デクセリアルズ株式会社
(画像=デクセリアルズ株式会社)
新家 由久(しんや よしひさ)――代表取締役社長
1969年生まれ、福岡県出身。2001年に開発担当としてソニーケミカル株式会社(現 デクセリアルズ株式会社)に入社。2005年 オプティカルマテリアル事業部 開発部 部長、2014年 執行役員などを経て、2019年6月 代表取締役社長に就任。同年、社長として初となる中期経営計画「進化への挑戦」がスタート。最終年度となる2023年度には、初年度の約2倍となる売上高1,052億円を達成。現在は2024 年度からの 5 年間を計画期間とする新たな中期経営計画 「進化の実現」を推進中。
1962年創業のソニーケミカル株式会社を前身とし、2012年に独立・社名変更して事業開始。スマートフォンやノートパソコンをはじめとするエレクトロニクス機器、電装化が進む自動車に欠かせない電子部品、接合材料や光学材料など機能性材料の開発・製造・販売を手掛ける。本社を栃木に構え、国内8(子会社拠点含む)、海外12の製造・販売拠点でグローバルに事業を展開。時代や技術の変化を先回りした製品開発によりテクノロジーの進化を支え、世界シェアトップの製品群も複数有している。

目次

  1. これまでの事業変遷について
  2. 自社事業の強みについて
  3. ぶつかった壁やその乗り越え方
  4. 今後の経営・事業の展望
  5. ZUU onlineユーザーへ一言

これまでの事業変遷について

—— 会社の歴史や成り立ちについて教えていただけますか?特に、ソニーグループから独立された経緯と、現在の強みにつながるまでの過程を詳しくお聞かせください。

デクセリアルズ株式会社 代表取締役社長・新家 由久氏(以下、社名・氏名略) まず、デクセリアルズの前身はソニーグループのケミカル部門、ソニーケミカルという会社で、1962年に創業しました。創業から、ソニーグループ内では独立した形で運営されており、一時は東証二部にも上場していました。そのため、ソニーグループ以外の幅広いお客様に製品を提供していました。

そして、2012年にMBOという形でソニーから独立し、2015年には東証一部に上場しました。上場後は、2016年からの中期経営計画を進めていましたが、当初の目標を達成することはできませんでした。私が社長に就任した2019年には、上場以来の危機に直面していました。そこで、まずは事業の再構築を進めました。事業に投じた資金によって利益をどれだけ生み出したかを示すROICを指標として事業の選択と集中を行い、注力すべき事業に経営資源をフォーカスしました。

また、ポートフォリオの拡大を見据えて、自動車業界に本格参入しました。さらに、フォトニクス事業を自動車の次の新規事業領域として定め、2022年には初めてM&Aを実施、光半導体メーカーである京都セミコンダクターをグループに迎えました。このように、変革を進めながら持続的な成長を目指してきたというのが、我々の変遷です。

—— 自動車業界への参入は大きな決断だったと思いますが、その着眼点や判断に至るきっかけについて教えていただけますか?

新家 自動車業界は100年に1度の変革期にあると言われており、車自体がIoTアプリケーションの一つに進化していくことは間違いないと考えています。EVや自動運転技術の進化が進む中で、自動車がスマートフォンのような幅広い機能を備えるようになるでしょう。そこで、我々がこれまでエレクトロニクスの分野で培ってきた技術が自動車産業でも必要とされるのではないかという仮説を立てました。

自動車事業を始めるにあたっては、世界の主要な自動車メーカーを訪問し、我々の技術や製品がどのようにソリューションを提供できるかを提案しました。非常に興味を持っていただきましたが、自動車業界はヒエラルキーが厳しいため、Tier1やTier2の企業を巻き込みながら事業を進めることが重要でした。

自社事業の強みについて

—— ビジネスモデルの強みについて詳しく教えていただけますか?

新家 我々は材料メーカーですが、組み立てメーカーなどの直接顧客だけでなく、完成品メーカーである最終顧客とも対話をするのがビジネスモデルの特徴です。これは、ソニーグループ時代に、最終製品の設計やデザインがどういったものになるのかについて、最終顧客における検討の非常に早い段階から参画させていただく機会が多かったことに起因していると考えています。

独立後も、そこで得た知見をもとに、最終製品に求められる材料やデバイスはどのようなものかを逆算して考える「バックキャスト」の手法を取ってきました。このアプローチが業界のトップランナーたちとの関係構築に役立っていると思います。

デクセリアルズ株式会社
(画像=デクセリアルズ株式会社)

—— 最終顧客にアプローチすることが重要なのですね。

新家 はい、最終製品のトレンドに敏感な最終顧客との対話によって、技術トレンドを先回りした開発ができていると自負しています。また、エンジニアが最終顧客と直接対話する機会が多いことも特徴です。

当社は東証プライム市場の区分けでは化学セクターの企業ですが、ソニーケミカル時代から、機械、物理、電気など多様なバックグラウンドを持つエンジニアが集まっているため、最終顧客ともスムーズに会話ができるのです。

—— 多様な人材をどのように採用しているのでしょうか?

