な金融政策を緩められずにいる。堅調な景気推移を支えてきた個人消費も今年に入って減速感を見せ始めている。

第1回討論会の結果を受け、債券市場はイールドカーブのベア・スティープ化、株式市場は売りで反応している。市場は前回と異なり、トランプ氏の勝利をスタグフレーション的状況の到来を招きかねないと警戒しているようだ。

共和党トランプ再選に警戒感を強める米国市場
(画像=きんざいOnline)

三井住友銀行 チーフ・マーケット・エコノミスト/森谷 亨
週刊金融財政事情 2024年7月9日号