株式会社microCMS
(画像=株式会社microCMS)
松田 承一(まつだ しょういち)――代表取締役
ブラジル生まれ千葉県育ち。東京電機大学を卒業後、ヤフー株式会社に入社。ツール系のAndroid / iOSアプリの開発やCTO室にて全社の技術支援を行う。その後スタートアップ企業や大学講師を経て株式会社microCMSを共同創業。著書「黒帯エンジニアが教えるプロの技術 Android開発の教科書(ヤフー黒帯シリーズ)」他
株式会社microCMSは、「エンジニアの武器を作り出し、世界の進歩を後押しする」をミッションとして掲げ、日本製のヘッドレスCMSプラットフォーム「microCMS」を開発・提供しています。また、エンジニアリングの知識がなくてもサイトを作ることができるmicroCMSのテンプレートマーケットプレイス「Templates」事業を展開しています。

目次

  1. 創業時からの事業変遷
  2. M&Aを選択した理由とその背景
  3. M&A後の変化や挑戦、M&Aを通じて得られた学び
  4. 統合後の相乗効果
  5. これからのM&Aを目指す経営者へのアドバイス

創業時からの事業変遷

——創業の経緯についてお聞かせください。

株式会社microCMS 代表取締役・松田 承一氏(以下社名、氏名略) もともと私はヤフー株式会社でエンジニアとして働いていました。2017年に、柴田という共同創業者とともに独立し、microCMSの前身となる会社を立ち上げました。その後、現在の「microCMS」というサービスが誕生したのは2019年後半のことです。

microCMSは「CMS(コンテンツ管理システム)」の中でも「ヘッドレスCMS」という、特にエンジニアにとって使いやすいよう設計されたサービスです。特徴としては、APIを中心にしてコンテンツを管理できることであり、柔軟で高品質なサイト構築が可能です。つまり、プログラミング知識を活かしながら効率よくサイトを作成できるツールと言えるでしょう。

——なぜ「microCMS」というサービスを開発するに至ったのでしょうか?

松田 背景には、2018年ごろの受託開発の経験があります。当時、私と柴田は2人でアプリやウェブサイトの受託案件を手掛けていました。しかし、その過程でAPIを作る作業に多くの時間が割かれていると気づいたのです。

APIを迅速かつ効率的に構築できれば、フロントエンドの開発者がスムーズにサイトを作成できるようになります。この課題に対する解決策として、microCMSの開発を進めました。2019年後半にはサービスの形が整い、現在に至るまで進化を続けています。

——その頃コロナ禍が事業に与えた影響もあったのでしょうか?

松田 正直なところ、コロナの影響はそれほど大きくありませんでした。私たちが提供しているサービスは、もともとオンラインのメディアやウェブサイト構築を支えるものです。そのため、コロナ禍による特別な需要の変化というよりは、既存トレンドがそのまま継続した感覚ですね。 むしろ、技術進化によって変わりゆくウェブサイト制作の方法に合わせることが重要でした。例えば、フロントエンドのフレームワークの流行が2018年から2019年にかけて変化し、それに対応する形でmicroCMSも機能を強化しました。

——最近の事業展開で大きな変化はありましたか?

松田 大きな変化の一つは、成長戦略におけるフォーカスです。これまではプロダクトそのものの質を高める「プロダクトレッドグロース(PLG)」に注力してきました。この手法は、プロダクトの魅力そのものがユーザーを呼び込み、口コミで広がることを目的としています。 これを実行するにはエンジニアを中心とした組織が必要となる一方で、セールスやマーケティングの部門がほとんど存在しないという課題も抱えていました。このままでは成長角度をさらに高めることが難しいと感じ、ここ1年で「セールスレッドグロース(SLG)」への取り組みも始めました。

——その中で、M&Aを検討するに至った理由を教えてください。

松田 SLGへの取り組みを進める中で、自身の組織力だけでは対応しきれない部分もあると気づきました。また、プロダクトをさらに広めるためには、私たちの技術に精通したパートナーとの協業が不可欠でした。

特に、今回パートナーとなったエイチームは、多数のITサービスを運営する企業としてエンジニアが多く在籍しているためエンジニア文化が根付いており、エンジニア特化型のコミュニティメディア「Qiita」を運営していることも私たちにとって大きな魅力でした。また、営業やマーケティングなどのビジネス推進力も強く、私たちが進めたいSLGの取り組みに最適なパートナーでした。

M&Aを選択した理由とその背景

—— M&Aを選択した背景について教えていただけますか?

