不動産所得の確定申告は必要?書き方や計上できる経費、必要書類などを解説
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丸山 優太郎
丸山 優太郎
日本大学法学部新聞学科卒業のライター。おもに企業系サイトで執筆。金融・経済・不動産系記事を中心に、社会情勢や経済動向を分析したトレンド記事を発信している。

初めて不動産所得を得る人にとっては、確定申告が大きなハードルに感じられるかもしれません。不動産所得を得ても、確定申告が必要なケースと不要なケースがあります。本記事では、確定申告の基礎知識から確定申告書の書き方まで、必要な項目について徹底解説します。

目次

  1. 1.不動産所得の確定申告は必要
    1. 1-1.不要なケースもある
  2. 2.不動産所得の確定申告の方法は2つ
    1. 2-1.白色申告
    2. 2-2.青色申告
  3. 3.不動産収入に当たるもの
  4. 4.確定申告で不動産所得から差し引く経費
    1. 4-1.不動産所得にかかる税金
    2. 4-2.減価償却費
    3. 4-3.ローンにかかる金利
    4. 4-4.修繕費
    5. 4-5.水道光熱費
    6. 4-6.各種保険料
    7. 4-7.仲介手数料
    8. 4-8.管理委託費用
    9. 4-9.専門家への報酬費
    10. 4-10.青色専従者給与
    11. 4-11.消耗品費
    12. 4-12.不動産所得を得るために発生したその他の経費
  5. 5.不動産所得を確定申告する手順
    1. 5-1.①必要書類の用意と事前準備
    2. 5-2.②確定申告書類の作成
    3. 5-3.③確定申告書類を提出
    4. 5-4.④納税または還付を受ける
  6. 6.不動産所得の確定申告に必要な書類
    1. 6-1.確定申告書
    2. 6-2.収支内訳書
    3. 6-3.青色申告決算書
    4. 6-4.固定資産税通知書
    5. 6-5.賃貸借契約書
    6. 6-6.賃料送金明細表
    7. 6-7.源泉徴収票
    8. 6-8.所得税の減価償却資産の償却方法の届出書
  7. 7.必要経費を漏れなく計上して確定申告を成功させよう

1.不動産所得の確定申告は必要

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マンションなどの賃貸経営をすると、家賃収入を得ることによって不動産所得が発生します。不動産所得は以下の計算式で求めます。

家賃収入-必要経費=不動産所得

不動産所得が黒字だった場合は、確定申告が必要になります。

1-1.不要なケースもある

会社員の場合、給与収入以外の収入が合わせて20万円以下であれば確定申告は不要です。したがって、家賃収入から必要経費を差し引いて20万円以下の黒字であれば確定申告が不要になるケースもあります。

ただし、赤字の場合は「損益通算」の仕組みを使って、給与所得から赤字分を控除できます。所得税や住民税が減って節約になるので、確定申告したほうが得になる場合があります。

2.不動産所得の確定申告の方法は2つ

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不動産所得を確定申告するには、「白色申告」と「青色申告」の2つの申告方法があります。それぞれメリット・デメリットがあるので、事業内容に適したほうを選ぶとよいでしょう。

2-1.白色申告

白色申告は、すべての納税者を対象にした簡単に行える申告方法です。単式簿記を使って簡易的に記帳できるので、青色申告に比べて経理の負担が軽いのがメリットです。事前の申請も必要ありません。

一方で、青色申告で利用できるような税優遇措置を受けられないというデメリットがあります。税制面では不利でも、簡単に申告できるほうがよいという人に向いています。

2-2.青色申告

青色申告は、「青色申告承認申請書」と「開業届」を提出することによって、さまざまな税優遇を受けられる個人事業主に有利な申告方法です。家族に支払う給与を「青色専従者給与」として経費にできるほか、赤字を3年間繰り越せるメリットもあります。

また、青色申告では、条件によって以下の控除を受けることができます。控除額は10万円・55万円・65万円の3つがあり、適用条件は以下のとおりです。

2-2-1.【10万円控除】

55万円控除と65万円控除を利用しない人は10万円控除を利用できます。10万円控除を選択する場合は、単式簿記で記帳することが認められています。経理の負担を軽減できるのがメリットです。

