これまでの事業変遷について
—— 創業から現在に至るまでの事業の変遷についてお聞かせいただけますか。
株式会社フォーカスシステムズ 代表取締役社長・森 啓一氏(以下、社名・氏名略) 当社は、1977年に独立系のソフトウェア開発会社として創立しました。当時はソフトウェア開発自体が非常に珍しい時代で、まだフロッピーディスクや9インチのディスプレイが主流でした。私が初めてパーソナルコンピュータを手にしたのは1989年頃ですから、1977年にソフトウェア開発一本で独立した創業者たちは非常に先見の明があったと思います。その後、1980年代から通信市場の成長性を見極めて進出しました。バブル崩壊後、他社が人員整理を進める中でも当社が進出した通信業界は成長を続け、仕事が減ることはありませんでした。
当社が成長するきっかけとなったのは、官公庁の仕事に参入したことです。創業者が防衛大学校出身であったため、防衛庁とのパイプがありました。当時、300人弱の規模で官公庁の仕事に参入できたこのつながりが大きかったです。
ただ、直接防衛庁の仕事をするのは難しいため、日本電信電話株式会社と一緒に仕事をすることになりました。これが官公庁の仕事が伸びるきっかけとなりました。官公庁のシステムは特徴的で、一度入ると開発が終わった後も保守運用が続き、その次にまた開発があります。急激に利益が伸びるようなものではありませんが、堅実な売上と利益をもたらしてくれる面で、会社にとって大きなプラスだったかなと思います。
—— 官公庁の仕事だけでなく、他の分野にも進出されたと聞きました。
森 はい。官公庁の仕事だけではポートフォリオが偏るため、当時はまだマーケットとして認識されていなかったITサービス事業にも1997年頃から積極的に人材を投入しました。こちらでは、大手企業のシステム運用保守やインフラ技術支援を行っています。特にインフラ技術では、日本でもトップクラスの技術力を持っています。
その後、2000年にはセキュリティ事業にも参画しました。当時、日本ではセキュリティや暗号技術は外国に依存していましたが、独自の暗号技術や電子透かしなどの取扱いを開始しました。
—— 上場についてもお聞かせください。
森 最初に店頭公開したのは1996年です。その後2015年には東証二部上場、2016年には東証一部上場、2022年にはプライム市場に移行しています。
自社事業の強みについて
—— 御社の事業の強みについて教えていただけますか?
森 まず、我々が独立系のSIerであるということが大きな強みです。親会社が資本を持っているわけではないので、自由に挑戦できる環境があります。ただ、これは同時に弱点でもあると言えます。常に安定した仕事があるわけではないので、常に危機感を持って仕事に取り組まなければなりません。そこで、その分一件一件しっかりした仕事をして、お客様からの信頼を築き上げてきました。創業以来、どんなに厳しい状況でも仕事を投げ出したことはありません。
実際、私が社長に就任する前にも、トラブルを抱えるプロジェクトがあったんです。それでも全力で取り組み、お客様からの信頼を得ることができました。今では資本力や経営基盤も安定しており、そのおかげでどんなプロジェクトでも無理なく最後までやり遂げることができるようになりました。
—— 経理のラインからの視点も興味深いですね。戦略的に赤字案件を取ることはありますか?
