本記事は、菊地 正俊氏の著書『アクティビストが日本株市場を大きく動かす 外国人投資家の思考法と儲け方』(日本実業出版社)の中から一部を抜粋・編集しています。

アクティビストが日本株市場を大きく動かす 外国人投資家の思考法と儲け方
(画像=metamorworks/stock.adobe.com)

運用資産規模が大きい米国の大手運用会社

ブラックロックは2024年末時点の運用資産が11.5兆ドル(約1,725兆円)と世界最大の運用会社ですが、日本株運用資産はほとんどがパッシブ運用と推測されます。ブラックロックはGPIFからパッシブ運用で約12兆円受託しているほか、米国の海外株式に投資するETF・ミューチュアルファンドで日本株に約11兆円投資しています。他に公表されないSWFや海外年金等の委託運用を通じても日本株に投資していることから、日本株への投資額は30兆円近いと推計されます。

非上場のキャピタル・グループは株式のアクティブ運用を主体とする運用会社であり、HP(ホームページ)に運用資産が2.7兆ドル(約405兆円)超と書いてあります。日本株運用は米国のミューチュアルファンド、日本の公的年金からの委託や公募投信等を通じて行なわれています。日本の公募投信は純資産が1兆円を超えると大きい投信とみなされますが、キャピタル・グループの〝New Perspective Fund〟は運用資産が約20兆円にも達します。欧州の投資家は日本株を1兆円超保有していると大きな投資家とみなされますが、キャピタル・グループの日本株保有額は10兆円近いと推測されます。キャピタル・グループの本社はロサンゼルスですが、大量保有報告書の出所をみると、東京のみならず、ジュネーブやシンガポールからも出ており、グローバルな拠点から日本株投資が行なわれていることをうかがわせます。

ボストンに本社があるフィデリティもアクティブ運用を主体とする運用会社です。大企業とのエンゲージメントが評価されて、GPIFからパッシブ・エンゲージファンドを受託しているほか(2024年3月末の運用資産は3,461億円)、アクティブファンドとして「日本バリューアップ・ファンド」(2024年12月末の運用資産は207億円)を運用しています。後者は、グローバルな調査ネットワークを活用しながら、投資先企業との建設的な対話を通じて、企業価値の向上を目指す投信です。

フィデリティと同じくボストンに本社があるウエリントンはESG特性を重視して世界の主要株式に集中投資する「企業価値共創世界株ファンド」を野村アセットマネジメントの外部委託投信として運用しています。2024年末時点の運用資産は740億円で、38銘柄に投資し、上位10位組入銘柄に入った日本株はありませんでした。

JPモルガンアセットマネジメントはアクティブ運用だけで、日本株での議決権の行使社数が2023年4~6月152社→2024年4~6月142社と減りました。これは東京サイドで運用しているファンドの日本株銘柄数を示唆します。世界最大の銀行であるJPモルガンチェースの資産運用部門の2024年末の運用資産は4兆ドル(約600兆円)と巨大ですが、日本株運用はそのわずかに過ぎないようです。

米国大手運用会社は日本の主要企業の剰余金処分に反対

例年、株主総会で会社提案の剰余金処分案に対する反対比率が高い上位2位の運用会社は、JPモルガンアセットマネジメントとキャピタル・グループです。米国大手運用会社から見れば、日本企業の株主還元が不十分だということでしょう。

JPモルガンアセットマネジメントは「自己資本比率が50%以上あり、さらなる内部留保の蓄積を要しないにもかかわらず、当該年度に実施された自社株買い等を考慮しても総還元性向が50%を下回る剰余金処分案は原則として承認しない」としており、2024年4~6月の株主総会においても、剰余金処分の会社提案に対する反対比率が31.1%と主要運用会社のなかで最も高くなりました。JPモルガンアセットマネジメントが反対した剰余金処分案にはキーエンス、テルモ、ダイキン工業、髙島屋、JR東日本、JR東海、TBS HDなどがありました。

2024年4~6月の株主総会で、キャピタル・グループの剰余金処分に対する反対比率は26.2%と2番目に高く、キーエンス、TDK、ダイキン工業、MARUWAなどの剰余金処分に前年に続いて反対しました。キャピタル・グループは「正当な理由なく、総還元性向が一貫して50%を下回っている場合、剰余金処分議案への反対を検討する」としています。

