本記事は、菊地 正俊氏の著書『アクティビストが日本株市場を大きく動かす 外国人投資家の思考法と儲け方』(日本実業出版社)の中から一部を抜粋・編集しています。

日頃からほとんどのアクティビストに接している
私は主要アクティビストのなかで、シルチェスターとバリューアクト等とは直接コンタクトしたことがありませんが、日頃からほとんどのアクティビストに接しています。
アクティビストは組織上ヘッジファンド形態を取りますが、大量の銘柄を頻繁にロング&ショートするヘッジファンドと異なり、少数銘柄への集中・長期投資をすることが多いため、売買回転率が低く、証券会社にとっては良い顧客ではありません。海外出張では担当セールスが顧客とのミーティングのアポイントを入れますが、通常セールスは手数料支払いが少ないアクティビストにはアポイントを入れたがりません。
しかし、アクティビストと話すと勉強になるので、セールスにアポ入れをお願いするときもありますし、自分で長年の知り合いのアクティビストにアポを入れるときもあります。アクティビストはプライムブローカーを務めるゴールドマンサックスなどの外資系証券との取引関係が深い一方、事業法人との関係を重視する日系証券との取引関係は薄くなっています。ただ、私は外資系証券に勤務していた経験があるうえ、長年株式持合の解消やコーポレートガバナンス改革の必要性を訴えてきたので、アクティビストからコンタクトを求めてくることが少なくありません。
過去に海外アクティビストからの要請には、①株式持合の解消の現況や東証・金融庁による制度変更を英語で説明して欲しい、②株主提案について説明したいので、日系大手運用会社の議決権行使担当者にアポイントを入れて欲しい、③政府機関や経済団体にコーポレートガバナンス改革に関する意見を言いたいので、そうした機会をつくって欲しいなどがありました。②で、私は長年、機関投資家の議決権行使の結果分析を行なっているので、プロキシーファイト時の票読みを頼まれたこともありました。某アクティビストからは、日本拠点をつくるのでエンゲージメント担当者の候補者を紹介して欲しいと依頼されたこともありました。
安倍政権でのコーポレートガバナンス改革がきっかけ
日本におけるアクティビストの歴史や各アクティビストの投資活動については、私が2020年3月に上梓した『アクティビストの衝撃』や2024年7月に上梓した『アクティビストの正体』を参考にしていただきたいのですが、日本における日本のアクティビスト活動は現在、第3次ブームの最中にあるといえます。
第1次ブームは、1980年代後半に事業会社による敵対的買収が増加した時代です。ミネベアミツミ(当時ミネベア)が、1985年に三協精機(現ニデックインスツルメンツ)の19%の株式を買い集めました。不動産の秀和が1988~90年に忠実屋、いなげや、松坂屋、長崎屋、伊勢丹など当時の小売業の株式を次々と買い占めた事件がありました。米国のグリーンメイラーとして有名だったブーン・ピケンズ氏が1989年3月に、小糸製作所の20%強を保有する筆頭株主になりましたが、バブル崩壊とともに日本株から撤退しました。
第2次ブームは、2000年代半ばに村上ファンドやホリエモンが暗躍した時代です。2000年に村上ファンド(当時の資産運用会社はMAC)の村上世彰氏が昭栄(現ヒューリック)に対して初の敵対的TOBを行ないました。昭栄は2012年に同じみずほ系の不動産会社ヒューリック(旧日本橋興業)と合併して、優良不動産会社に変わりました。2000年代に村上世彰氏が手掛けた企業には東京スタイル(現TSI HD)、ニッポン放送(現フジ・メディア・HD)、阪神電気鉄道(現阪急阪神HD)などがありました。当時、堀江貴文氏(ホリエモン)が経営していたライブドアが買収を目指したニッポン放送株の取引を巡って、村上世彰氏と堀江貴文氏がインサイダー取引で逮捕されて、有罪になったことや、一般社会を敵に回すような奔放な発言を行なったことで、日本におけるアクティビストの評判が悪化しました。村上世彰氏は罰金刑で済みましたが、堀江貴文氏は約2年半にわたって刑務所に収監されました。