森 当社では、戦略的に赤字案件を取るようなことはせず、誠実に仕事をこなすことを大切にしています。任された仕事は最後までやり遂げる、それが私たちの信念です。
—— 公共から民間まで幅広い仕事を手がけている点も御社の特徴ですよね。
森 はい、公共と民間の両方に仕事があることは非常に大きな強みです。日本経済が不況になると、公共投資が増え、公共の仕事が伸びます。逆に、公共の仕事が減ると民間の仕事が伸びるというバランスがあります。また、コンサルから保守運用まで、つまり上流から下流まですべての工程を手がけることができるのも強みです。主役も脇役もこなせる「なくてはならない企業」として存在感を発揮していると自負しています。
ぶつかった壁やその乗り越え方
—— 2011年に社長になられてから直面した困難についてお伺いしたいのですが、どのような壁にぶつかり、それをどう乗り越えられたのか教えていただけますか。
森 私は社長になってから大きな壁を感じたことはあまりありません。もともと管理本部にいたときから、会社の問題を解決する役割を担っていたため、問題が起こるとむしろワクワクする感覚を覚えるようになりました。問題を解決すれば会社が一歩成長できると考える癖がついているんです。それが良いのか悪いのかはわかりませんが、問題をマイナスに捉えず、解決後の新しい世界を楽しみにしています。
唯一の課題は、事業部間の横のつながりが希薄だったことです。事業部ごとに独立採算制で動いていたため、ある事業部で問題が発生しても他の事業部が協力することは少なかったんです。これを改善するために、事業部間の連携を強化し、会社全体で一丸となって取り組む体制を整えました。
—— 具体的にはどのように改善されたのですか。
森 私自身は営業や開発の経験はありませんが、数字を見て管理することを得意としています。外注の増加や残業時間などの数字を追うことで、問題の兆候を早期に発見し、解決に向けた仕組みを作りました。また、技術や営業に精通した役員を配置し、私が不得意な部分を補完してもらいました。各役員により責任を持ってもらうことで、会社全体のパフォーマンスが大きく向上しました。
その結果、二部上場、一部上場を成し遂げられたわけですが、この時、特に古くからいる社員とその家族がすごく喜んでくれたんですよね。そういった社員の声を聞いて、これまで頑張ってきて本当に良かったと思いましたし、これからも社員が誇りに思える会社を目指していきたいと改めて感じました。
—— IT業界では人材不足が問題視されていますが、御社ではどのように対応されていますか。
森 当社でも人手不足は常に課題ですが、新入社員の採用は非常に順調です。今年は108名の新入社員が入社し、来年も100名近くの入社を予定しています。特に女性の割合が4割以上で、会社にとってプラスになっています。これは、若手社員が新卒採用を担っており、学生の目線で対応していることが功を奏しているのかもしれません。
—— 中途採用についてはいかがですか。
森 2024年度の中途採用は前年度と比べ、経験者層の獲得を優先したことが幾分かの採用数減少に影響しています。給与面における課題は認識しているため、当社も2年連続でベースアップし、社員も給与の向上を感じてくれているようです。一方、退職率は6%程度で、IT企業の中では低い方です。
今後の経営・事業の展望
—— 今後の経営事業の展望についてお聞かせいただけますか。特にM&Aなどについてもお話しいただければと思います。
森 2024年現在、中期経営計画の2年目に入っており、来年で3年目を迎えるところです。そのタイミングで、当社は50期を迎えます。私が掲げている目標の一つは、利益率8%の達成です。それと同時に、絶対的に安定した経済基盤を築くことも重要だと思っています。どんな状況でも潰れない会社を目指し、強固な組織と財務基盤を作り上げたいと考えています。
次の経営計画では、この基盤の上に何を構築するかが課題です。例えば他業種との連携なども考えています。その際に、M&Aの選択肢も検討すべきだと考えています。
今後10年、20年、そして50年後にどのような会社を作り上げるのか、この1〜2年でしっかりと考え、具体的な形にしていくことが重要です。これが次の100年に向けた当社の形だと思っています。なので、現在は種まきの時期ですね。
いまやIT業界は多くの分野で欠かせない存在となっています。特に日本では、これからITを導入することで成長が期待される一次産業、つまり農林水産業、そして教育や医療・介護などの分野が注目されています。これらの分野にITを掛け合わせることで、多くの可能性があると考えています。
現在、小規模ながら20〜30のプロジェクトを常時動かしています。これらのプロジェクトが大きく花開くことを期待するとともに、他の企業との協力によるシナジー効果で新しい展開ができればと考えています。新しい技術にも常に目を光らせ、挑戦を続けていきます。
ZUU onlineユーザーへ一言
—— 最後に、ZUU onlineのユーザーに一言お願いできますか?
森 今回、「隠れ優良企業のCEOたち」というテーマを見て、私たちの会社がまだまだ知られていないのだなと改めて感じました。これは一つには、会社の宣伝がまだ足りていないからだと思いますので、ブランディングをしっかり行う必要があると感じています。ただ、ブランディングだけではなく、それに見合うだけの体力と実績を積み上げることも重要です。
友人から冗談交じりに「フォーカスシステムはつまらない会社だ」と言われることがあります。しかし、これは安定していることの証だと捉えています。計画を立て、それを確実に実行できることが当社が誇るところです。投資家の方々からは、ギャンブル的な面白さはないかもしれませんが、事業計画に対する着実性は非常に評価されています。“安定”は会社の基盤ですので、今いらっしゃるお客様を大切にしながら、さらに新しい世界に進出していくことで、期待感が持てるフォーカスシステムズにしていきたいと思っています。 ぜひ今後も当社にご期待ください。
- 氏名
- 森 啓一(もり けいいち)
- 社名
- 株式会社フォーカスシステムズ
- 役職
- 代表取締役社長