
M&Aを選択した理由とその背景
—— 吉村社長がM&Aを選択された理由とその背景についてお伺いできればと思います。
株式会社パートナーズ 代表取締役社長・吉村 拓氏(以下社名、氏名略) M&A前からパートナーズはずっと成長を続けていました。しかし、増収増益が継続している中、コロナ禍で私たちも経験したことのない状況に直面しました。
コロナ前はオフラインでセミナーを実施し、商談も対面での交流を大切にしながら信頼関係を築いてきましたが、突然それができなくなりました。リアルが強い不動産会社でしたので、リモートという発想や文化は全くなかったのです。
大きな変化が必要だと感じました。
樋口(株式会社GA technologies代表取締役 社長執行役員 CEO)とは上場前から取引先の社長同士で、年に何回か食事をする間柄でした。個人的にも仲が良く、良い刺激を受けていて、パートナーズとしてもテック領域に強い顧問を集めて、GA technologies(以下、GA)の運営するサービス「RENOSY」のように投資用不動産の中で成長を目指しましたが、なかなかうまくいきませんでした。 樋口とは仕事の未来についてお互いに話していて、「いつか一緒にやりたい」という発言もありましたが、まさかそれがM&Aに繋がるとは思っていませんでした。
樋口からすると「一緒にやろう」というのはM&Aのことだったと思いますが、私からするとその発想はありませんでした。最初は断っていましたが、GAの会議にも参加するようになり、2020年頃から本格的に話が進みました。
GAのテック会議に参加し、パートナーズにはない言葉や戦略が飛び交っているのを見て、面白いと感じました。パートナーズとGAが一緒になった場合とならなかった場合の両方を考えましたが、最終的な決め手は、パートナーズの未来として、5年後、10年後ではなく、今すぐにテック領域が欲しいということでした。
パートナーズのメイン事業は投資用不動産の売却であり、いわゆる仕入れです。

GAはRENOSYというサービスを通じて投資用不動産全般を扱っている会社なので、製造ラインが欲しいということ。お互いがすぐに必要だったのです。自社でやるには時間がかかりますから。
お互いの目指すところが一致していました。また、投資用不動産の業界には一強がいないという点もあります。
例えば、おしゃれなカフェといえばスターバックス、お手頃価格で高品質なアパレルショップといえばユニクロがありますが、投資用不動産業界は意外とニッチな市場なんです。
売却先の選定におけるポイント
—— 事業売却を検討する際、売却先の選定は非常に重要なポイントだと思います。吉村社長が特に重視されたポイントは何でしょうか?
吉村 それは「イメージが湧くかどうか」に尽きますね。売却先提案は複数ありましたが、自分自身とパートナーズのメンバーにとって、文化を損なわず、事業を加速させるイメージが描けたのはGAだけでした。シナジーが期待できるかどうか、これが大きな要因です。
—— どのように具体化されていったのでしょうか?
吉村 売却先のカルチャーを理解するために、彼らの社内の様子を実際に見に行きました。さらに、GAがこれまでにM&Aを行ったオーナー社長とも直接お会いして会話しました。良い点も悪い点も率直に聞けたことで、リアルなイメージが高まったんです。
—— 実際にM&Aの経験者と話すことで、どのような気づきが得られたのかお聞かせください
吉村 「自分の会社がどう変わるのか」を想像する助けになりました。実際にGAとM&Aした社長からは、成功事例だけでなく、課題も正直に話してもらえました。これを通じて、自分の会社が彼らのリソースや資産を活用してどう成長するかを具体的に考えられるようになったんです。
—— その具体的なイメージを持つまでには、どれくらいの期間がかかりましたか?
