創業から上場までの事業変遷
—— 創業から上場までの事業変遷についてお聞かせください。
株式会社NexTone 代表取締役CEO・阿南 雅浩氏(以下、社名・氏名略) 当社が主軸としている音楽著作権の管理は、もともと一般社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)の独占事業でした。1930年代から70年にわたって独占企業でしたが、規制撤廃と自由競争の流れの中で、ちょうど2000年に民間もこの事業に参入できるようになりました。著作権の世界では、音楽だけでなく、小説や脚本、映画、写真なども国が認可した一団体しか管理できないという認可事業でしたが、自由化の時に民間が入ろうとした分野が音楽だけだったんですね。
音楽業界では、糸井重里さんや坂本龍一さんらがJASRACの管理手法が硬直化し、独占の弊害が出ていると声を上げていました。プロダクションやレコード会社、アーティスト、作詞作曲家も、この一党独裁が良くないということで、多くの会社が参入しました。しかし、この商売はボリュームが命で、管理楽曲数が少ないと成り立たない。非営利団体のJASRACが低い手数料で運営しているため、参入した多くの会社は廃業し、残ったのはイーライセンスとジャパン・ライツ・クリアランスの2社だけ。それでもシェアが2%程度でした。この2社が合併したのが当社の成り立ちです。
私はエイベックスの音楽出版社の社長を務めていたのですが、その会社が当時お世話になっていたイーライセンスの筆頭株主となり、2015年からイーライセンスの社長も兼務することになりました。
イーライセンスはエイベックスの楽曲やゲーム、アニメに強く、ジャパン・ライツ・クリアランスはロック系のプロダクションが主要株主でした。シェアはそれぞれ1%程度でしたが、カニバるところがなく野党連合を組むことで成長できると考えました。私はジャパン・ライツ・クリアランスに楽曲を預けているアーティストやプロダクションの社長とも親しくしていたため、一緒になろうと持ちかけ、承諾を得ました。
そうして2016年に株式会社NexToneを立ち上げ、2020年に上場することができました。
—— 御社とJASRACの違いはどこにあるのでしょうか。
阿南 我々とJASRACの最も大きな違いは、管理手法にあります。JASRACは信託契約で権利者の財産権をすべて移転させるのですが、これが業界内では大きな問題でした。我々は委託や委任取り継ぎという形で、著作権の財産権を作家や音楽出版社に残したまま運用します。これにより、音楽教室からの徴収やコンサートでの取り分など、権利者の意思を反映させることができるのです。
シンガーソングライターのように自分の作品を自分で演奏する人や、作品を大切に扱ってほしいと考える人にとって、我々の管理手法は望ましいものです。
上場を目指された背景や思い
—— 上場を目指された背景や思いについてお聞かせください。株主への還元が大きな理由だったのでしょうか?
阿南 そうですね。上場したのは、イーライセンスとジャパン・ライツ・クリアランスを長年支えてくれた株主に対して合併の了解を得るという目的と、オーナーシップを持って応援してくれる仲間を増やすためという大きく2つの目的がありました。当社の肝は、アーティストや権利者がJASRACではなく、我々を選んでくれるかどうかにかかっています。そのため、プロダクションに株を配布し、多くの企業にオーナーシップを持ってもらい、我々を応援してもらうというスタンスを取りました。
経営者レベルでは仲良しでも、現場の人たちは取引先が増えるのは面倒だと言います。そこで、「NexToneに出資しているんだよ、株主として応援するんだよ」という立場を明示することが一番わかりやすいと思いました。増資を行い、エイベックスの資本比率を当時の60%から30%に減らし、その分で各権利者に株式を配布しました。上場時にはさらにエイベックスの比率を15%以下に落としました。 なお私自身は1%未満しか株を持っていません。
また、海外進出にあたって、IPOをして財務状況を開示することで信頼性を確保することも重要でした。著作権ビジネスは作家が亡くなってから70年、実質権利が120年ほど続くことが多いので、企業は国際的な信頼を示す必要があります。新卒を採用して世代の断絶を防ぐためにも、上場が重要な基準となります。これらの理由から、この会社は上場すべきだと判断しました。
—— 株主が音楽関係の事務所が多いという印象がありますが、その背景について教えてください。
阿南 アミューズはもともとジャパン・ライツ・クリアランスの少数株主でした。イーライセンスとの合併に際して持株比率を引き上げたいという要望があり、フェイスからも、同様の要望がありました。結果的に、両社とも7%ずつ持ちました。14.9%持っていたエイベックスの持株比率は現在6位になっています。
—— 上場のタイミングはどう決められたのですか?
