この記事は2024年8月2日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「低調な個人消費が足かせとなる中国経済」を一部編集し、転載したものです。


低調な個人消費が足かせとなる中国経済
(画像=BigcStudio/stock.adobe.com)

7月15日に公表された中国の2024年4~6月期実質GDP(国内総生産)成長率は、前年比4.7%(前期比0.7%)だった。いずれも1~3月期(前年比5.3%、前期比1.5%)から伸びが鈍化し、市場予想も下回った。需要項目別に見ると、政府が推進する「新質生産力」(新たな質の生産力)の強化を反映した製造業投資の拡大などを背景に、総資本形成は堅調だった。一方で、増勢を落としたのが個人消費を含む最終消費支出だ。

月次で公表される小売売上高の推移を追うと、コロナ前のトレンドを大きく下回っており(図表)、個人消費の足取りは重い。政府は今年3月に「大規模設備の更新と消費財の買い替え推進行動プラン」を打ち出した。すでに自動車や家電を中心とした消費財の買い替えに対し、補助金を支給するなどの購入促進策がスタートしているが、捕捉可能なこれまでの状況を見る限り、需要喚起の効果は薄い。

5月の消費者信頼感指数は86.4ポイントと、好不況の境目となる100を大幅に下回る推移となっており、直近も2カ月連続で低下した。国内の消費マインドは依然として低迷している。若年層の失業率の高止まりからくる根強い雇用・所得不安に加え、不動産価格の下落に伴い、家計で逆資産効果が働いていることが背景にある。

不動産市場の低迷ぶりも深刻だ。住宅販売が落ち込み、在庫が積み上がるなか、6月の新築住宅価格は前月比0.67%下落し、13カ月連続のマイナスとなった。

政府は5月中旬、国有企業を通じた地方政府による住宅在庫買い取り策を目玉とする一連の支援策を打ち出した。しかし、途方もないレベルまで積み上がった住宅在庫に対し、支援規模は不十分とみる向きが多い。

7月15~18日にかけては、中長期の経済運営方針について討議する中国共産党第20期中央委員会第3回全体会議(三中全会)が開催され、不動産や地方政府債務、金融機関など重要分野におけるリスクの予防・解消に注力する方針が示された。この方針では、不動産不況で土地使用権譲渡収入が急減し、財政難に陥っている地方政府の救済を目的に、地方政府の財源を拡充する案が盛り込まれた。一方、目下の不動産不況を打開できるようなめぼしい具体策は見当たらなかった。

今年上半期の実質GDP成長率は前年比5.0%となり、今のところ政府目標と一致している。当研究所では、財政支援を通じた製造業やインフラ投資の拡大などに下支えされ、今年の成長率はかろうじて前年比5.0%で着地できるとみている。しかし、個人消費がさえないなか、不動産市場の低迷長期化や、貿易摩擦の激化による外需失速など、景気の下振れリスクが山積していることを踏まえれば、政府目標の達成は容易でない。

低調な個人消費が足かせとなる中国経済
(画像=きんざいOnline)

明治安田総合研究所 エコノミスト/木村 彩月
週刊金融財政事情 2024年8月6日号