吉村 ざっくり1年ほどですね。最初はM&Aを考える余裕がないくらい事業が好調だったので、断るつもりでした。でも、樋口から何度も誘ってもらい、半年ほど本気で考える期間を設け、彼らと一緒に時間を過ごす中で、シナジーの可能性を確信しました。
—— その半年間で、特に心が動かされた瞬間があれば教えてください。
吉村 GA樋口の本気度です。彼は単に条件を提示するだけでなく、私に「会社を見に来てほしい」「話を聞いてほしい」と働きかけてきました。オーナー社長との直接対話もその一環です。これらのプロセスを経て、自分の中での解像度がどんどん上がっていきました。
—— M&Aのプロセスを進める中で、他の選択肢についてはどのようにお考えでしたか?
吉村 実際にGA以外の選択肢もいくつかありました。ただ、金額が高い提案も含めて、どれもイメージが湧かなかったんです。シナジーがなければ、M&Aをする意味がないと感じていました。
—— 「イメージ」とは、具体的にはどのようなものだったのでしょう?
吉村 売却後に自分や社員がどのように新しい環境で働き、どれほど事業が成長するのかということです。事業成長を具体的に想像できたのはGAだけでした。イメージが湧かなければ、そもそもM&Aを進めていなかったと思います。
—— 最終的にGAを選んだ決め手は何だったのでしょうか?
吉村 彼らのカルチャーの浸透と、将来に向けた共通のビジョンです。GAのメンバーやオーナー社長と実際に話す中で、「この人たちとならやれる」という確信が持てました。それが最大の決め手です。
M&A後の変化や挑戦、M&Aを通じて得られた学び
——M&Aを通じての変化や挑戦、得られた学びをお聞かせいただけますか。
吉村 たくさんありますね。まず個人としてですが、パートナーズという会社の経営は非常に堅実に行っていました。大胆な投資をして赤字になったり、売上が落ちたりすることはあまりなかったです。しかし、樋口という経営者は、私とは異なるアプローチを取っていました。外から見ていた彼と、実際に一緒に会議に出て動いている彼は別人でしたね。そこで、彼がなぜ成長しているのかが理解できました。経営者として彼から学ぶところは非常に多かったです。
また、グループにジョインして、今まで私が関わったことのない役員とたくさん出会いました。特に、テック界隈の人たちやエンジニアなど、すごい人たちと対話することは大きな学びになっています。オーナー社長としてやっていく自信はありましたが、個の成長という点ではもっと貪欲にいろんなことができたのではないかと反省しています。しかし、考えても仕方ないので、今はそれを補っています。
僕はまだ44歳です。まだまだやれることがあります。
会社という視点で言えば、M&A後、GAから人事の人間が来て、採用や組織開発における概念が大きく変わりました。パートナーズの人事責任者も優秀ですが、経験豊富な人事が1人加わるだけで、採用の考え方がこんなに変わるのかと実感しました。これはテックではなくHRでの変化です。HRが変わることで、組織全体が良くなっている感覚があります。 テック界隈のメンバーが来たときも、リアルな不動産を扱う従業員たちと同じ対応では、コミュニケーションがうまく取れないこともあり、それは新たな学びになりました。
投資に関しても、今まで思い切りやってきたわけではないので、実際にチャレンジし、失敗も含め経験しながら徐々につかんでいきました。 いろいろな側面で、新しいことをするには、痛みを伴いながらも強い意志で進んでいくことが大切だと学びました。経営統合から3年半経ち、最初はうまくいかなかった時期もありましたが、良くなってきています。当時思い描いていた理想に近づいているので、非常に面白みを感じています。
統合後の相乗効果
—— 統合後の相乗効果について、特に感じていることを教えてください。
吉村 当初の目的でもあったグループ参画によるテクノロジーの恩恵があったことは大きなメリットでした。具体的には、エンジニア、デザイナーなどの人材投入やテック導入により、年間3万時間もの作業時間を削減できていたり、煩雑な手続きが多い不動産業界で電子契約等をいち早く導入でき顧客体験向上を図ることができています。
また、統合による相乗効果は、セールスや人事といった各分野でも特に大きかったですね。パートナーズ自体もセールスに強みを持っていますが、GAグループ全体を見渡すと優れた人材がたくさんいます。それを見ることで、社員たちが「上には上がいる」と感じ、モチベーションが向上しました。
例えば、グループ全体での表彰制度があります。パートナーズ内でトップだと思っていた社員が、グループの他の会社のトップセールスと比べて刺激を受け、「次こそ自分が表彰される」という目標を持つようになるんです。

—— そうしたグループ間の刺激は、社員の成長にも大きく影響しそうですね。
吉村 Slackなどのツールを使って、GAグループ内で得た知見や情報を迅速に共有しています。例えば、新しい仕入れ情報や市場トレンドがあれば、それを全社的に展開することで、各セールス担当がすぐに活用できる体制を整えています。このようなナレッジ共有は、統合後ならではのメリットだと思います。
—— 逆に、統合後にギャップや課題を感じた部分はありましたか?
