この記事は2024年9月6日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「道半ばの物流2024年問題」を一部編集し、転載したものです。


道半ばの物流2024年問題
(画像=hit1912/stock.adobe.com)

(日本政策投資銀行「24年度設備投資計画調査」)

「物流2024年問題」とは、働き方改革関連法に基づき、トラックドライバーの時間外労働に上限規制が適用されることによって生じる物流の問題である。何らかの対策を講じなければ、24年には全体の14%(4億トン)、30年には同34%(9億トン)の輸送能力が不足するとされる。政府はこの問題を解決すべく、23年6月に「物流革新に向けた政策パッケージ」を策定し、対策を推し進めている。

当行が実施した24年度設備投資計画調査では、大企業に対してこの問題への対応策に関するアンケートを行った。その結果、「デジタル活用」「機械化・自動化投資」「共同配送の拡大」に回答が集中した。具体的な対応内容として、効率的な配送ルートの算出および荷待ち時間の短縮といったデジタルサービスの利用、マテハン機器や自動走行ロボットの導入などが考えられる。

業態別では、食品業界の大企業の約半数が、対応策として「共同配送の拡大」を回答した。食品業界では、食品メーカー5社が物流会社のF-LINEに共同出資し、持続可能な食品物流の実現に向けて共同配送を進めるなど、物流を協調領域とする考えが広まっている。こうした全体最適を進める取り組みは他産業にも参考となろう。

実輸送業者である道路貨物・倉庫運輸業界では、貨物輸送を環境負荷の小さい鉄道や船舶の利用へと転換する「モーダルシフト」に対して意欲的な姿勢がうかがえた。モーダルシフトは、トラックによる長距離輸送の削減を可能にするなど、大きな効果が期待されている。政府も23年10月に公表した「物流革新緊急パッケージ」に、鉄道・内航海運の輸送量や輸送分担率を今後10年程度で倍増させる目標を掲げる。

一方、荷主は、食品業界などを除いてモーダルシフトへの回答は限定的であり、実輸送業者との意欲の差が明らかとなった。モーダルシフトの推進には、リードタイム延長やコスト面など、荷主の理解と協力が欠かせない。今後、いかに両者の意欲の差を埋めていくのかが問われてくる。

2024年問題の影響は、農作物の収穫期や年末などの繁忙期、年度末の時間外労働時間の調整によって拡大することも予測される。特に荷主にとっては、商品の供給遅延や在庫の不足で、信頼関係の損失や競争力の低下といった重大な影響が生じる可能性も否めない。物流危機に陥る前から積極的に対策を講じていくことが、強靱なサプライチェーンと企業価値を維持する上で重要である。

道半ばの物流2024年問題
(画像=きんざいOnline)

日本政策投資銀行 産業調査部 調査役/芦名 優一
週刊金融財政事情 2024年9月10日号