本記事は、桑原 晃弥氏の著書『不可能を突破する 大谷翔平の名言』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

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(画像=Vitalii Vodolazskyi / stock.adobe.com)

先入観は可能を不可能にする

―― 『大谷翔平 野球翔年Ⅰ』

大谷翔平は2021年から2024年の間に3度のMVPを受賞しています。成績は次の通りです。

  • 2021年  9勝2敗  46本塁打
  • 2022年  15勝9敗  34本塁打
  • 2023年  10勝5敗  44本塁打
  • 2024年  登板なし。 54本塁打59盗塁

2022年もMVPに相応しい数字でしたが、この年はアーロン・ジャッジが62本のホームランを打ったことでジャッジの得票が圧倒的でした。それはともかく、4年の間に3度の4VPというのも驚異的ですが、2021年と2023年が投打の二刀流であったのに対し、2024年は打者専念、それもDH専念であったところに驚きがあります。それはMLBの歴史を変える受賞であり、不可能を可能にした受賞でもあったのです。

大谷以前、DH専念のバッターとしてはエドガー・マルティネスやデビッド・オルティスが素晴らしい成績を残していますが、MVP投票で2位あるいは3位になったことはあっても、1位になることはありませんでした。理由は誰もが1日に4回か5回しか打席に立たず、守備の貢献のない選手がMVPを獲得するなどありえないと考えていたからです。

大谷の同僚のフレディ・フリーマンもMVP経験者ですが、長く「指名打者にMVP受賞なんてあり得ない」と思っていたといいます。ところが、大谷を見ているうちに考えが変わったといいます。こう話しています。

「今年のあいつを目の前で見せつけられたら、反論のしようもないよ。限られた機会で50−50とかやられてしまったら、考え直すしかないよな」

たしかに大谷は投げることはできませんでしたが、54本のホームランを打ち、59個もの盗塁を成功させています。これでは「大谷以外」に投票できるはずもありませんでした。もっとも、大谷自身は「投手としては役に立っていない」という声には、「ああ、今年は投げられませんでした。すみません、ホームラン50本打っただけで」とユーモア交じりで返し、同時に「この賞(MVP)はチーム全体に与えられたものを代表として受け取るものであり、来年ももっと勝ちたいという思いが強まっています」と答えています。大谷がここでもまた不可能を可能にしたのです。

ワンポイント
「先入観は可能を不可能にする」と心得る。可能か不可能かは自分で決める。

僕にとって、それは重圧というより喜びですね

―― 『SHO-TIME 3. 0』

「成功のプレッシャーがかかっている方が、プレッシャーのかからない無名人でいるよりはずっといい」は、「ロケット」の愛称で呼ばれ、350勝、4,500奪三振を達成したロジャー・クレメンスの言葉です。7度のサイ・ヤング賞に輝くクレメンスは、常に勝たねばというプレッシャーの中で戦ってきましたが、本人は「俺はそれでいいと思っている」とむしろ楽しんでいたといいます。

大谷翔平は、ドジャースの同僚たちも話しているように「いつも楽しそうに」野球をしています。第5回WBCの時もとても楽しそうにしていましたし、戦いを心の底から楽しんでいるように見えたものです。なぜそんなに楽しそうにできるのでしょうか?

大谷は、「準々決勝以降はトーナメント制で、1回でも負けたら終わりの舞台で、本当に強い相手と戦うことは人生の中でそうそう経験できることではありません。当然、プレッシャーもあるわけですが、この時の楽しさはそんなプレッシャー込みで楽しいものだったし、こうした舞台でプレーできることへの感謝の気持ちも強かった」といいます。

強いプレッシャーはたいていの場合、緊張のあまり普段の力が出ない原因ともなりますが、このような場合、しばしば「楽しめ」と言われるように、プレッシャー込みで楽しんでこそ本来の力が発揮できるのです。

テレビゲームも楽しいし、友だちと遊ぶ時間も楽しいものですが、大谷のように凄まじいプレッシャーさえも楽しむことができて初めて人は成長できるし、すごい成果を挙げることができるのです。

大谷がプレッシャーを楽しみ、それを力に変えられるのは2021年から3度のMVPを獲得するなど素晴らしい成績を挙げ続けてきたことを見ればよく分かります。MLBでは成績を残し、年俸が上がれば上がるほど次への期待は高まり、プレッシャーも強まります。ましてや大谷の2024年の成績は「大リーグ史上初」レベルなわけですから、普通の選手なら「毎年、そんなことを期待されても」となるはずですし、「毎年、ワールドシリーズ優勝なんて」となるはずですが、大谷は世界一と歴史に残る偉業を期待されることについてこう答えています。