2-2-2.【55万円控除】

行っている賃貸経営の規模が「マンションやアパートで賃貸する戸数がおおむね10戸以上、一戸建ての場合はおおむね5棟以上」という事業規模であれば、55万円控除を利用できます。利用するには、複式簿記で記帳し、確定申告期間中に貸借対照表や損益計算書を添付して確定申告書を提出する必要があります。

2-2-3.【65万円控除】

55万円控除の条件を満たしたうえで、e-Taxで確定申告を行うか、電子帳簿保存を行うと65万円の控除を受けることができます。e-Taxはインターネット上で確定申告書の提出や納税ができるシステムです。電子帳簿保存は、紙に印刷せず電子データとして保存することをいいます。電子帳簿保存は以前あった3ヵ月前までの事前申請が不要になったので、やりやすくなりました。

有利な青色申告ですが、複式簿記が基本になるので、記帳が面倒というデメリットがあります。他に仕事を持っていて忙しい人にとってはハードルが高いかもしれません。

また、区分マンションを1~2戸所有している程度では事業規模にならないので、55万円控除と65万円控除を利用できません。その場合は10万円控除を利用することになります。

3.不動産収入に当たるもの

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国税庁の見解によると、不動産収入には家賃のほかに、以下のようなものも含まれるとされています。

・名義書換料、承諾料、更新料または頭金などの名目で受領するもの
・敷金や保証金などのうち、返還を要しないもの
・共益費などの名目で受け取る電気代、水道代や掃除代など

上記の中には、居住用不動産の賃貸では発生しない収入もあります。

4.確定申告で不動産所得から差し引く経費

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不動産所得は家賃収入などから必要経費を差し引いて計算しますので、確定申告の作業を始める前にどのような費用が経費になるのかを把握しておく必要があります。特に物件を購入した初年度は、まとまった費用を支払うので、確実に費用計上するようにしましょう。

4-1.不動産所得にかかる税金

不動産を所有するためには、多くの税金が課税されます。課税される主な税金は以下のとおりです。

・固定資産税(毎年発生)
・都市計画税(市街化区域にある物件のみ)
・不動産取得税(取得時のみ発生)
・登録免許税(取得時のみ発生)
・印紙税(売買契約書に印紙を貼付して納税)
・個人事業税(事業所得が290万円を超える場合)

なお、所得税と住民税は経費にならないので注意が必要です。

4-2.減価償却費

最も大きな経費は物件の購入費用です。物件の購入費用は数千万円単位になることもあるため、一度に経費計上することはできません。建物の構造別に設定された法定耐用年数によって、減価償却費として毎年少しずつ計上していきます。

例えばRC造マンションは新築時47年、木造アパートは新築時22年が法定耐用年数です。中古物件の場合は経過年数によって残りの減価償却期間が異なります。また、減価償却できるのは建物価格のみで、土地価格は償却できません。

4-3.ローンにかかる金利

不動産投資ローンを組んで物件を購入した場合、毎月ローンの返済を行います。ローンに関しては支払った金額すべてが経費になるわけではなく、金利部分のみ経費として計上できます。金利がいくらかは、返済している金融機関から送付される返済予定表に記載されているので、その金額を計上します。

4-4.修繕費

不動産を所有していると、経年とともに修繕が発生することは避けられません。故障した設備の修理代はもちろん、リフォーム費用や設備点検を行った場合の費用も修繕費として計上できます。

4-5.水道光熱費

一棟物件の場合は、共用部分の電気・ガス・水道といった水道光熱費がかかります。入居者から受け取る共益費から出費しますので、共益費は収入、水道光熱費は必要経費となります。

区分所有の場合は、オーナーが管理組合に共益費を支払うので、「地代家賃」という経費項目になります。また、入居者から受け取る共益費は事業形態によって以下のような経費項目になります。