松田 確かに、ベンチャーキャピタル(VC)からの資金調達や一部の株式売却といった選択肢もありました。ただ、VCからの資金調達の場合、高いバリエーションがつく一方で、最終的には上場を目指さなければならないという制約が生まれます。

上場そのものに魅力を感じていないわけではないのですが、今の日本の市場環境を考えると、上場することのメリットよりも、事業成長のスピードが鈍化してしまう懸念や上場準備や維持のための負担の方が大きいと感じました。上場に向けた準備や投資家対応など、多くのリソースを割く必要があり、事業成長そのものに集中できなくなる懸念がありました。

また、部分的な資本提携も考えましたが、目的が不明確になるリスクがあります。私たちの最優先事項は、microCMSを成長させること。そのために、事業に専念できる環境を整えるため、株式を100%譲渡するM&Aを選択しました。

——M&Aにはリスクや不安もつきものだと思いますが、その点についてはいかがですか?

松田 私自身のスタンスが比較的柔軟であることもあり、大きな抵抗感はありませんでした。 私が以前所属していたヤフーでは、多くのサービスが一定期間で終了しました。こうした経験から、プロダクトにはライフサイクルがあることを自然と理解していました。microCMSも例外ではなく、事業が成長するために必要な変化や新陳代謝を受け入れるべきだと考えています。

また、これからmicroCMSがさらに大きく成長していく中で、私以上に適した経営者が現れる可能性もあります。その時には、私が引くという選択肢も会社にとって正しい判断だと思っています。要するに、私がこだわるべきなのは、私自身のポジションではなく、事業をどれだけ成長させられるかという点です。

M&A後の変化や挑戦、M&Aを通じて得られた学び

——M&Aを経て、microCMSではどのような変化がありましたか?

松田 一番大きな変化は、これまで着手できなかった「セールスレッドグロース(SLG)」に取り組む基盤が整ったことです。エイチームからはSLGの経験が豊富なメンバーが出向し、エンジニア向けの知見を持つメンバーが新たにチームに加わりました。その結果、私たちが得意としなかった営業やマーケティングの立ち上げが急速に進んでいます。

——文化の融合や日々の業務の中で、特に良かったと感じる点はありますか?

松田 エイチームとは、もともと価値観や文化が近い部分がありました。例えば、エイチームは“Ateam People”という共通の価値基準を掲げ、社員一人ひとりを尊重する文化を大事にしています。microCMSもエンジニアを中心とした組織なので、この点で共通する部分が多いと感じています。そのため、グループインしてからも大きな摩擦なく協力体制を築けています。

また、これまで相談相手が限られていた部分が大きく改善されました。以前は、ベンチャーキャピタル(VC)に相談する機会が中心で、参考になる指摘を多々いただく一方、VCは深く企業運営に関与しない場合が多いことため、実効性を伴う議論はなかなかできていませんでした。しかし、エイチームでは経営戦略室の方々が定期的にディスカッションを行い、実務的な視点から深い議論ができています。これにより、組織としての安心感や信頼感が格段に高まりました。

統合後の相乗効果

—— 統合後の相乗効果についてお聞かせいただけますか?

松田 多くの学びがあります。事業ごとに規模感が違うので、会社規模が異なります。それぞれの視点で考えるべきことが違うと実感しています。

—— 経営者として、何か新たに感じることはありますか?

松田 いろいろな社長と接する中で、会社運営の考え方についても、例えば「何人の壁」といったものがありますが、企業ごとに対応が異なることを学びました。

—— 組織の成長段階に応じて考え方も変わるということですね。

松田 小さなグループでの感覚と、組織がレベルアップしていくときの考え方は違います。ある種ドライに考える部分も出てくるのだと感じています。

また、多くの事業をコントロールしているのは、経営者としてすごいと感じます。一事業だけでも大変なのに、これだけの事業を管理するのは本当にすごいと思います。

これからのM&Aを目指す経営者へのアドバイス

—— これからのM&Aを目指す経営者の方々へのアドバイスについてお伺いしたいのですが、松田社長はどのようにお考えですか?

松田 私が考えているのは、まずは作っているものや提供しているサービスを、本当に良いものにしてほしいということです。M&Aは事業戦略の一部であり、進み方の一つに過ぎません。それが自分たちの事業に適しているかどうかを考えるべきです。

その上で、M&A自体は良いものだと思います。自分たちだけで全てをやらなくても良くなる環境が整い、よりプロダクトに集中できる環境になります。もちろん、関係が良ければの話ですが。経営者としても、周りのすごい経営者から学ぶ機会が増えます。そういった意味で、M&Aは良い選択肢だと考えています。

氏名
松田 承一(まつだ しょういち)
社名
株式会社microCMS
役職
代表取締役

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