「僕にとって、それは重圧というより喜びですね」

大きな期待は選手にとっては重圧ではあっても、やはり「喜び」なのです。

ワンポイント
プレッシャーがあるからこそ楽しめるし力も発揮できる。

緊張はするんですけど、緊張の度合いというか、緊張の種類が違う感じがします。
「ありがとうございます」と思えるくらいになりました

―― 『Number 』1125

大谷翔平は2018年10月、初めてのトミー・ジョン手術を受けていますが、その際には打者としての復帰は7カ月後、投手としての復帰は2020年7月までかかっています。しかも2020年は世界的なコロナの流行があり、試合数が大幅に短縮されたこともあり、投手としての登板はわずか2試合に留まり、防御率37.80というさんざんな結果に終わっています。打者としても44試合に出場して、本塁打7本(2019年には18本)と、自身「情けない」と振り返るほどの成績でした。

「思うように体が動かない」「やりたいことがまったくできない」という辛い経験をしただけに、2度目の手術にあたっては、前回以上に時間をかけてリハビリをするという覚悟がありました。

幸い打者としては手術の3カ月後にはバットを振れるようになり、3024年はDHに専念したことで、MLB史上初の「50−50」を達成しただけでなく、ホームラン王、打点王、MVPを獲得するなど圧倒的な成績を残し、チームも世界一に輝いています。

一方、投手としての復帰に関してはとても慎重に進められています。投球練習の再開は6カ月後、そこから球数を制限し、距離も少しずつ長くしながら時間をかけて進めています。当時の心境をこう振り返っています。

「先発投手なら誰でもそうだと思いますが、先発登板する時はある種の緊張感がつきものですよ。あの緊張感を取り戻したい」

こうした日々を経て2025年6月16日、大谷は当初の「オールスター明け」という予測よりも早く投手として復帰します。まずは1イニングという短い先発でしたが、「一歩前進かなと思います」という思いを口にするとともに、かつての自分と比較して、緊張の度合いが変わったと話しています。「感謝の気持ち」も口にしました。

「それ(投げること)が当たり前の状況だったときにはすごく緊張したんですけど、いまはあまりしなくなったんですよね。緊張はするんですけど、緊張の度合いというか、緊張の種類が違う感じがします。『ありがとうございます』と思えるくらいになりました」

勝ち負けにこだわっていた時代と比べて、今は勝負にこだわりつつも、投げられることへの感謝の気持ちも強くあるといいます。ケガや手術を経て、「ありのままの自分でマウンドに立てることへの満足感」が復帰後の見事なピッチングを後押ししています。

ワンポイント
「ありのままの自分」への感謝の気持ちが高いパフォーマンスを可能にする。
『不可能を突破する 大谷翔平の名言』より引用
桑原 晃弥(くわばら・てるや)
1956年、広島県生まれ。経済・経営ジャーナリスト。慶應義塾大学卒。業界紙記者などを経てフリージャーナリストとして独立。トヨタ式の普及で有名な若松義人氏の会社の顧問として、トヨタ式の実践現場や、大野耐一氏直系のトヨタマンを幅広く取材、トヨタ式の書籍やテキストなどの制作を主導した。一方でスティーブ・ジョブズやジェフ・ベゾス、イーロン・マスクなどの起業家や、ウォーレン・バフェットなどの投資家、本田宗一郎や松下幸之助など成功した経営者の研究をライフワークとし、人材育成から成功法まで鋭い発信を続けている。
著書に『大谷翔平の言葉』(リベラル社)、『限界を打ち破る 大谷翔平の名言』『逆境を打ち破る イチローの名言』『藤井聡太の名言』『世界の大富豪から学ぶ、お金を増やす思考法』『自己肯定感を高める、アドラーの名言』(以上、ぱる出版)などがある。

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『不可能を突破する 大谷翔平の名言』
  1. 契約にサインした瞬間から、この舞台にいる絵を思い浮かべてたーー大谷翔平の名言
  2. 期待は応えるものじゃなくて、超えるものーー大谷翔平の名言
  3. 先入観は可能を不可能にするーー大谷翔平の名言
  4. 今がゴールだという感覚はない。もっと先があると思っているーー大谷翔平の名言
  5. 焦ることはいいことだと思ってるし、やりすぎるくらいのほうがいいかなーー大谷翔平の名言
  6. 睡眠は、僕にとっての最優先事項ですからーー大谷翔平の名言
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