新家 我々の持続的な成長には優秀な人材が不可欠だと考えています。2024年4月には、国内外の全社員を対象にジョブ型人事制度を導入し、海外含めて優秀な人材を迎え入れるため、グローバルで競争力のある人事制度と報酬体系を整えました。これにより、当社が求める人材から選ばれる会社を目指しています。

—— 経営指標に関する考え方を教えてください。

新家 我々が最も重視している経営指標はEBITDA (※1) です。稼ぐ力を高めるために成長投資を行い、その効率をモニタリングするための指標がROIC (※2) やROE (※3) です。グローバルでトップシェア (※4) の製品群を持ち、顧客と技術ロードマップを共有しながら先手先手で開発を進めることで、その価値を市場で認められていると考えています。

※1:EBITDA(IFRS)=事業利益+売上原価並びに販売費及び一般管理費として計上される減価償却費
※2:ROIC(IFRS)=(事業利益×(1-実効税率))÷(自己資本+有利子負債) ×100
※3:ROE(IFRS)=親会社の所有者に帰属する当期利益÷自己資本×100                  ※4:以下の3製品で世界トップシェア。
・スパッタリング技術で製造された反射防止フィルム:株式会社富士キメラ総研発行「2024ディスプレイ関連市場の現状と将来展望」による、表面処理フィルム(ドライコート)の2023年の金額シェア。
・異方性導電膜(ACF):株式会社富士キメラ総研発行「2024ディスプレイ関連市場の現状と将来展望」による、大型および中小型ディスプレイ向けACFの合計の2023年の金額シェア。
・光学弾性樹脂(SVR):株式会社富士キメラ総研発行「2024ディスプレイ関連市場の現状と将来展望」による、ディスプレイの貼り合わせで使用される光学透明接着剤(OCR/LOCA)の2023年の金額シェア。光学弾性樹脂(SVR)は、光学透明接着剤の当社製品名です。

ぶつかった壁やその乗り越え方

—— 2019年に社長にご就任されて、これまでの中で、どんな壁にぶつかり、それをどう乗り越えてきたのか、少し苦労話を伺えればと思います。

新家 2015年の上場以来、厳しい時期が続いており、時価総額でいうと、上場時は約1,000億円だったのが、400億円台まで落ち込んでいるどん底の状態で社長に就任しました。この時期は、投資家の皆さまにはご心配をおかけし、社員たちも自信を失う苦しい時期だったと思います。そのような状況下において、先にお話ししたROICを指標とした事業性評価、上層部の改革や経営陣の刷新、社員のマインドセットなどを進めました。

そのような中で起こった世界的なパンデミックや地政学的リスク、サプライチェーンの混乱など、外部環境の変化の影響も大きかったです。それでも、持続的な成長に向けた礎を築けたと思います。社長就任後、初となる中期経営計画を推し進めてきた5年間は時間的にあっという間に過ぎ去りましたが、とにかく突っ走ってきたという感じです。

—— ご就任後、業績が大きく伸びたと思いますが、その要因についてお話しいただけますか。

新家 1つに絞るのは難しいですが、先回りした開発と将来のトレンドに乗る研究開発にフォーカスしたことが結果に繋がったと思います。また、社員のマインドチェンジも重要でした。パンデミックを機に社員の意識が変わり、変化の先頭に立つ会社になりたいという思いが強まりました。これが社員の成長に繋がったと思います。

—— 改革を進める中で、抵抗や軋轢もあったと思いますが、どのように乗り越えたのでしょうか。

新家 課題を整理し、特に事業の選択と集中に関しては透明性を持たせました。事業性評価の仕組みをクリアにし、経営判断の透明性を担保しました。これが結果として良かったと思います。

今後の経営・事業の展望

—— 今後の事業展開や経営の展望についてお聞きしたいと思います。どのような展開を考えていらっしゃるのでしょうか?新規事業の着想や既存事業の成長戦略など、将来やっていきたいことを教えていただけますか。

新家 今年、新しい中期経営計画を発表しました。2年前から全社をあげてデクセリアルズのパーパスについての議論を始め、我々はどのような会社でありたいのか、存在意義は何かについて、検討してきました。

こうして出来上がったパーパスが「Empower Evolution. つなごう、テクノロジーの進化を。」です。デジタルテクノロジーの進化こそが社会課題の解決のカギであり、デクセリアルズがその進化を支える存在でありたいと考えています。そういった材料やデバイス、ソリューションが提供できる会社を目指して、新しい中期経営計画の各種施策を実行していきます。

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—— 素晴らしいですね。お金の使い方についてもお聞かせいただけますか。キャピタル・アロケーションについて、どのように考えていらっしゃいますか。

新家 今回の中期経営計画では、初めてキャピタル・アロケーションを明示しました。前中計期間中はキャッシュフローの改善に重点を置き、改革から成長の礎を築きました。本中計では成長投資をしっかり行い、人的資本を含めた人材投資も担保します。また、持続的な成長に向けた投資枠も確保し、余ったキャッシュは株主の皆様に還元します。成長投資と株主還元の両立を目指しています。

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—— M&Aについてもお伺いしたいのですが、どのようにお考えでしょうか。

新家 M&Aも機会があれば検討しています。様々な角度からミッシングパーツを精査し、テックバイ的なものやパートナーズシップを結ぶためのアライアンスの可能性もあると思います。

ZUU onlineユーザーへ一言

—— 最後に読者に向けて、一言お聞かせいただければと思います。

新家 現代は「VUCA(ブーカ)」の時代と呼ばれ、不確実性が高まっていると言われています。特に、国際情勢や政治の変化は、企業としてコントロールできない部分が多いです。しかし、そういった変化にどう機敏に対応するかは、我々の手にかかっています。長期的に見れば、現在の指導者たちは10年後にはいないでしょう。

しかし、社会課題はますます深刻化していくはずです。その時に我々が何を成し遂げられるかが問われます。

今は、未来に向けた成長の種をどれだけ蒔けるかを考えています。変化に柔軟に対応しつつ、将来を見据えた経営がますます重要になってくると考えています。

ダイナミックに変わる時代に生きられること自体が一つの運命だと思いますので、変化を恐れず、楽しんで進んでいくことが大切です。どんな困難な環境でも前向きに捉えて、社内外のステークホルダーの皆さまと共に頑張っていきたいと考えています。

氏名
新家 由久(しんや よしひさ)
社名
デクセリアルズ株式会社
役職
代表取締役社長

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