本記事は、加藤俊徳氏の著書『老害脳』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の中から一部を抜粋・編集しています。
「老いた脳」に権力と肩書は「正義」か? 「老害」か?
内向きな日本社会で、特に危惧すべきなのはやはり、老化してしまった脳の持ち主が、むしろ重要な地位に居続け、肩書と権力を盾に影響を及ぼし続けていることでしょう。
会社でも、医学界でもそうですが、誰の目にもわかりやすいのは政治の世界かもしれません。大臣や政党の要職、派閥のトップなどを高齢の政治家が務めていること自体はいいのです。彼らが経験を生かし、新しい時代に対応しながら仕事をしているのであれば、誰も不信感や不快感を抱いたりはしないでしょう。しかし残念ながら、肩書や権力を背景に政敵を攻撃し、まるで自分に地位があることを当然のように語る政治家がたくさんいます。
本来なら国民は、こうした政治家に任せていた権利は取り上げ、新しいリーダーを探さなければならないでしょう。しかし、むしろ「老害」の圧力に気おされているのが実情です。
ここに、安定していて流れのよどんでいる日本社会の問題点が見えてきます。脳の老化を放置したまま、その人がヒエラルキーを背景に、肩書や権力をそのまま伴っていたとすれば、その人は、強烈な「老害」になるでしょう。何度も述べていますが問題は、そこに気づいているのに指摘もできないまま、ますます社会全体が事なかれ主義に向いていくことです。「見て見ぬふり」(つまり「右脳老害」)こそが、脳の老化への対処を遅らせ、脳の成長力を阻害してしまうのです。卵が先か鶏が先かの問題と同じですが、結局は脳の成長力を重視しない社会は、「老害」の温床とならざるを得ません。
選挙制度が「老害」を助長? 日本政治の問題点
こうして政治の世界において、選挙区の調整や公認を与える権限を持っている人の判断や、それに対して影響力を持つ派閥や組織の力、資金力などが重要になってしまうのです。ここが「老害」に支配されているのだとすれば、彼らに気に入られなければ立候補すらできなくなってしまいます。
かつての衆議院選挙は中選挙区制という制度で行われていました。今よりも広い選挙区で複数の議席を争うため、同じ政党でも複数の政治家が公認を得て出馬し、有権者が最終的に政治家を選びました。すなわち、同じ選挙区・同じ政党でも有権者側に選択の余地があったということになります。
もっとも小選挙区制に変わった理由は、中選挙区制だと、資金力が物を言う選挙になりやすいことなどが指摘されたからなのですが、結果として誰が国民の代表になるべきかという判断を政党に委ねてしまい、政党助成金によって、まるで、政党に雇われているかのような会社員化した議員が列をなしているのが実態です。こうして、一般国民の目に政党が覆いかぶさり、民意が届きにくくなった結果、底力のあるリーダーを育成する仕組みがなくなり、より「老害」を加速したのではないかと思うのです。
かつてとは違い、世の中はすでにネット社会になり、資金力がない人も政策や自分の考えを訴えられます。お金のかからない選挙も十分実現可能になったにもかかわらず、なぜ再びこの問題を議論しないのか、私には疑問に思います。こうして、最初は政治への志に燃えていた若い政治家も、選挙を経るたびこの、「老害脳」になることを善とする日本社会の仕組みに取り込まれていくことはやむをえないでしょう。
それでも、「老害」被害者の視点で考えれば、少なくとも選挙を通じて代わる可能性のある政治家よりも、チェンジする仕組みがもともとない会社のオーナーのような「老害」や、日々仕事で接する必要のある会社の上司のほうがよほど身近で怖い存在なのかもしれませんが。
14歳のときに「脳を鍛える方法」を知るために医学部への進学を決意。1991年、現在、世界700カ所以上の施設で使われる脳活動計測「fNIRS(エフニルス)」法を発見。1995年から2001年まで米ミネソタ大学放射線科でアルツハイマー病やMRI脳画像の研究に従事。ADHD、コミュニケーション障害など発達障害と関係する「海馬回旋遅滞症」を発見。帰国後、帰国後、慶應義塾大学、東京大学などで脳研究に従事し、「脳の学校」(https://www.nonogakko.com/ )を創業。
現在、港区白金台に「加藤プラチナクリニック」を開設し、独自開発した加藤式MRI脳画像診断法を用いて、強み弱みなどの脳個性や脳タイプ、適職を診断し、薬だけに頼らない脳処方を行う。
著書・監修書の累計は300万部を超え、『頭がよくなる! はじめての寝るまえ1分おんどく』(西東社)、『1日1文読むだけで記憶力が上がる!おとなの音読』(きずな出版)、『1万人の脳を見た名医が教えるすごい左利き』(ダイヤモンド社)、『一生頭がよくなり続けるすごい脳の使い方』(サンマーク出版)など多数。*著者による脳画像診断を希望される方は、加藤プラチナクリニック(https://www.nobanchi.com/ )までご連絡ください。※画像をクリックするとAmazonに飛びます。
- 正義 or 老害? 「老いた脳」の肩書と権力の影響とは
- 「老害脳」に忍び寄る認知症リスク
- 自分の認知症を予防できる? 老害予備軍が果たす重要な役割とは
- 「老害」の攻撃から身を守る方法とは