・受取家賃:不動産賃貸が本業でない場合
・売上高:不動産賃貸が本業の場合
・賃貸料:個人や会社員が副業として行う場合

4-6.各種保険料

不動産を購入したら、火災保険や地震保険への加入が必要です。地震保険は火災保険とセットでしか加入することができません。他に、建物の管理不備などによって敷地内で他人にケガを負わせた場合に補償される「施設賠償責任保険」も任意ですが必要な保険の1つです。これら支払った保険料は経費になります。

4-7.仲介手数料

物件の購入時や賃貸経営で入居者を仲介してもらった場合は、不動産仲介会社に仲介手数料を支払います。物件を購入したときは以下の計算式を使って計算します。

「物件売買価格×3%+6万円+消費税」(売買価格が400万円を超える場合)

一方、賃貸仲介手数料は、「家賃の1ヵ月分+消費税」が上限となります。

4-8.管理委託費用

物件の管理にはオーナーが自分で行う「自主管理」と、不動産管理会社に委託する「委託管理」があります。管理を不動産管理会社に委託する場合は、管理委託費がかかります。管理委託費の相場は家賃の5%相当です。

4-9.専門家への報酬費

不動産投資を行う中で、専門家に作業を依頼するケースがあります。購入した物件の不動産登記を司法書士に依頼するケースや、毎月の経理や確定申告の代行を税理士に依頼するケースなどです。不動産トラブルの解決を弁護士に依頼することも考えられます。これらの専門家に支払った報酬も経費になります。

4-10.青色専従者給与

青色申告を利用する場合は、扶養家族に支払った給与を経費にできます。ただし、いくらでもよいというわけではなく、社会通念上妥当な金額にする必要があります。例えば、妻に午前中だけ勤務してもらう場合、1日3時間、週5日勤務(月22日程度)、最低賃金全国平均1,055円で計算すると、

3時間×22日×1,055円=6万9,630円

になるので、月給7万円であれば妥当な給与水準といえるでしょう。フルタイム8時間なら18万5,000円程度になります。

4-11.消耗品費

「購入金額が10万円未満のもの」「使用可能期間が1年未満のもの」のいずれかに該当する商品は消耗品費で計上します。筆記用具や伝票類、封筒、コピー用紙、プリンターのインク、電球などが該当します。意外な商品では、備品のように思えるパソコンも10万円未満のモデルであれば消耗品費として一括計上できます。

4-12.不動産所得を得るために発生したその他の経費

ここに挙げた経費は代表的なものですが、この他にも不動産所得を得るために使った費用で経費として計上できるものがあります。

例えば、物件を視察するための旅費・交通費や、不動産会社と打ち合わせするときの飲食代、特別な募集方法を依頼する場合の広告宣伝費などがあります。

以上の他にも経費にできる費用が発生することが考えられるので、領収書やレシートは必ず保管しておくようにしましょう。また、事業用とプライベートの買い物を同じ会計で行うことは厳禁です。事業で使うものは単独で買いに行ったほうが無難です。

5.不動産所得を確定申告する手順

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初めて確定申告を行う場合、どのような手順で進めるか把握しておく必要があります。不動産所得確定申告書の書き方と、申告手順を確認しておきましょう。

5-1.①必要書類の用意と事前準備

確定申告を始めるには必要書類を揃える事前準備が必要です。白色申告と青色申告では用意する書類が異なるので、後で紹介する必要書類一覧を参考にして、準備します。

5-2.②確定申告書類の作成

書類が揃ったら、確定申告書を作成します。確定申告書類は、国税庁ホームページ「確定申告書等作成コーナー」を利用すると画面の手順に従って簡単に作成できます。作成したら印刷して間違いがないか念入りにチェックし、修正点があれば修正して完成させます。

5-3.③確定申告書類を提出

確定申告書類が完成したら、以下の3つの方法から選んで税務署に提出します。

・e-Taxで送信して提出
・郵送で提出
・税務署に持参して提出

e-Taxで送信するには、以下の3つの方法があります。

・スマートフォンを使用する(マイナンバーカードを持っている人)
・ICカードリーダを使用する(マイナンバーカードを持っている人)
・ID・パスワード方式を使用する(マイナンバーカードを持っていない人)