阿南 最初は2019年の12月上場を予定していましたが、消費税が10%に上がる影響で株価が下がることを懸念していました。また、証券会社からもこのタイミングでの上場に対して警告があったため、2020年3月に予定を変更しました。しかし、コロナが直撃します。IPOを予定している企業の多くが旗を下ろす中、社内外の反対を押し切り、IPOを強行しました。二度の延期は不本意でしたし、著作権管理事業での上場は前例がなく、ニーズがあると確信していました。
結果的に、タイミングは完璧で、株価は上場後に大きく上昇しました。これが順風満帆なご時勢だったらここまで上がらなかったかもしれません。コロナの影響が及ばないギリギリのタイミングで、ロードショーが対面でできたのも良かったです。
今後の事業戦略や展望
—— 今後の事業戦略や展望についてお聞かせいただけますか?
阿南 当社は、JASRACの管理体制へのアンチテーゼとして始まりましたが、次第に周辺事業のエージェントとしてのニーズが増えてきました。著作権管理を行っていると、権利者から「これもやってくれないか」といった要望が多く寄せられ、その声に応えていくうちに、デジタルコンテンツディストリビューション(原盤供給)事業やビジネスサポートがどんどん増えてきました。著作権管理以外にも、GoogleやYouTube、Amazon、iTunesなどへの原盤供給やファンクラブの運営サポート、DX化、アーティストのライブサポートなど、様々なビジネスサポートも行っています。
今後の事業展開としては、「アーティストが望むことは全てやるエージェント」を目指しています。著作権だけでなく、クリエイティブやマネジメント以外の雑用を全て引き受けることで、アーティストが本来の活動に専念できる環境を提供したいと考えています。レコチョクやエッグスとの資本業務提携もその一環です。
—— ますます音楽配信事業の需要が増えていくように思えますが、御社の未来についてはどうお考えですか?
阿南 音楽配信事業の市場は確実に成長していますね。一方で、レコード会社やプロダクションの存在意義が問われる時代になりつつありますが、当社の事業はそれらが元気であっても、アーティストが個人で食べていく形になったとしても、どちらでも対応可能です。
いずれにしても著作権の管理は不可欠ですからね。また、特定のアーティストの動向に左右されることがないため、安定したビジネス展開が可能です。さらに、物を扱わないため、運送費や原材料費がかからず、社会的、経済的な影響を受けにくいのも強みとなっています。
今後のファイナンス計画や重要テーマ
—— 今後のファイナンス計画についてお伺いできますか?
阿南 具体的な計画はまだありませんが、創業の経緯からもわかるように、私たちは、上場してお金を集めるために活動しているわけではありません。現在、会社の時価総額は約150億円で、ネットキャッシュは90億円ほどあります。この資金をどう活用するかが重要な課題です。
M&Aについては、昨年9月にレコチョクグループを子会社化しました。このように親和性があり、シナジーが見込めるところには引き続き関心を持っています。例えば、ファンクラブやアーティストグッズを扱う会社についても積極的に検討したいと考えています。ただし、私がCEOである間は、プロダクションやレコード会社など、直接的な制作に関わる事業への参入は避ける方針です。
M&Aで言うと、日本には約500の音楽出版社がありますが、経営承継問題を抱える企業も多いです。70代、80代の経営者が後継者がいないために会社を畳みたいという話があるので、これを事業承継することも検討しています。
また、欧米ではビートルズやボブ・ディラン、テイラー・スウィフトなどの知財アセットが高額で取引されることがあります。こうした知財については、借金をしてでも買う価値があると考えています。日本ではまだこうした市場が成熟していませんが、アーティストの相続問題に対するニーズも高まっており、こうした現状を踏まえて我々がアセットを買い取り、遺族に分配するといったことも行なっていこうと思っています。
ZUU onlineのユーザーに⼀⾔
—— 読者に向けて、一言お願いできますか?
阿南 当社はストック型ビジネスを展開しており、時間が経つほどコンテンツが蓄積されていく安定したビジネスモデルです。また、上場企業4000社の中でも、これほどリスクが低い会社は稀だと思います。
物価の高騰や為替の変動、気候変動に左右されることなく、音楽は永遠に必要とされ続けます。ゲームや映画など、音楽が使われないエンターテインメントはほとんど存在しないと言っても過言ではありません。したがって、市場が縮小することはないと考えています。中長期的に安定した成長が期待できる会社ですので、ぜひその視点で見守っていただきたいと思います。
2027年の3月期にはプライム市場への上場を目指しています。株主の皆様には、今のうちから投資していただき、一緒に成功の物語を描いていきたいと思っています。
- 氏名
- 阿南 雅浩(あなん まさひろ)
- 社名
- 株式会社NexTone
- 役職
- 代表取締役CEO