本記事は、加藤俊徳氏の著書『老害脳』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の中から一部を抜粋・編集しています。

認知症
(画像=LIGHTFIELD STUDIOS / stock.adobe.com)

「老害脳」に忍び寄る認知症リスク

地位も権力も保持したまま「老害」としてできあがってしまった人は、もはや周囲に迷惑をかけているという認識もないまま、可能な限り長くそのポジションを保つことでしょう。

しかし、実はそういった「老害脳」だからこそ、本人に恐るべきリスクが待っていることに気づいていません。それは、「認知症」のリスクです。

これまで、MRI脳画像を用いて、多くの人の脳の個性を分析し、脳相診断を行ってきました。その結論としてわかったことは、人の脳は、その人の人生そのものの結果を反映しているということです。

出世するためには、脳を必死で働かせ成長させることも必要な一方で、その人の仕事や生活行動の蓄積によって、どんどん脳機能に偏りが生ずることも1つの脳の仕組みです。

「老害脳」は8つの脳番地の衰えや劣化で起こるのです。「怒りやすい」「人の話を聞かない」「無関心」「新しいことに消極的」など、これらの「老害脳」のサインは、ほとんど認知症患者の症状とオーバーラップするのです。

完全に脳が老化し、右脳も左脳も「老害脳」化してしまった人は、自分を肯定的に処してくれる人や自分に従順な人、いわば子分しか受け入れられません。もし、そこに、狡猾でめざとい人が接近してきても、もはや脳が老化しているために気づけないのです。

近づいてくる人は、初めからその権力者の脳がすでに老化していることを見抜き、従順なふりをして取り入ります。たとえ「右脳老害」的な被害を受けても堪えますし、自分の本心がどうなのかも関係ありません。なぜなら、狙っているのは、その人の権力とポジションだけだからです。いわゆるたいこ持ち、ヨイショの類いと考えればわかりやすいでしょう。彼らは「老害」化した人に従順なふりをしながら巧みに接近して心に入り込み、少しずつ権力を移させたり、権威を笠に着て自分の地位を向上させたりしながら、逆転するときを待っています。どう利用すれば自分に有利なのか、自分が削られないのかを考えているわけです。そうとは知らずに、「老害」者は、権力に酔いしれつつ、かわいいやつだと思っているでしょう。

いつも最後まで話を聞いてくれる。いつも自分の価値をほめてくれる。決して不快なことをしてこない …… その裏にどんな目的があるのか、老化した脳ではもはや知ることができません。

こうなると、「老害脳」なのか、認知症なのか、専門家でも判別が難しくなります。特に3分間診療などの短い診療時間では、より診断が難しいかもしれません。

認知症の初期や認知症予備群の症状は、「老害脳」と区別がつきにくいと考えられます。

このような問題は、権力だけでなく、金銭的な詐欺であっても同じことです。認知症患者や体の衰えた高齢者を狙う犯罪はよくある話ですが、巧妙に取り入ることで、犯罪行為ではなく、経済行為のように思い込ませ、財産を奪うことも可能です。

しかしこれも、悲しいことに脳が老化してしまうと、1度信じた相手に対して疑いを持つ能力が下がってしまいます。まさか自分の「老害脳」が狙われているなんて、想像もできないでしょう。

犯罪行為や相手を騙すようなことは決してしてはいけません。ただ、「老害」によって辛い思いをしている人にとって、その状況に対処する方法や心構えを学ぶために、先ほどの「思考力が衰えた人にうまく取り入るテクニック」を参考にすることは可能かもしれません。ここで言いたいのは、「老害」から何かを奪うということではなく、あくまで自分自身を守るための方法として活用できるということです。合気道のように、相手とうまく向き合うためのテクニックとして考えてみてください。

私は、「老害」の被害を受けている「非老害脳」の人こそ、認知のゆがみを正すことができるという自分たちの価値を発揮して、どうにか今の状況を変えてほしいと願っています。

日本社会は「老害」にとって暮らしやすく、また「老害」を再生産する温床となっているとも考えられます。

そして、「老害」を傍観している人も、実はそうした社会の持続に加担してしまっている可能性があることを、私たちはもう少し深刻に考えなければならないと思うのです。このことが軽視され、あるいは先延ばしにされればされるほど、「老害」社会により自縛的に日本の活力はさらに失われてしまうのではないでしょうか。

『老害脳』より引用
加藤 俊徳
新潟県生まれ。脳内科医・小児科専門医、医学博士。加藤プラチナクリニック院長。 株式会社「脳の学校」代表。昭和大学客員教授。脳科学・MRI脳画像診断の専門家。「脳番地トレーニング」や「脳活性助詞強調おんどく法」を提唱・開発・普及。小児から超高齢者まで1万人以上を診断・治療。

14歳のときに「脳を鍛える方法」を知るために医学部への進学を決意。1991年、現在、世界700カ所以上の施設で使われる脳活動計測「fNIRS(エフニルス)」法を発見。1995年から2001年まで米ミネソタ大学放射線科でアルツハイマー病やMRI脳画像の研究に従事。ADHD、コミュニケーション障害など発達障害と関係する「海馬回旋遅滞症」を発見。帰国後、帰国後、慶應義塾大学、東京大学などで脳研究に従事し、「脳の学校」(https://www.nonogakko.com/ )を創業。

現在、港区白金台に「加藤プラチナクリニック」を開設し、独自開発した加藤式MRI脳画像診断法を用いて、強み弱みなどの脳個性や脳タイプ、適職を診断し、薬だけに頼らない脳処方を行う。

著書・監修書の累計は300万部を超え、『頭がよくなる! はじめての寝るまえ1分おんどく』(西東社)、『1日1文読むだけで記憶力が上がる!おとなの音読』(きずな出版)、『1万人の脳を見た名医が教えるすごい左利き』(ダイヤモンド社)、『一生頭がよくなり続けるすごい脳の使い方』(サンマーク出版)など多数。
*著者による脳画像診断を希望される方は、加藤プラチナクリニック(https://www.nobanchi.com/ )までご連絡ください。

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  1. 正義 or 老害? 「老いた脳」の肩書と権力の影響とは
  2. 「老害脳」に忍び寄る認知症リスク
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