一方、ブラックロックの剰余金処分への反対は少なく、2024年4~6月に反対したのは議決権行使した1,045件のうち、東映など5件のみでした。ブラックロックは剰余金処分について、「業績動向やバランスシートの状態、会社の成長見通し、自己株式取得の状況などを勘案し、また同業他社とも比較して、配当水準が過小でないと判断されれば賛成する」としています。
ブラックロックは外資系運用会社のなかでは例年、会社提案への反対比率が低く、2024年4~6月は8.7%でした。アクティブ運用のJPモルガンアセットマネジメントやキャピタル・グループと異なり、ブラックロックはパッシブ中心で、保有銘柄が多く、運用資産規模も大きいので、自社の規模の大きさを考慮して議決権行使をしているようで、「与党の株主」と言われることがあります。

運用会社の付加価値の源泉は上場資産からプライベート市場にシフト

運用資産で最大のブラックロックの強みはパッシブファンドにありますが、2024年3Qの決算説明会でラリー・フィンクCEOは、「協調した投資とイニシアティブを通じて、我々はプライベート市場を進化させている。当社とGIP(約2兆円で買収したインフラ大手)が力を合わせて、インフラの巨大な投資ポテンシャルへのアクセスをドライブしている」と述べました。

米国の上場運用会社で時価総額が最大なのはブラックロックではなく、運用資産が1.1兆ドル(約165兆円)とブラックロックの10分の1に過ぎないプライベートエクイティのブラックストーンです。2024年末時点のブラックストーンの時価総額は2,100億ドル(約31兆円)と、ブラックロックの約1.4倍に達します。運用会社の付加価値が上場市場からプライベート市場にシフトしている証左でしょう。

ブラックストーンのライバルであるKKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ)の株価は年初来約1.7倍に上昇し、時価総額がブラックロックに迫っています。

アレス・マネジメントはブラックストーンやKKRに比べれば、規模が小さいプライベートエクイティですが、2024年末の時価総額が560億ドル(約8.4兆円)と第一三共並みです。アレス・マネジメントには三井住友銀行が5%弱出資し、同行で副会長を務めた大島眞彦氏(トヨタ自動車の社外取締役も兼任)が、日本法人の会長に就任しました。

一方、インベスコやティー・ロウ・プライスなどの伝統的なロングオンリー運用会社の株価は軟調に推移しており、高配当利回り銘柄としての側面を強めています。アライアンス・バーンスタインは日本で「米国成長株投信」の販売に成功していますが、米国株式市場での評価は低いようです。テンプルトン等を傘下に持つフランクリン・リソーシズは2024年1月に老舗運用会社のパトナムを買収しましたが、成長期待は高まらず、PERは1桁台にとどまります。カンザスの伝統ある上場運用会社だったWaddel & Reedはオーストラリアのマッコーリー・グループに買収されて、マッコーリー・アセットマネジメントに変わりました。

アクティビストが日本株市場を大きく動かす 外国人投資家の思考法と儲け方
菊地 正俊(きくち・まさとし)
1986年東京大学農学部卒業後、大和証券入社、大和総研、2000年にメリルリンチ日本証券を経て、2012年より現職。1991年米国コーネル大学よりMBA。日本証券アナリスト協会検定会員、CFA協会認定証券アナリスト。組織学会、金融学会、日本ファイナンス学会会員。日経ヴェリタス・ストラテジストランキング2017~2020年、2025年1位。
著書に『低PBR株の逆襲』『米国株投資の儲け方と発想法』『相場を大きく動かす「株価指数」の読み方・儲け方』、『日本株を動かす外国人投資家の思考法と投資戦略』(日本実業出版社)、『アクティビストの正体』(中央経済社)、『良い株主 悪い株主』(日本経済新聞出版社)などがある。
アクティビストが日本株市場を大きく動かす 外国人投資家の思考法と儲け方
  1. 外国人投資家の現状
  2. 日本のアクティビスト活動は第3次ブーム
  3. アクティビストの隆盛は続くのか
  4. 資本効率を重視した経営とは?
  5. 2024年からの新NISAで投資が急拡大
  6. 日本は再び偉大になれるのか
ZUU online library
(※画像をクリックするとZUU online libraryに飛びます)