当時アグレッシブなアクティビストとして恐れられた米国のスティール・パートナーズは、2008年にはアデランスの社長解任に成功しました。2007年のブルドックソースに対するTOBでは、株主総会で承認された買収防衛策を巡って訴訟になり、スティール・パートナーズは東京高裁で「濫用的買収者」の烙印を押されました。スティール・パートナーズが2006年3月末に保有比率を23%まで引き上げた明星食品は、日清食品に買収されました。サッポロHDは、2000年後半にスティール・パートナーズに20%近い株式を保有されてTOBを提案されましたが、買収を免れました。米国のダルトン・インベストメンツも2000年代半ばから活動しているアクティビストで、2006年にサンテレホンをMBOに追い込みました。
現在の第3次ブームは2012年末に、安倍政権でのコーポレートガバナンス改革とともに始まったと考えられます。日本株が儲かると思ったのか、シンガポールに移り住み、アジアの不動産を中心に投資していた村上世彰氏も日本株投資を再開しました。日本では第2次ブーム時のアクティビストの悪評が尾を引き、評判が改善しているとはいえませんが、第3次ブームではアクティビストによる建設的な提案も増えています。日本人が運用しているファンドでは、アクティビスト・ファンドと呼んでほしくない、エンゲージメント・ファンドと呼んでほしいという人もいますが、私は、アクティビスト・ファンドとエンゲージメント・ファンドは「紙一重」の差しかないと考えています。
日本のアクティビスト・ファンド数は10年で9倍以上に
上場企業であるアイ・アールジャパンHDは、アクティビストの調査に力を入れています。外部者だと、アクティビストの手口は大量保有報告書が出ないとわかりませんが、株主名簿には表記されない国内外の機関投資家株主を特定するサービスである株主判明調査も行なっているアイ・アールジャパンHDには、顧客企業から5%未満の保有でもアクティビストによる投資の情報が行くようです。アイ・アールジャパンHDは〝Power of Equity〟を標榜しており、四半期ごとの決算説明会資料に、日本に参入しているアクティビスト・ファンド数や、アクティビストによる株主提案の件数の推移をグラフで掲載しています。
日本に参入しているアクティビスト・ファンド数は2014年の8本から、2024年末時点で73本と9倍以上に増えました。アイ・アールジャパンHDの推計によると、アクティビストの日本株投資額は約9.5兆円と、プライム市場の時価総額の約1%に達しました。東証の「株主状況分布調査」によると、2023年度末の外国人の日本株保有額は320兆円だったので、アクティビストの保有額は外国人投資家全体の保有額の3%未満に過ぎません。
アクティビストの保有額は、米国大手投資家のキャピタル・グループの日本株推計保有額10兆円を下回る金額でしかありません。アクティビストの日本株投資は、マスコミや他投資家の関心を惹きやすいので目立ちますが、金額的には過大評価すべきでないといえます。
アイ・アールジャパンHDは2024年度上期の決算説明資料で、「従来型のアクティビストは株主還元拡大の余地が大きい企業を主なターゲットにしていたものの、新たなアクティビズムは、事業ポートフォリオの集中と選択を行ない、利益・マルチプル拡大による株価上昇余地があると判断される企業をターゲットにすることが多くなってきた」と述べました。アイ・アールジャパンHDは受注を平時対応案件と有事対応案件に分け、また金額5,000万円以上を大口案件と定義しています。

著書に『低PBR株の逆襲』『米国株投資の儲け方と発想法』『相場を大きく動かす「株価指数」の読み方・儲け方』、『日本株を動かす外国人投資家の思考法と投資戦略』(日本実業出版社)、『アクティビストの正体』(中央経済社)、『良い株主 悪い株主』(日本経済新聞出版社)などがある。
- 外国人投資家の現状
- 日本のアクティビスト活動は第3次ブーム
- アクティビストの隆盛は続くのか
- 資本効率を重視した経営とは?
- 2024年からの新NISAで投資が急拡大
- 日本は再び偉大になれるのか
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