本記事は、野呂 エイシロウ氏の著書『道ばたの石ころ どうやって売るか? 頭のいい人がやっている「視点を変える」思考法』(アスコム)の中から一部を抜粋・編集しています。

「頭の良さ」とは学歴やIQのことではない
いつもきちんと考えているつもりなのにいい意見が思い浮かばず、「なんで私は、ありきたりで普通な意見しか思いつかないんだろう」「もっとズバッと解決につながるようなことが言えたらいいのに」と悩んだ経験があるのではないでしょうか。
他にも、
「いつも、誰かの意見に賛同するだけで、自分の意見が出てこない」
「意見を求められると、思いつかずにフリーズしてしまう」
「テーマに対して調べたことは言えるけど、『じゃあどうしたらいいのか』が分からない」
「具体的な対策が思い浮かばず、結論として『頑張ります』という趣旨のことしか言えない」
こんな悩みはあるあるですよね。
けど、あなたの周囲にも、ありきたりではないユニークで、ハッとする意見を言える人が、いるんじゃないでしょうか。例えば、
・会議の席で少々のムチャ振りに対しても、すぐに上手い切り返しができる
・商談の席でも気の利いたことを言って、お客さんの心をつかむ
・企画書の中身も、ありがちではなくキラリと光るオリジナリティーがある
その人は、あなただけでなく、きっと周囲からも「すごい人」「面白い人」「頭がいい人」と思われていることでしょう。
そんな人を見て、あなたはどう思いますか。
「そういう人は、並の人とは違って頭のいい人なんです」
「きっと頭の回転が速いんだよ」
「クリエイティブな才能があるのかも」
では、その人は生まれつきすごい人だから言えるのでしょうか。あなたはずっとその人にかなわないのでしょうか。
答えはNOです。
大事なのは、考え方の「コツ」。それさえつかめば、あなたも自分なりのユニークな意見が言えて、面白く、課題解決につながるようなアイデアが浮かぶようになります。
普通の意見というのは、言い換えれば「誰でも思いつくこと」です。
上司から「〇〇について考えてみて」と振られて、少し考えてみて、最初にパッと思いつくことがあります。そこで考えが止まってしまえば、当然、ありきたりな意見しか言えません。あなたがパッと思いつくことは、他の人もだいたい同じことを思いついています。本当はそこからがスタートで、その後どう考えを展開させていくかが重要なのに、ほとんどの人はそこから先ができていません。最初に思いついたこと、あとはせいぜい2番目、3番目に思いついたところで「これ以上、何も思いつかない」と頭を抱えていませんか。
それでは、どうすれば思いつきから一歩先に進めるのか。
そのやり方こそ、「視点を変える」ということです。
ユニークな意見、面白い意見、他の人にはない独創的なアイデアを言える人たちに共通しているのは、「視点を変える」という思考法を身につけているということです。
私は、この思考法を身につけている人が、いわゆる「頭がいい」と言われる人なんじゃないかと思っています。
先ほどの「売り上げアップ」の会議の例でも、なぜ多くの人は凡庸な意見しか出ないのか。
それは視点が、
「自分の会社 → お客さま」
という一方通行だからです。
「自分たちがお客さんにどう働きかけるか」という視点しか持てません。だから、いくら考えても、どこかで聞いたようなアイデアにしかならない。しかし、視点を逆転させて、
「自分の会社 ← お客さま」
と矢印を逆にして考えてみれば、「そもそも、お客さんの目に我々はどう映っているのか」という考えに及ぶのです。
こういう発想ができると「この人、ちょっと違うな」「頭がいい!」となるわけです。
しかし、なぜ普通の人には、矢印を逆にするだけのことができないのか。それは、「考える技術」がないからです。それこそが、この本でお伝えする「視点を変える」ということ。
特別な能力や才能がなくても、訓練しだいで誰でもできます。だって、矢印を逆にするだけですから、あなたにだってできないはずはないですよね。
誰でも「視点を変える」思考法を身につけられるということは、私自身の経験からも言えます。
冒頭でもお話ししたように、私は、これまで放送作家と企業の「戦略的PRコンサルタント」の二足の草鞋で活動しています。いずれも「当たり前の意見」ばかり言っていては、仕事にならない職業です。
そんな私ですが、もともと面白い意見をポンポン言えるようなアイデアマンだったのかといえば、そんな訳でもなかったのです。むしろ逆でした。学生時代からテレビ局でバイトをしていた流れで放送作家になったものの、最初の頃はまったく役立たずでした。
私が放送作家として、まだ駆け出しだった頃、あるテレビ番組の会議に定期的に出席していました。その席には番組のプロデューサーをはじめ、先輩の放送作家もいれば、私と同じような駆け出しの作家もいます。
