この記事は2024年8月2日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「上司と部下で求める“妻”のライフコースにギャップあり」を一部編集し、転載したものです。


上司と部下で求める“妻”のライフコースにギャップあり
(画像=buritora/stock.adobe.com)

(国立社会保障・人口問題研究所「出生動向基本調査」)

昨今では、ダイバーシティー&インクルージョン(D&I)経営の一環として女性活躍の推進が重視されている。もし、いまだに「女性活躍の推進は活躍したい女性たちのための配慮である」と優先順位を低く考えている役員がいるならば、その企業は遅からず若手「男性」人材の採用・定着難に陥るだろう。その理由を解説したい。

国立社会保障・人口問題研究所の継続調査である「出生動向基本調査」は、直近の国勢調査の結果に基づいて設計され、母集団の信頼度が極めて高い(属性の偏りが少ない)アンケート調査である。この調査は独身者調査と夫婦調査に大別されており、国が継続的に実施する、わが国最大の家族形成に関するアンケート調査といえよう。

図表には、出生動向基本調査をもとに、18~34歳の未婚男性が理想とする「パートナーのライフコース」を集計した結果を示した。第9回調査は、現在、政治家や管理職層に多い年齢層の男性が、若かりし頃に理想としていた“妻”のライフコースである。一方、第16回調査は、結婚適齢期にある今の若年男性が理想とする“妻”のライフコースを示している。第9回の調査対象者は、ちょうど第16回調査の若者の父親世代である。

調査によると、父親世代では専業主婦妻と再就職妻が人気で、共に約4割の男性が理想としていた。つまり、今の企業の管理職層や政治家などには、専業主婦かパート妻が理想だと思っている男性が約8割もいることになる。また、子育て期も仕事を辞めずにずっと働く両立妻は不人気で、1割程度の支持に過ぎなかった。

一方、子世代に当たる今の若年男性は、約4割が子育て中もずっと働く両立妻を理想とし、他のライフコースに大きな差をつけてトップの支持率だった。専業主婦を理想とする若年男性は7%で、もはや「若年男性は専業主婦妻アンチ」といってもいい状況である。

こうした世代間の理想妻格差があるにもかかわらず、男性の雇用維持を重視し、女性は補佐的な役割とする従来型の雇用体制を堅持している企業は、若年男性から見れば「結婚したくなる環境にはない企業」に見えてしまう。それが知名度の高い大企業で、現時点では新卒採用ができていたとしても、若手男性社員が理想の妻(彼女)を見つけた途端に「この企業にいると理想の家庭を築けない」と考え、退職に気持ちが傾く可能性が高まっている。

最近は、若手男性が単身赴任の辞令や結婚のタイミングで、妻の離職回避のために退職を申し出る事例を少なからず耳にする。大きな時代変化の潮流を感じる毎日である。

上司と部下で求める“妻”のライフコースにギャップあり
(画像=きんざいOnline)

ニッセイ基礎研究所 人口動態シニアリサーチャー/天野 馨南子
週刊金融財政事情 2024年8月6日号