
M&Aを選択した理由とその背景
—— 御社がM&Aを選択された理由とその背景についてお伺いしたいと思います。
株式会社フォーナイン 代表取締役 今井 亮一氏(以下、社名・氏名略) 私は会社設立時から、リユース業界において、競合他社、特に大手とは戦わないように経営してきたつもりですが、10年先、15年先を考えた時に、これからは大手とも戦っていかなければならないと考えていました。そんな折にバイセルからお話があったのがきっかけです。
—— 大手と競合しないように経営されてきた中で、大手の領域に行かなければならないと感じたのはなぜでしょうか?
今井 例えば、店舗出店において、基本的に大手は一等地に出店することが多いですが、我々は二等立地と呼んでいる駅前や繁華街からはやや離れた場所に出店する戦略を取ってきました。マーケティングにおいても、大手とは異なる安心感やサポートを打ち出し、フランチャイズのオーナーに利益を還元する独自のアプローチをしてきました。 しかし、ここからさらに成長するためには大手と同じ領域に進出する必要があると感じるようになっていきました。
売却先の選定におけるポイント
—— 今回の売却先としてバイセルグループを選ばれた理由をお聞かせください。
今井 バイセルグループにジョインしたのは2022年の夏頃でしたが、実際には2021年の秋頃からM&Aのお話をいくつかいただいていました。当時、バイセルは2019年に上場、2020年には株式会社タイムレスをM&Aするなど、業界内で非常に勢いがありました。そういった知名度の広がりもあって、我々としても注目していました。
—— 売却先を選ぶ際のポイントとしては何があったのでしょうか?
今井 売却先の選定においては、3つのポイントがありました。まず1つ目は価格です。2つ目は一緒になった場合のシナジー。そして3つ目は弊社の従業員の待遇や未来に関してです。この3つのポイントが全て揃っているのがバイセルグループでした。他の企業様では、どうしてもどこかが欠けてしまっていたんです。
—— 事業シナジーについて、バイセルグループをどのように評価していかれたのでしょうか?
今井 価格についてはシンプルでわかりやすく、シナジーに関しても相手の会社が何をしているのか事業構造が見えればわかりやすいです。一番難しいのは待遇や未来についてだと思っています。バイセルグループからは、従業員に対して給与面などをすぐに大きく変えるつもりはなく現体制のまま進めること、単なる子会社ではなくグループの一員として一緒に成長していきたいと言っていただいたことが、決め手の一つになりました。とても好印象でした。
また、他の役員の方々とお話しする中で、人柄や企業文化を知ることができました。もちろん、やってみないとわからない部分もありますが、積極的にコミュニケーションを取り、相手の考えを理解することで、合意形成を進めました。
M&A後の変化や挑戦、M&Aを通じて得られた学び
—— M&A後、具体的にどのような変化を感じましたか。
今井 以前までは、私が採用計画から最終面接、マーケティングの監修、各部署ごとの会議体、P/L、B/Sの管理まで、ほぼ全ての業務に関与していました。週に2回は必ず進捗を追い、管理・更新していました。これにより、数字の部分で何か違和感があればすぐに指摘し、間違いがないか確認していました。全てに目を通せるという安心感はありましたが、スピード感が落ちるというデメリットもありました。
—— それは非常に多岐にわたる業務ですね。
今井 バイセルジョイン後は、各部署ごとにチームを設けて、複数名で考えをまとめて私の方に持ってきてくれるので、意思決定のみに集中できるようになり、スピード感も上がってきていると感じます。
—— ですが、社長がハンズオンで関与していた時の方が、精度は高かったのではないでしょうか?
今井 具体的な数値で見ると、私が直接関与していたときの方が良い結果だった部分もあります。しかし、現在はチームの力を活かしながら、より効率的に進められるようになっている部分も多いです。部長以上のレイヤーの人たちの能力や考え方の共有によって、100パーセント以上の成果を上げている部分もあります。やはり、組織としての成長を考えると、個人の手を離れた部分があることも重要だと思います。
統合後の相乗効果
—— M&Aを通じて得られた相乗効果や学びなどはありましたか?
今井 コンプライアンス周りが強化されたことは大きいです。設立間もない会社では、どうしてもコンプライアンスに重きを置くことが難しいですが、それが一気に強化されました。また、250店舗の規模まで増えた店舗情報のうち、活用しきれなかった部分が改善されました。データドリブン経営を取り入れることで、広告の打ち方や店舗内の施策など検証がより深くできるようになりました。
—— 顧客データを活かしきれなかったという点は大きいと思いますが、ジョインされることによって、分析やマーケティング面でどのような変化がありましたか?
今井 数字も全体的に確認しやすい形に整備され、より具体的な成果が現れました。ジョインされる前にはできなかったことが、今では可能になっていると感じています。
——バイセルグループにジョインされてから、業務の手離れが進んでいるとのことですが、その分どのようなことに時間を使うようになったのでしょうか?
今井 2022年に経営統合をして、まずはデータの統合や業務のデジタル化に取り組み、その年はあっという間に過ぎ去りました。そして2023年からは社内で部長職を任命し、業務の権限を譲渡していきました。今は部長以上のレイヤーと密に会議を開き、認識を合わせたり、より深く考えてもらう点を整理したりすることを重視しています。 彼らには、社内外の様々な事象に対して、時間を割いて直接話を聞き、ファクトを掴んだうえで判断していって欲しいと思っています。
—— それは新しい経営陣が今井さんのようなブレインを担うための準備とも言えるのでしょうか?
今井 そうですね。自分たちで考え、新しいアイデアを出してもらいたいです。最終的に判断して舵を切るのは部長職以上のレイヤーですから、責任感を持ってジャッジメントしてほしいと考えています。 粘り強く人対人で向き合いながら、彼らに何をすべきか考えさせることが大切です。大変ですが、意識が変われば非常に強い組織になると思います。
これからのM&Aを目指す経営者へのアドバイス
—— これからM&Aを選択する経営者に押さえておくべきポイントを教えていただけますか?
今井 M&Aを考える際、もちろん組織や価格といった基本的な要素は重要です。しかし、もっと重要なのは「時間」です。どれだけお金や知名度があっても、時間がなければ意味がありません。時間は有限であり、全ての人に平等です。M&Aを行うのは、数年後の未来にタイムスリップするような感覚です。企業単体では難しかったことも、達成できる可能性が大きく広がります。会社は売って、時間は買ったような感覚ですね。
M&Aを行う前であれば5年や10年かけてようやく達成できることを、M&Aで先取りし、さらにその先の未来へ早く進むことができます。これは非常に大きなメリットだと思います。
- 氏名
- 今井 亮一(いまい りょういち)
- 社名
- 株式会社フォーナイン
- 役職
- 代表取締役