何に驚いたかと言えば、とにかくみんな弾丸のようにしゃべりまくっていて、ポンポン面白いアイデアが出てきます。そのテンポについていけない。「そうですね」と相づちを打つのが精いっぱいで、私は1カ月くらいまともに意見が言えなかったのです。これは大変な世界に入ってしまったなと思いました。
そんなある日、プロデューサーからお叱りの言葉をもらいました。
「お前、このままだとクビにするぞ! 放送作家はしゃべってなんだ!」と。
さすがに震えました。放送作家は個人事業主で、会社員や公務員のように身分が保証されていません。会議に呼ばれなくなったら、即おまんまの食い上げなのです。
とはいえ、どうしたらいいのか分かりません。
そこから「どうすれば面白いことが言えるのか」という自分なりの研究を始めました。
最初は、明石家さんまさんのトークを紙に書いて分析したりして、どうしゃべったら面白いのだろうかと練習もしました。マンガ喫茶にこもって、人気のギャグマンガを読んでみたりもしました。
そんななか、気づいたのは、面白いと思われるためには「当たり前」「常識」を少しずらす必要があるということ。つまり、ありきたりな物の見方からいかに「視点を変える」かが勝負ということです。
しかし、それに気づいたからといって、これまでロクに意見を言えなかった人間が、売れっ子放送作家などの猛者がいる会議の席で、いきなりすごい意見が言えるわけではありません。
そこで、私は先輩たちの様子を観察していて、1つ気がついたことがありました。
それは、会議で面白い意見を言う先輩や採用率の高い先輩は、誰かの意見に乗っかって、「少しだけ違うこと」を言っているということです。私もさっそく、そのマネをすることにしました。
例えば、会議の席で「相撲」の企画が話題に上がったことがありました。
プロの相撲取りが出るのはありきたりで面白くありません。そこで先輩たちが「女子相撲はどうだろう」「子ども相撲はどうだ」と意見を出してきたので、すかさず私は「じゃあ、ぽっちゃり相撲でいきましょう!」と乗っかって発言したのです。
「よし! 面白い意見が言えたのでは」と思ったのもつかの間、会議に参加していた女の子から「ぽっちゃり相撲って……それって普通の相撲じゃないですか?」と突っ込まれて、「そりゃそうだ」と一同ずっこけました。
まあ、これは笑い話なのですが、「相撲」の話題に便乗して「〇〇相撲」の伏字の部分を少しだけ他の人と違うものにすることで、ちょっとだけオリジナルな意見が言える。こうした視点の「プチずらし」も、「視点を変えるコツ」の1つです。それに気づいてからは、臆せずどんどん自分の考えを言えるようになりました。そして少しずつではありますが、自分の評価も高くなっていったのです。
いきなり誰も思いつかないユニークなことを言って、周囲から認められようとするのはハードルが高すぎます。こうした、ちょっとしたコツをつかんで、身につけることが重要です。
特別な能力がなくても、ユニークなアイデアは出せるということについては、創造性に関する世界的権威で、心理学者のエドワード・デボノ博士も、著書のなかで次のように述べています。
「画期的なアイデアは、際立った知性の持ち主だけが生み出せるものではなく、老若男女を問わず、誰にでも生み出せるものである」
人と違う意見を言うために必要なことは、IQでも学歴でもありません。
あなたの周りにも、ユニークな意見を言える人はいると思いますが、その人はみんな東大や京大、あるいは慶応、早稲田といった一流大学卒でしょうか? みんながみんな、そうではありませんよね。むしろ、学歴エリートほど、論理的思考は得意でも頭が固くて、面白いアイデアを出すのが苦手だったりします。
エドワード・デボノ博士はさらに、アイデアを生み出す能力は「知力のみに関係があるのではなく、ある特定の頭の習慣、すなわち特定の考え方により大きく関わっているように思われる」とも言っています。
つまり、ありきたりでない意見を言えるようになるには、知力よりも日頃からの習慣と思考法が重要であるということです。

『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』で放送作家デビュー。『ザ!鉄腕!DASH!!』『奇跡体験!アンビリバボー』『ズームイン!!SUPER』などにたずさわる。常に「面白い企画」を求められる状況に身を置いた経験から、独自の「視点を変える」思考法を編み出す。放送作家と並行して“戦略的PRコンサルタント"として活動中。一部上場企業をはじめ、数多くのクライアントの課題解決をサポートしている。
- 本当に頭がいい人は「普通の意見」を言わない
- 「普通のことしか言えない」人の頭の中
- 頭のいい人は「手段」よりも「目的」を意識する
- 普段から「コレ」をやれば視点を変えられる
- 視点がすぐに切り替わるテクニック
- 視点が変わると生き方が変わる