本記事は、野呂 エイシロウ氏の著書『道ばたの石ころ どうやって売るか? 頭のいい人がやっている「視点を変える」思考法』(アスコム)の中から一部を抜粋・編集しています。

頭のいい人は「手段」よりも「目的」を意識する
「もし顧客に、彼らの望むものを聞いていたら、彼らは『もっと速い馬が欲しい』と答えていただろう」
世界的自動車メーカーのフォード社の創業者、ヘンリー・フォードの有名な言葉です。フォードは、まだ自動車という存在が世に知られておらず、主な交通手段が馬車だった時代に自動車を普及させた第一人者です。彼が成功したのは、顧客のニーズに素直に対応したからではありません。ニーズの一歩先を見据えて「本当に欲しいもの」は何かを真剣に考えた結果、速い馬車を作るのではなく、自動車を提供するという答えを導き出したのでした。見事な視点の変え方だと思います。
つまり、人々は馬車が欲しいのではなく、「素早く移動したい」ということ。その本質的なニーズに気づいたのです。
人と違う意見を言うもっともシンプルな方法、それは「本質」を語ることです。
なぜなら、凡庸な意見しか出せない人ほど「目先」にとらわれて、本質ではなく手段にとらわれるからです。
例えば、会社でよく話される「売り上げをどう伸ばすか?」という議題は、普通に考えれば「どうすれば儲かるのか?」という方法、マーケティングの意見を言うことです。
しかし、「商品を売る」ということの本質は何でしょうか。
儲けること、という答えは当たり前すぎます。もちろん企業ですから利益が大事なのは当然ですが、もっと大事なことがあるはずです。わざわざ、特定の商材やサービスでビジネスをしているのであれば、その商品を取り扱う本質的な理由があるはずです。
つまり、「売り上げを上げたら、世の中はどう変わるのか」、言い換えれば、「この商品で、世の中をどう変えたいのか?」が本質ということなのです。
私は日常的に、企業のブランディングや商品企画、マーケティング(販促、PR)など、いわゆるコンサル的な立場で話をしたり会議に出たりもしています。
そういった関連の仕事で先日、ある健康水を売っているクライアントの社長とPRについて話をする機会がありました。その社長は私に、「商品をPRするためにテレビに出したいんです」と言ってきました。
普通なら、どんな番組なら紹介できるか、情報番組なのか、バラエティーの小道具としてタレントに飲んでもらうのかなど、当たり前の範囲で意見を言います。
でも、この程度であれば、コンサルタントなら誰でも言います。私でなくてもできる話です。
私は、健康水を「何のために」PRするのかという目的に着目して、視点を変えて切り込んでいきます。
私はその社長にこう言いました。
「これ、何本売れればいいんですか? 売って何か変わることってあります?」
すると、社長は少し考えてから「この水を飲むと、本当に健康になるんですよ」と答えました。
「つまり社長は、世の中を健康にしたいんですよね?」
「そうなんですよ。実はこの水は体にいい軟水を使っていて……」
「なるほど分かりました。それならば世の中の人を健康にしたいという社長のイメージを作りましょう。社長が世に出て有名になって、なぜこの健康水を売るようになったのか語ると、それに共感する人が出てきて買って飲んでくれますよ。この水を飲むたびに社長の顔を思い出しながらね」
たしかに、社長は私に「この水をテレビに出したい」と言いましたが、「テレビに出す」ことは目的ではなかったのです。テレビの先には、「世の中の人が健康になってほしい」という真の目的があり、社長自身にその未来を想像してもらったのです。
テレビで取り上げてほしい、そうすれば売り上げがアップするという表面的なニーズに対して、ニーズのその先に視点を変えることで、相手の満足度を上げることができます。また、真の目的をかなえるためには、テレビ以外の効果的な手段も考えられるかもしれません。
テレビと依頼されたからテレビという単純な話ではなく、相手の目的をかなえる方法は何かという方向に視点を変えることができます。
