この記事は2024年11月8日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「「コストプッシュ型」物価上昇にはまる日本経済」を一部編集し、転載したものです。


「コストプッシュ型」物価上昇にはまる日本経済
(画像=moonrise/stock.adobe.com)

(総務省「消費者物価指数」)

ここ最近の物価動向を見ると、1990年代後半以降に物価低迷が続いた状況とは隔世の感がある。本欄では、5回にわたり物価動向を分析するが、まずは日常生活に密接で、金融・経済政策の判断材料となる消費者物価指数(CPI)に焦点を当てたい。

CPIとは、全国の消費者が購入する財・サービス600品目弱の価格を指数化した指標である。ヘッドラインとなる全品目による総合指数のほか、価格変動の大きい生鮮食品を除いたコア指数や、食品およびエネルギーを除いたコアコア指数があるが、わが国では、コアCPIが物価の基調を反映した指標の中心として用いられてきた。以下では、コアCPIについて寄与度分析を行い、ここ数年の動向を考察する。

まず、新型コロナウイルス感染拡大による経済危機が起きた2020年以降についてコアCPIの推移を見ると、同年12月に前年比▲1%まで低下するが、その後の世界経済の回復と22年のロシアによるウクライナ侵攻を受けて上昇へと転じた。4%程度まで加速した後、24年にかけてはモメンタムが低下している(図表)。

内訳を見ると、コアCPIの低下局面では、エネルギーの需要急減がマイナスに寄与した。また、サービスもマイナスに影響したが、緊急事態宣言などに伴う活動抑制から主に宿泊料が下押しし、その後は政府の携帯電話料金の値下げ政策による通信料低下が響いた。

コアCPIの上昇局面では、エネルギーがプラスに寄与した。これは、新型コロナウイルス感染拡大からの経済回復を受けたエネルギー価格の反発によるものである。その後、エネルギー価格はウクライナ情勢の悪化でさらに高騰し、食品価格も供給懸念から大きく上昇した。

従って、22年に食品(生鮮食品を除く)の寄与度が高まるが、23年以降はピークを打ち、エネルギーも電気・ガス代への政府補助金とその廃止の影響はあるものの、寄与度のモメンタムは低下している。一方、その他の財(食品やエネルギーを除く)やサービスは、エネルギーや食品価格上昇の波及、賃金上昇等の影響から22年後半から寄与度を徐々に高めた。ただし、2%台には届いておらず、24年にかけてモメンタムは低下している。

以上から、足元のコアCPI上昇は外生的な食品やエネルギー価格が主因であり、いわゆる「コストプッシュ型」の上昇であったことが分かる。諸外国の多くも同様の傾向が見られたが、その後の需要増加で賃金インフレも伴いその他の財・サービス価格が上昇する「ディマンドプル型」の様相を呈した。ここ数年の世界的な物価上昇のなか、コストプッシュ要因がここまで強いのはわが国特有のものといえる。

消費者物価指数の動向からは、日本も上昇基調へシフトしたかに見える。だが、むしろ、需要減少が再び景気悪化を引き起こすことも想定され、引き続き留意が必要である。

「コストプッシュ型」物価上昇にはまる日本経済
(画像=きんざいOnline)

東京国際大学 データサイエンス教育研究所 教授/山口 智弘
週刊金融財政事情 2024年11月12日号