吉村 一番大きな変化は、オーナー社長としての自由さが減ったことです。以前は利益が出れば、それをどこに使うか、どれだけ分配するかなどを完全に自分の裁量で決められました。例えば、決算賞与を大盤振る舞いするとか、社員旅行にしっかりお金をかけるとか。でも、統合後はグループ全体の予算計画や目標がありますから、そこに合わせる必要があります。
また、GAの役員にもなり、パートナーズだけでなく、他のグループ会社の業績や課題を把握し、サポートする役割も求められるようになりました。
当初は、パートナーズへの強い愛着から、メンバーを守りたいという思いがあり、自然とパートナーズを主軸に考えていました。しかし、GAの役員から「全体最適を考えるように」と指摘されたことをきっかけに、グループ全体の成長を見据えることが、最終的にはパートナーズのためにもなるのだと気づきました。M&Aとは、まさにそうした視点の変化が求められるものなのだと、改めて実感しています。
—— パートナーズとして独自性を維持するために工夫された点はありますか?
吉村 パートナーズは、社員一人ひとりのカルチャーやモチベーションを大事にしてきた会社です。その点は統合後も変わりません。パートナーズの経営は基本的に任せてもらっています。それが可能だったのは、私たち自身がM&A後も安定した成長を続け、結果を出しているからだと思います。
—— M&A後の経営者としての責任感が感じられますね。
吉村 やはり結果を出し続けることで信頼を得て自由度を保つことができます。もし成績が悪ければ当然指摘を受けるでしょうが、それがないように常に先を見据えて経営しています。
これからのM&Aを目指す経営者へのアドバイス
—— これから資本政策を含めた事業拡大を目指す経営者へのアドバイスを伺いたいのですが、M&Aだけが選択肢ではないと思います。経営者として悩むことも多いと思いますが、そういう方々に対してアドバイスをいただけますか?
吉村 やはり経営者というのはM&Aをしようがしまいが、会社を伸ばさなければいけません。そして、ただ会社を伸ばすだけではなく、そこで働く方々が成長できる環境であることや、働いて幸せだと感じられることが大事です。給料や評価なども重要です。理想を追い求めるべきですが、全てがメンバーとイコールになるのは難しいです。
結果が出ていないのに給料を上げることはできませんが、それでも理想を追い求めるべきです。M&Aをしても会社を伸ばす自信がないなら、そもそもM&Aを選ばない方が良いでしょう。会社がM&A後にどうなるかをイメージできるかが重要です。
例えば、経営統合先のメンバーと直接会話したり、食事に行ったり、情報を積極的にキャッチアップしに行くことが大切です。M&Aを経験したオーナー社長と話をするのも一つの手段です。カルチャーが合うかどうかをしっかり見極めることも重要です。
結果的に、パートナーズが経営統合してどれくらい成長したかを見てみると、CAGR(年平均成長率)が56.9%という数字が出ました。 不動産業界の競合他社のCAGR(年平均成長率)が10〜20%なので、他社と比べても非常に高い成長率です。
当初のイメージが現実になっていると感じていますが、まだ3年半しか経っていないので、これからが重要だと感じております。
- 氏名
- 吉村 拓(よしむら たく)
- 社名
- 株式会社パートナーズ
- 役職
- 代表取締役社長CEO