この記事は2024年7月12日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「景況感に改善の兆しも、フランスの政局の行方を市場は警戒」を一部編集し、転載したものです。


景況感に改善の兆しも、フランスの政局の行方を市場は警戒
(画像=niphon/stock.adobe.com)

欧州経済は、ロシア・ウクライナ戦争勃発後のエネルギー価格の高騰をはじめとするインフレの急進や、インフレ抑制のための過度な金融引き締めの影響を受けた停滞から脱しつつある。しかし、いまだに回復の力強さに欠けている点は否めない。

2024年1~3月期のユーロ圏実質成長率は前期比0.3%(年率1.3%)だった(図表)。エネルギー高の影響を大きく受けた22年夏から23年末までほぼゼロ成長だったため、やや改善したといえる。だが、1~3月期の改善はサービス輸出主導であり、内需はごく緩やかな回復にとどまる。景況感にも改善の兆しはあるが、盛り上がりに欠けている。

インフレ率は、原材料価格の下落や経済成長の停滞を受けて趨勢としては低下しているが、賃金上昇圧力が根強く、サービスインフレは粘着的で、インフレ低下ペースが減速している。インフレ率の2%目標は近いが、直近では目標よりやや高い位置で横ばいに推移している。欧州中央銀行(ECB)は、6月に0.25%ポイントの利下げに踏み切ったが、追加利下げの判断は引き続きデータを確認しつつ慎重に行うとみられる。

ECBが6月の理事会で公表した実質成長率見通しは24年0.9%、25年1.4%で、インフレ見通しは24年2.5%、25年2.2%だった。3月時点の見通しは、成長率が24年0.6%、25年1.5%、インフレ率が24年2.3%、25年2.0%であり、それぞれ上方修正したかたちだ。ECBも、ディスインフレ過程が想定どおりに進むのか、まだ十分な確信を持てていないように見える。

こうした状況下で政界に大きな動きがあった。EUでは6月に欧州議会選挙が実施され、結果はおおむね事前予想どおりだったが、フランスのマクロン大統領が選挙結果を受け、フランス下院の解散を決めたのだ。

欧州議会選挙は、フォンデアライエン委員長が所属する中道右派(EPP)が第1党を維持し、中道左派(S&D)がEPPに続き、これに中道リベラル派(Renew)を加えた中道3会派で過半数の議席を確保した。ただし、フランスではマクロン大統領の政党(再生)が所属するRenewが大敗。フランス大統領選でマクロン氏と争ったルペン氏の政党(国民連合)が所属する右派が圧勝していた。

解散を受けて実施された仏下院選挙でも国民連合が議席を伸ばしたが、右派への警戒感もあり左派連合が躍進した。ただし、大統領与党連合も含め単独過半数には届かず、政局の不透明感は増している。経済面では右派と左派共に財政拡大路線を志向する点が懸念される。総選挙に向けて連合を組んだ左派も大きな政府を目指す。

フランスでは、解散決定前から財政指標が悪化しており、解散で財政懸念がさらに高まったことが金利上昇圧力を生んだ。ただし、今後の政策運営には不透明な面が多く、市場も消化し切れていないとみられる。当面は、フランスの政治にも注目が集まるといえよう。

景況感に改善の兆しも、フランスの政局の行方を市場は警戒
(画像=きんざいOnline)

ニッセイ基礎研究所 主任研究員/高山 武士
週刊金融財政事情 2024年7月16日号