この記事は2024年8月30日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「8月に過去最高値を更新した金価格、年末へ最高値更新も視野」を一部編集し、転載したものです。
ニューヨーク金先物価格は、1トロイオンス当たり2,500ドル台まで値上がりし、7月に続いて8月も過去最高値を更新した(図表)。世界の金融政策が転換期を迎えるなか、これまでの金価格の高騰局面でも静観を続けていた欧米投資家の金買いが本格化し始めた影響だ。今後、金利環境が大きく変化するリスクが高まっていることを強く示唆している。
米連邦準備制度理事会(FRB)は、高インフレ環境を是正するため、2022年にゼロ金利を解除したが、23年7月以降のフェデラル・ファンド(FF)金利の誘導目標は01年以来の高さとなる5.25~5.50%になっている。通常、高金利環境では、金市場からの資金引き揚げが行われる傾向にある。金は金利や配当を生じない実物資産であり、高金利環境における金の保有は機会コストが高まるためだ。
それにもかかわらず、3月以降に金価格が一段と高騰したのは、地政学リスクの高まりに加え、中央銀行の金保有量の拡大や中国リテール投資需要の拡大、富裕層の地金需要増加といった多岐にわたる要因から金保有ニーズが高まったためだ。その結果、金利やドルの動向を重視する欧米投資家が不在の状況下で、金価格は今年3~5月にかけて3カ月連続で過去最高値を更新するという過去には見られない展開となった。
足元、FRBが9月にも利下げに踏み切る見通しであることに加えて、6月に欧州中央銀行(ECB)、6月と7月にカナダ中央銀行、8月にイングランド銀行が、それぞれ利下げに着手している。ディスインフレと景気減速が世界共通のテーマになるなか、金融政策の転換期入りと連動して金市場に対する資金流入が強化され始めている。特に注目すべきは、今年4月まで11カ月連続で減少していた金ETF残高が増加に転じ始めたことだ。金価格を押し上げるプレイヤーが広がりを見せている証左といえる。
さらに、このタイミングで米景気リスクが急浮上していることも、欧米機関投資家の金投資ニーズを高めている。過去の高金利政策終了後はリセッション(景気後退)入りすることが多く、安全資産である金に対するヘッジニーズが強くなっている。米景気指標の下振れ傾向が目立つと、金価格の上昇ペースが加速しかねない。
FRBの直近利下げは、19年7月から20年3月にかけて行われたが、金価格はその9カ月間で12.9%高となった。今回は2,500ドル台という過去最高値圏で、利下げサイクル入りを迎えることになる。価格急騰により現物需給のタイト感は薄れているが、年末に向けて2,500ドル台の定着が進み、2,600ドル台にコアレンジが切り上がる展開を想定する。
マーケットエッジ 代表/小菅 努
週刊金融財政事情 2024年9月3日号