確定申告期間は2月16日~3月15日(税務署が休業日の場合は翌営業日)です。

5-4.④納税または還付を受ける

確定申告した結果、所得税が発生した場合は3月15日までに納税します。所得税額より源泉徴収された金額のほうが多く、還付金が発生した場合は、確定申告書に記入した金融機関に振り込まれます。

また、所得税の納付遅れや、確定申告そのものをしなかった場合は、ペナルティとして以下の税金が課されるので注意が必要です。

5-4-1.延滞税

所得税を納付期限までに納付しなかった場合は、納付期限の翌日から完納した日までの日数に応じて延滞税が課されます。税率は最高14.6%と高いので、確定申告したその日に納付するようにしたほうが無難です。

5-4-2.無申告加算税

期限内に確定申告しないと、無申告加算税が課されます。税率は納付すべき金額に対し、50万円までは15%、50万円を超える部分は20%です。無申告に気づいて自分から期限後申告を行った場合は税率が5%に軽減されます。気づいたら即座に確定申告するようにしましょう。

6.不動産所得の確定申告に必要な書類

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不動産所得を確定申告する際に必要な書類は以下のとおりです。

6-1.確定申告書

確定申告全体の収支や控除などがわかる基本の書類です。先に述べた「確定申告書等作成コーナー」を使って作成することができます。白色申告、青色申告で共通して作成する書類です。

6-2.収支内訳書

1月1日~12月31日までの収支をまとめた書類です。必要経費を勘定科目ごとに記入します。国税庁のホームページ「確定申告書等の様式・手引き等」から以下の書類をダウンロードできるので、参考にするとよいでしょう。

・収支内訳書(不動産所得用)
・令和5年分収支内訳書の書き方(不動産所得用)
・帳簿の記帳のしかた(不動産所得者用)

6-3.青色申告決算書

青色申告する場合に作成する書類です。月別の売上金額や減価償却費などを記載します。青色申告決算書には貸借対照表も作成する必要があります。

収支内訳書と同じく、国税庁のホームページ「確定申告書等の様式・手引き等」から以下の参考資料をダウンロードできます。

・所得税青色申告決算書(不動産所得用)
・令和5年分青色決算申告書の書き方(不動産所得用)
・帳簿の記帳のしかた(不動産所得者用)

6-4.固定資産税通知書

地方自治体から送付される、固定資産税の納付金額が記載された通知書です。都市計画税の納付義務がある場合は一緒に金額が記載されています。

6-5.賃貸借契約書

入居者と賃貸借契約を結んだときに作成した契約書です。賃料や賃貸条件などが記載されているので、確定申告の参考書類になります。

6-6.賃料送金明細表

物件の管理を不動産管理会社に委託している場合、毎月オーナーに送付される書類で、回収した家賃の金額が記載されています。

6-7.源泉徴収票

会社員が確定申告する場合は、勤務先から源泉徴収票をもらって添付します。給与所得と不動産所得を損益通算する場合は、源泉徴収票によって給与所得を証明できます。

6-8.所得税の減価償却資産の償却方法の届出書

減価償却資産の減価償却方法には「定額法」と「定率法」があります。特に届出による選択がなければ、各減価償却資産の種類に応じた法定償却方法が適用されるため、異なる方法を選択したい場合に必要なのが「所得税の減価償却資産の償却方法の届出書」です。開業した年の確定申告期限までに提出する必要があります。

7.必要経費を漏れなく計上して確定申告を成功させよう

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不動産所得の確定申告について詳しく見てきました。不動産所得を減らすためには、経費にできるものは漏れなく計上することが必要です。

物件を購入した初年度は、諸経費が多くかかるため、赤字になる可能性が高いです。給与所得を得ているオーナーは「損益通算」の仕組みを使って節税することができます。

例えば、給与所得を500万円得ているオーナーが、不動産所得で100万円の赤字を出した場合、給与所得から100万円が控除され、課税所得が400万円に減ります。結果的に所得税・住民税も減るため節税につながります。

細かい作業も多く大変ですが、必要経費を漏れなく計上して確定申告を成功させましょう。

(提供:Dear Reicious Online



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