実際にその社長は、「PRって、そういうことなんですね」と感心しきりでした。
ニーズの先を考えて意見を言うことは、実はそれほど難しいことではありません。
多くの人は目の前のことに追われてしまいがちですが、ニーズの先とは「遠くのことを言う」という意識で考えればいいだけです。
例えば、コロナが収束してきて、ある番組の会議で動物特集をやりましょうという話が出ました。
すると、「かわいい動物をいっぱい集めましょう」とか、インパクトを狙って「カエルやヘビなどの爬は虫ちゅう類の映像はどうですか」という流れになってきました。
しかし、そうした意見には「動物を出せば視聴率が取れるのではないか」という浅はかな思惑は見えるものの、今の時代になぜ動物を出すと視聴者が喜ぶのか、何のために動物を出すのかという「目的」が欠落していました。
そこで私は、「そうではなくて、僕らがやろうとするのは、コロナが終わって、みんなコロナの時に閉塞感があって、やっぱり癒しが欲しい。そのための動物なんだよ」と言ったのです。
周囲からは「動物の企画をやると視聴率が取れるという単純な話ではなくて、視聴者に癒しを与えようとしている」と思ってもらえたわけです。
すると、「やっぱりネコは視聴率も取れますよね」と言う人が出てきます。そこに私は、その先の視聴者のニーズを加えました。
「ネコならいいというわけじゃない。毛がフサフサした動物をなでると気持ちがいいでしょ。癒しを想起させるような映像が必要。視聴者もテレビの前で、ソファーやクッションをなでながら、ネコをなでている気分を味わうような映像がいいんだよ」
こう言うだけで、「野呂さん、いい意見を言ったな」と思われるし、採用率も上がり、周囲から一目置かれるようになるのです。
多くの人は「売り上げを上げるためには」「新企画があるか」など意見を求められると、そこだけに頭がいってしまいます。直接言われた内容にとらわれて、視点がずらせなくなるのです。
「そもそも何のためなのか」ということを考えると、視点を変えやすくなります。
「売り上げを上げるとは、世の中にどう貢献できるのか」「この新企画で世の中をどう変えたいのか」など、ニーズの先にあるものを意見に織り交ぜていくと、人とは違う存在に見られるようになれます。
では、どうすれば、ニーズの先を読めるのか。
それは「ゴールは何か」を見据えることです。先ほどの「水」の話でもそうでしたが、人は時として手段をゴールであるかのように言います。
結構「何をするか」を説明しても、「何のために」を説明しない人は多いものです。
気をつけなくてはいけないのは、それを2段階ではなく、3段階、4段階先まで見据えてゴールを明確化することです。
例えば、商品の販促をしたい時に、何のためにと聞けば「会社の売り上げのため」と答えることが多いかもしれません。しかし、それはゴールではないでしょう。もちろん会社である以上、売り上げを気にするのは当たり前ですが、その商品が「本当にいいものだから」売りたいと思っているはずです。もし、悪いものを売りつけてお金儲けをしようとしているのであれば、詐欺ですから手を引いたほうがいいでしょう。
当たり前の答えの先にある「想い」にまで考える軸をずらせれば、人とは違う意見が言えます。
「売り上げ」で止まっていたら普通の人です。ぜひ、そこから抜け出してください。

『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』で放送作家デビュー。『ザ!鉄腕!DASH!!』『奇跡体験!アンビリバボー』『ズームイン!!SUPER』などにたずさわる。常に「面白い企画」を求められる状況に身を置いた経験から、独自の「視点を変える」思考法を編み出す。放送作家と並行して“戦略的PRコンサルタント"として活動中。一部上場企業をはじめ、数多くのクライアントの課題解決をサポートしている。
- 本当に頭がいい人は「普通の意見」を言わない
- 「普通のことしか言えない」人の頭の中
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