不動産投資の中では少数派ですが、賃貸併用住宅を選択するオーナーもいます。賃貸併用住宅はどのような人が向いているのでしょうか。本記事では、賃貸併用住宅のメリット・デメリットについて解説し、併せて収益例や失敗例も紹介します。
目次
1.賃貸併用住宅とは
賃貸併用住宅とは、自宅と賃貸住宅を併用した建物のことです。例えば、3階建ての住宅を建て、1、2階を賃貸に出して3階に自分で住むというスタイルがあります。比率は50:50に案分するのが一般的です。
賃貸併用住宅にすると家賃収入をローンの返済に充てることができ、将来的に子どもや孫と同居するまでの間賃貸に活用することも可能です。
2.賃貸併用住宅のメリット
不動産投資として一般的な物件タイプとはいえない賃貸併用住宅を建てるのであれば、明確なメリットがなければなりません。賃貸併用住宅にすると得られるメリットとして、以下の点が挙げられます。
2-1.広々とした土地に、ちょうど良いサイズの自宅を建てられる
広い土地を持っている場合、一般的なサイズの住宅ではスペースが余ってしまうケースもあるでしょう。賃貸併用住宅であれば賃貸用の部屋数で調整できるので、ちょうど良いサイズの住宅を建てることができます。
また、子どもが独立して夫婦2人では広すぎる家になった場合も、賃貸併用住宅に建て替えることで、適正な居住スペースになります。
2-2.住宅ローンを活用できる
自宅部分が専有面積の50%以上であれば、住宅ローンを利用できる金融機関があります。投資用不動産を購入するときに組む不動産投資ローンよりも低い金利で借りられるので有利に返済できます。不動産投資ローンは金利が高いので借りたくないという人は、住宅ローンを組める間取りにするとよいでしょう。
ただし、何らかの事情によって住めなくなり、賃貸専用にする場合は単なる共同住宅になるため、住宅ローンから不動産投資ローンに借り換える必要があります。
2-3.家賃収入を利用して自宅のローンを返済できる
賃貸併用住宅の大きなメリットが、家賃収入で住宅ローンを返済できることです。居住用住宅では住宅ローンの返済は給与やその他の収入で行わなければなりませんが、賃貸併用住宅は賃貸部分のローンも家賃収入で返済できるので、ローン負担が軽減されます。
2-4.相続税の負担を軽減できる
賃貸併用住宅を建てることは、相続税対策としても有効です。相続財産のうち、現金や預貯金は相続税評価額が100%ですが、土地や建物価格は時価の70~80%程度に評価されます。時価1億円の住宅なら評価額は7,000~8,000万円に減額されるので、相続税の節税につながります。加えて賃貸住宅の場合は、自由に解体や売却ができないため、さらに評価額が下がります。
2-5.固定資産税の軽減効果が期待できる
賃貸併用住宅にすると、固定資産税が軽減されます。一般住宅用地は固定資産税が1/3になるのに対し、小規模宅地は1/6になるため、節税効果が高くなります。賃貸住宅の場合は1戸につき200㎡までが固定資産税軽減の対象になるので、どのような戸数でも固定資産税が1/6、都市計画税が1/3に減額されるので大変有利です。
区分 | 固定資産税 | 都市計画税 | |
---|---|---|---|
小規模住宅用地 | 住宅用地で住宅1戸につき200㎡までの部分 | 価格×1/6 | 価格×1/3 |
一般住宅用地 | 小規模住宅用地以外の住宅用地 | 価格×1/3 | 価格×2/3 |
3.賃貸併用住宅のデメリット
メリットが多い半面、賃貸併用住宅にはデメリットも多くあり、簡単に経営できるものではありません。以下のデメリットがあることを把握したうえで建築を考える必要があります。
3-1.設計の自由度が制約される
賃貸併用住宅の場合、一般の賃貸住宅に比べて設計の自由度に制約があります。例えば、住宅ローンを組むには賃貸部分を50%以下のスペースにしなければならないため、部屋数を多く取ることができず収益性が落ちます。
自宅部分と賃貸部分を50:50の比率で考える場合、収益性を優先して賃貸部分の面積を増やすと自宅部分も増やさなければならず、逆に賃貸部分を減らすと住宅部分まで減って住み心地が悪くなるというジレンマが発生します。
3-2.賃貸部分には住宅ローン控除が適用されない
賃貸併用住宅は一般の住宅よりは規模が大きいので、住宅ローンの金額も大きくなります。住宅ローン控除は年末の借入残高によって節税できる金額が決まります。しかし、住宅ローン控除は自宅部分にしか適用されないため、自宅部分の面積が50%であれば、年末の借入残高も50:50に按分されます。
したがって、年末借入残高が5,000万円あっても、控除をうけられるのは2,500万円分のみとなります。
3-3.売却や相続が難しくなる
賃貸併用住宅は一般的な物件タイプではないので、売却や相続の際に買い手が見つかりにくいというデメリットがあります。マンション経営を目指す人にとっては自宅部分が余計になり、広くて住みやすい住宅を探している人にとっては、賃貸部分が邪魔になります。不動産の投資先として中途半端になるので敬遠される可能性が高いといえます。
