この記事は2024年9月27日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「企業価値向上のため、特許情報を経営に活用せよ」を一部編集し、転載したものです。


企業価値向上のため、特許情報を経営に活用せよ
(画像=thodonal/stock.adobe.com)

(日本政策投資銀行「24年度設備投資計画調査」)

今回は、経営における特許情報の活用に焦点を当てたい。

企業の経営や事業戦略の策定において、特許情報の活用に関心が集まっている。この背景には、特許情報の整備が進み、2021年6月のコーポレートガバナンス・コードの改定で知的財産投資戦略の開示が求められたことがある。しかし、特許情報の活用は手間と時間がかかり、IR(投資家向け広報)と同様、必要に迫られて取り組むコストと捉える企業も多い。

実際に本調査で、製造業の企業のうち、特許などの知的資本データ分析を「活用予定はないが、社内の関心は高まっている」と回答したのが37.3%に上った(図表)。一方、「社内で活用している」と回答したのが16.5%、「経営層が関与している」と回答したのは4.7%にとどまり、特許情報を経営や事業戦略の策定につなげている企業は限定的であることがうかがえた。

当行は、特許情報の活用が企業の価値向上に寄与すると考え、数年前から特許情報の分析を通じてさまざまな企業と対話を継続してきた。その際に痛感するのは、社内で特許情報を活用する上で、知財部のほかに社内のステークホルダーをいかに巻き込むかが最大の障壁になるということだ。特許情報にビジネス情報や財務情報を組み合わせて経営判断に活用していくには、経営層やビジネス部門、企画部門など他部署の理解と協力が欠かせない。そのため、他部署に対してはより客観的なデータを提供する必要がある。

その点、特許と収益増減の因果関係を示すと効果的だが、そもそも企業の収益増減の要因は多岐にわたるため、特許が製品に直結している一部のビジネスを除き、その因果関係を示すのは難しいとみられている。そこで当行は、知財活動の効果が高いと思われる「電気機械業」の中から上場企業85社を対象に、利益(EBITDA)とレクシスネクシス社の「PatentSight+」のデータを用いて、特許の被引用件数と出願国の市場価値から算出する特許価値(Patent Asset Index)の関係を調査してみた。

すると相関係数が0.82を示し、正の相関が見られた。さらに、中期経営計画に特許関連の記載がある企業に限定すると、記載がない企業よりもやや強い相関も見られた。この結果から、価値の高い特許は企業の収益に貢献し、中期経営計画など具体的な企業戦略に組み込むことで、収益への貢献度をいっそう高めることができると考えられる。

特許情報は自社情報の分析だけでなく、競合他社や業界全体の動向、提携先の探索など、多様な経営判断のヒントになり得る。特許情報の活用が企業価値を高める方策の一つとして、さらに定着・普及することを期待したい。

企業価値向上のため、特許情報を経営に活用せよ
(画像=きんざいOnline)

日本政策投資銀行 産業調査部 副調査役/藤田 麻衣
週刊金融財政事情 2024年10月1日号