この記事は2024年8月9日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「大企業製造業のマインドは改善も、業種間には温度差」を一部編集し、転載したものです。


大企業製造業のマインドは改善も、業種間には温度差
(画像=PikePicture/stock.adobe.com)

(日本銀行「全国企業短期経済観測調査」)

企業マインドを表す代表的な指標の一つである日銀短観の業況判断DI。企業に対して自社の業況を「良い」「さほど良くない」「悪い」の3択で評価してもらい、そのうち「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた企業の割合を引いた指標である。プラスの値が大きいほど、業績面から評価した企業マインドは明るいと解釈される。

なかでも景気サイクルとの連動性の高さから注目度が高いのが、大企業製造業の業況判断DIだ。今年7月に公表された2024年6月調査では、13ポイントとプラスの値となっている。前回調査(24年3月調査)からも2ポイントと小幅ながら2四半期ぶりに改善しており、総じて見れば大企業製造業のマインドは堅調に推移しているといえよう。

もっとも、同じ製造業の中でも業種間でマインドには温度差が見られる。図表は24年6月調査における大企業製造業の業況判断DIについて、業種別の分布を表したものである。縦軸は19年平均値からの変化幅で、足元の企業マインドがコロナ禍前と比べて相対的に良いのか悪いのかを示している。横軸は前回調査からの変化幅であり、足元で企業マインドが改善傾向にあるのか、悪化傾向にあるのかが分かる。

特にマインドが明るいといえるのは、右上の第1象限である。これは、業況判断DIの水準がコロナ禍前を上回り、さらに足元でも改善傾向にある業種である。素材業種では繊維や石油・石炭製品、化学、加工業種では業務用機械や汎用機械など、多くの業種が含まれており、製造業の平均値もここに位置している。

これと対極的にあるのが、業況判断DIの水準がコロナ禍前を下回り、足元でも悪化傾向にある左下の第3象限に位置する業種だ。鉄鋼と生産用機械が挙げられる。いずれもコロナ禍前の水準を一度は回復したものの、足元にかけて再び悪化しており、中国を中心とした海外景気の減速により需要が低迷している。鉄鋼については、一部自動車メーカーの品質不正問題による自動車向け素材の需要が減っていることもマインド悪化の要因になっているとみられる。

左上の第2象限に位置する自動車や食料品、右下の第4象限に位置する電気機械も、マインドは力強さを欠いている。自動車は相次ぐ品質不正問題、食料品は価格転嫁の一服、電気機械は電子部品の在庫調整などが下押し材料となっていると思われる。

景気の「気」は、気持ちや気分の「気」を表すといわれる。企業の業績に対するマインドが前向きになれば、設備投資や雇用の増加といった明るい動きにつながる。このところ足踏みしている国内景気が本格的に回復していくためには、これらの業種のマインド回復が重要なカギを握っている。

大企業製造業のマインドは改善も、業種間には温度差
(画像=きんざいOnline)

三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部 副主任研究員/藤田 隼平
週刊金融財政事情 2024年8月13日号