相続する場合も、譲り受けた時点で入居者がいれば、全部自宅として使用することができません。相続人が敬遠した場合、誰が相続するかで争いになる可能性もあります。
3-4.入居者からの苦情が直接寄せられる可能性がある
同じ建物に住んでいるので、入居者が直接オーナーに苦情を申し立てる可能性があるのは、精神的に大きなデメリットです。通常の賃貸経営ではオーナーは別の地域に住んでおり、苦情は不動産管理会社に寄せられます。
特に自主管理を選択した場合は、「共用部の電球が切れている」「水回りの設備に不具合が発生した」など、さまざまなトラブルに対応しなければならないので注意が必要です。
3-5.入居者の確保が難しい
賃貸併用住宅の場合、オーナーと入居者が同じ建物に住むことで、顔を合わせるのが煩わしいと考えるユーザーから敬遠される恐れがあります。特に一戸建てタイプのように戸数が少ない場合は、プライバシーを保つのが難しい環境になることもあるでしょう。あくまで相手は入居者なので、プライバシーに立ち入らないようにすることが大事です。
4.賃貸併用住宅の運用に向いている人
賃貸併用住宅は一般的な区分マンション投資に比べて運用が難しい物件タイプです。そのため土地を持っている、好立地に自宅があるなどの条件が必要になります。以下のような人は賃貸併用住宅の運用に向いています。
4-1.土地を所有している人や相続で土地を受け継いだ人
賃貸併用住宅を建てるのに向いているのは土地を所有している人です。相続で土地を受け継いだ人にも向いています。賃貸併用住宅は普通の一戸建てよりも建築コストがかかるため、土地を持っていれば土地取得費用がない分安く建築できます。
4-2.賃貸ニーズの高いエリアに自宅を持っている人
賃貸併用住宅の建築はどんな場所でもよいわけではありません。賃貸ニーズの高いエリアであることが条件になります。そこで、駅に近い、スーパーが近くにあるなど賃貸ニーズが見込めるエリアに自宅を所有している場合、賃貸併用住宅に建て替えるのも1つの方法です。
5.賃貸併用住宅の収益例
賃貸併用住宅を経営するにはどのような費用がかかるのか。費用の具体例を挙げて収支計算してみます。
5-1.初期費用
賃貸併用住宅を建てたときにかかる初期費用があります。主な費用は以下のとおりです。
・融資関係費(保証料や融資手数料など)
・印紙代(建築請負契約、住宅ローン契約)
・登記費用(建物表題登記、保存登記、抵当権設定登記)
・不動産取得税
・水道加入負担金
5-2.ランニングコスト
賃貸経営にかかるランニングコストとして、以下のような費用が想定されます。
・火災保険料・地震保険料(毎年払い、5年分一括払いなど)
・入居者募集費用(仲介手数料として家賃1ヵ月分)
・賃貸管理費(不動産管理会社に支払い、家賃5%相当)
・原状回復費費(退去時の原状回復費のオーナー負担分)
・住宅ローン返済費
・定期検査、メンテナンス費
・修繕費(数十年に一度の大規模修繕費を含む)
・その他経費(電球代、印刷代など細かな経費)
ただし、初期費用やコストは一例であり、記載したもの以外にも費用が発生する場合もあります。
5-3.収支計算
賃貸併用住宅を建てて賃貸経営した場合の、おおまかな収支をシミュレーションしてみましょう。初年度は上記初期費用が多くかかり参考にならないため、2年目以降の収支計算例とします。
融資額5,000万円、返済期間35年、金利0.5%、賃貸部分ワンルーム4戸、家賃月7万5,000円(管理費、共益費込み)、1年間満室だった場合
<収入>
・家賃月7万5,000円×4戸×12ヵ月=360万円
<支出>
・ローン返済費用 月約13万円×12ヵ月=約156万円
・固定資産税・都市計画税 年額60万円
・管理委託費(家賃5%相当) 年額18万円
・火災保険料・地震保険料(セット加入) 年額12万円
・賃貸募集費用(仲介手数料) 初回入居時7万5,000円×4戸+消費税=33万円
・その他経費 年額12万円
合計約291万円
<収支>
360万円-約291万円=約69万円
建築初年度は赤字になる可能性が高いですが、2年目以降は空室が出なければ黒字が見込める計算例です。
なお、このシミュレーションはキャッシュフローを見るためのものであり、実際に確定申告する際の収支計算とは異なります。
6.賃貸併用住宅の失敗例
賃貸併用住宅には以下のような失敗例があるので、心得たうえで選択する必要があります。
6-1.入居者とのトラブルが発生した
賃貸併用住宅は、いってみれば他人を自分の家に家賃を取って住まわせるようなものです。万一入居者が夜間に騒音を響かせたり、無断でペットを飼ったりすれば、オーナー自身がトラブルに巻き込まれることになります。
また、不動産会社に管理を委託していたとしても、直接苦情をいわれることもあるでしょう。そのため、入居審査は慎重に行う必要があります。
