この記事は2025年3月28日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「開業の多様化が進み、女性開業者の割合は過去最高に」を一部編集し、転載したものです。

(日本政策金融公庫総合研究所「新規開業実態調査」)
当研究所が実施する「新規開業実態調査」からは開業の小規模化とともに、開業者の多様化が見てとれる。開業者の性別を見ると、調査を開始した1991年度に12.4%であった女性の割合は、直近の2024年度には25.5%と倍以上に上昇し、過去最高となった。女性の社会進出に対する理解が広がってきたことが、女性開業者の増加にもつながっているとみられる。
開業者の年齢は、約30年間で60代の割合が2.2%から6.3%、50代が9.3%から20.8%に上昇している。少子高齢化による人口構成の変化に加えて、定年後の収入を確保するために開業する人も増えていると推察される。
就業形態も多様化が進む。開業直前の勤務先を「離職していない」人の割合は、比較可能な13年度の4.4%から直近では6.1%に上昇した。事業収入以外に定期的な収入がある開業者の割合は、13年度の19.5%から直近で42.2%まで跳ね上がっている。民間企業を中心に副業の解禁が進み、インターネット上で隙間時間に個人で仕事を請け負う人も増えている。本業との掛け持ちのしやすさが、副業での開業の可能性を広げていると思われる。
開業者の多様化に伴い、事業に充てる時間が週50時間以上である開業者の割合は、13年度の73.6%から、直近では50.1%まで低下した。女性(44.1時間)や60代(39.8時間)の開業者が全体平均(49.0時間)を下回っている。この傾向は前回紹介した開業の小規模化にも関係し、特に女性の開業では、開業時の従業者数が2.6人にとどまっており、全体平均(2.9人)を押し下げた。
開業動機もさまざまである。多いのは「自由に仕事がしたかった」(56.9%)や「仕事の経験・知識や資格を生かしたかった」(46.0%)、「収入を増やしたかった」(45.1%)などだが、「自分の技術やアイデアを事業化したかった」「社会の役に立つ仕事がしたかった」「時間や気持ちにゆとりが欲しかった」も2割超に達している(図表)。
全体平均と比べると、女性や60代の開業者は「年齢や性別に関係なく仕事がしたかった」という割合(順に16.3%、31.7%)が特に高かった。そのほか、女性では「趣味や特技を生かしたかった」(13.7%)、60代では「仕事の経験・知識や資格を生かしたかった」(60.2%)も高くなっている。なお、勤務を続けている開業者では「社会の役に立つ仕事がしたかった」(45.0%)が高い傾向が見られる。
開業は、家庭と仕事の両立や定年後のキャリアの形成、趣味の活用、社会貢献を望む人の受け皿となり、社会全体の裾野を広げている。個々のインパクトは小さくとも、多様に集積することで、社会に豊かさをもたらしているといえそうだ。

日本政策金融公庫総合研究所 研究員/青木 遥
週刊金融財政事情 2025年4月1日号