6-2.空室がなかなか埋まらない
退去者が出るとなかなか空室が埋まらないという事態も発生します。その間は、住宅部分だけでなく賃貸部分のローンまで自分の収入や預貯金などから返済する必要に迫られます。建てる前に、自分が持っている土地や住宅のエリアに賃貸需要があるかを入念にリサーチして建築や建て替えを決めることが重要です。
6-3.ファミリー向けの間取りを優先してしまった
賃貸併用住宅を建てるオーナーからすると、ファミリーに貸したほうが安心という心理があり、間取りをファミリー向けにすることを優先して失敗するケースがあります。ファミリー向けは専有面積70㎡程度必要なので賃貸に割り当てられる部屋数が少なくなります。
ファミリー向け2部屋12万円で貸すのと、単身者向け4部屋6万円で貸すのとでは、満室の家賃収入は同じですが、ファミリー向けは空室が出ると一気に12万円の収入がなくなるのでリスクが高いです。
6-4.自宅スペースが狭くなり、住み心地が悪くなる
賃貸併用住宅は当然のことながら自宅スペースが狭くなります。広い土地なら本来はゆとりのあるマイホームを建てられるはずです。それを賃貸併用にしたために、住み心地が悪くなって後悔する人もいます。一度賃貸併用にすると入居者が退去するまでは自宅専用に転用できないので、住み心地が悪くならないようにあらかじめ設計士に相談する必要があります。
7.賃貸併用住宅で失敗を避けるためのポイント
経営の難しさがある賃貸併用住宅ですが、事前に対策を講じることで、ある程度失敗を避けることができます。以下の4つのポイントも有効な対策です。
7-1.マンションタイプを選択する
賃貸併用住宅にはマンションタイプもあります。マンションを建築し最上階などにオーナーが居住するスタイルです。ある程度居住スペースが限られる一戸建てと異なり、マンションは4~5階の中層住宅にするなど設計の自由度が高まり収益性も向上します。
マンションタイプはオーナーが1室に居住する以外は普通のマンションと変わらないので、売却する際も買い手が見つかりやすいというメリットがあります。
7-2.サブリース契約に頼らず、自主管理も視野に入れる
賃貸併用住宅の建築で融資を申し込む場合、サブリース契約を結ぶことが条件になるケースが多いといわれます。サブリースには家賃保証サービスがあるため、万一空室が出ても一定の家賃は振り込まれるので、金融機関は安心して融資できます。
しかし、手数料がかかるうえに、家賃が減額されるケースもあります。オーナーも入居者と同じ建物に住んでいるので、自主管理も視野に入れて検討することが必要です。自主管理を選ぶ場合、融資を受ける金融機関がサブリース契約を条件にしていないか確認する必要があります。
7-3.事前に収支シミュレーションを行う
賃貸併用住宅は居住部分と賃貸部分があるため、普通の賃貸物件以上に綿密に収支シミュレーションを行う必要があります。
賃貸部分からどれくらいの家賃収入が見込めるか、ローン返済額や修繕費、固定資産税などのランニングコストがどの程度かかるかシミュレーションし、キャッシュフローが黒字になる採算点を見出すことが大事です。一戸建てタイプとマンションタイプの両方で行って判断すると、より正確なシミュレーションができます。
7-4.賃貸併用住宅の知識と経験が豊富な不動産会社を選ぶ
賃貸併用住宅は不動産投資では少数派なので、著名な不動産ポータルサイトでも数十件程度しか売り出し物件が掲載されていないことがあります。
そのため、中古で購入するには選択肢が少ないのが現状です。賃貸併用住宅は土地開発として新築するか、自宅を改築して転用するほうが適しています。新築・改築する際は賃貸併用住宅について熟知し、建築実績が豊富な総合不動産会社を選ぶ必要があります。
8.賃貸併用住宅に向いていないと判断すれば、マンションタイプの検討も
賃貸併用住宅は家賃収入で住宅ローンを返済できるメリットはありますが、子ども世帯と同居することになっても、入居者が退去するまで待たなければならないなど制約も多いです。
入居者と近すぎるのが苦手で賃貸併用住宅は自分に合わないと判断する場合は、マンションタイプを検討するのも有効な方法です。マンションタイプであれば、オーナーは単なる入居者の1人でしかないので、誰がオーナーか知られる可能性は低いでしょう。
マンションタイプを検討する場合は、ハウスメーカーよりもデベロッパーを兼ねた不動産会社に相談するほうが適しています。マンションの建築実績が豊富なうえに、建築したマンションの管理もそのまま委託できるので便利です。
マンションタイプは基本的に住宅ローンを使えませんが、一戸建てタイプよりも収益性が高いというメリットがあります。まずは気軽に不動産会社を訪ねて相談してみるとよいでしょう。
(提供:Dear Reicious Online)
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