本記事は、菊地 正俊氏の著書『アクティビストが日本株市場を大きく動かす 外国人投資家の思考法と儲け方』(日本実業出版社)の中から一部を抜粋・編集しています。

アクティビストが日本株市場を大きく動かす 外国人投資家の思考法と儲け方
(画像=youns/stock.adobe.com)

外国人投資家は金庫株を消却する企業を評価

外国人投資家からは日本企業は取得した自己株式を金庫株として保有して、なぜ消却しないのかと尋ねられることが多くあります。日本企業が金庫株を保有し続ける理由としてよく使われるのは、将来のM&Aに使うというのが多いですが、我々は日本の機関投資家からの消却圧力が小さいからでは、と答えました。日本企業は金庫株を消却するときも、取締役会で消却を決めたといったアドホック的な発表が多くなっていますが、できたら消却にも一定のルールがあったほうがよいでしょう。

第一生命HDは2024年3月に、自社株買いによって取得した自己株式は、すでに保有する自己株式の一部とともに原則消却を予定していると発表しました。建設のインフロニアHDは、発行済株式総数の概ね1%を超える部分については消却を予定していると発表しました。三菱UFJFG、野村HD、TIS、ウシオ電機等、発行済株式総数の概ね5%程度を超える自己株式は消却することを基本方針としています。
日東電工は2023年8月に発行済株式総数の4%の自己株式取得を発表した際に、「具体的な使途が明確なもの(役員報酬等)を前提に継続保有し、それを超える部分については消却を検討する」ことを基本方針にしていると発表しました。
双日は2023年3月に同社としては過去最大となる300億円を上限とする自社株買いを発表すると同時に、将来の株式価値の希薄化懸念を払拭するために自己株式の消却を行なうことを決議したと発表しました。政府は金庫株の消却を促すために、コーポレートガバナンス・コードに金庫株の消却方針の記載を求めるべきでしょう。

株主優待導入企業への賛否

外国人投資家や機関投資家は、日本独自の制度ともいえる株主優待制度に批判的ですが、時価総額が小さすぎて、外国人投資家や機関投資家の投資対象にならない中小型企業のうち、持合解消によって金融機関からの売り圧力に晒される企業は、個人投資家を潜在的な株主として狙いを定めざるを得ないため、株主優待制度を使わざるを得ない面もあるでしょう。
外国人投資家や機関投資家は、株券を管理する信託銀行が株主優待商品を現金化することで現金を受け取っていると推測されますが(ただし、どうしても現金化できない生鮮食品などもあります)、2024年11月の北米投資家訪問では、外国人投資家は株主優待をまったく受け取っていないので不利な扱いを受けているとの誤解もありました。

野村インベスター・リレーションズは「知って得する株主優待2024年版」なる書物を出版しているほか、HPに週次の株主優待制度の新設・変更・廃止や、「読者が選ぶ株主優待人気ランキングTOP50」などを掲載しています。
新NISAの成長投資枠で、現金配当のみならず株主優待品を獲得する目的で、日本株投資を増やしている個人投資家も多いと推測されます。
東洋経済「会社四季報」も巻末の付録に、各社の株主優待制度を掲載しています。2024年2月の「東証マネ部!」の「相次ぐ株主優待廃止の背景は? 今後も続く?」とのコラムは、株主への公平な利益還元や東証再編による株主数の緩和のために、株主優待制度を止める企業が増えていると指摘しました。
しかし、野村インベスター・リレーションズの集計によると、2024年末の株主優待導入企業数は、前年比46社増の1,530社と5年ぶりに増加に転じました。

イオンは株主優待で個人株主を増やして高PERを維持

野村インベスター・リレーションズの「読者が選ぶ株主優待人気ランキングTOP50」の1位はイオンの株主優待カード(買物3%還元など)であり、イオンの今期会社予想ベースPERが約70倍(2024年末時点)と主要小売株のなかで高いのは、株主優待目的で同社株を買う個人投資家が多いためでしょう。
イオンの個人株主数は2005年7万人→2023年92万人と10倍以上に増えました。セブン&アイ・HDも商品券を配る株主優待を導入していますが、人気TOP50には入っていません。
荏原製作所は2023年12月期末の外国人保有比率が47%と外国人投資家にも評価が高い企業ですが、2024年10月に美術館の招待券配布という外国人投資家には利用しにくい株主優待制度の導入を発表しました。元々、鉄道株は乗車券の株主優待を目的に、沿線に住む個人投資家が株主になっているケースが多いですが、2024年6月の株主総会でパリサーから株主提案を受けた京成電鉄は同年9月に、京成バラ園の入園券等の株主優待制度の拡充を発表しました。
2024年10月に上場した東京メトロも、現金配当利回りの高さのみならず、地下鉄乗車券等の株主優待が評価されて、高い初値になったと思われます。

第一生命HDは買収したベネフィット・ワンとのシナジーをアピールするためか、2024年8月に株主優待制度に福利厚生サービスの「ベネフィット・ステーション」を加えることで、同制度を拡充すると発表しました。2025年に入って、トヨタ自動車も株主優待制度の導入を発表したことに驚きました。

逆に、サイゼリヤでは食事券獲得のため株主になっていた個人投資家も多かったと推測されますが、2024年7月に株主への公平な利益還元の観点から株主優待制度を廃止すると発表しました。
サイゼリヤは2024年10月の決算説明会で、「優待廃止前と比べて個人株主が1割減った。その穴を海外の機関投資家が埋めた」と話しました。くら寿司は2024年12月に株主優待制度の廃止を発表したところ、株価が急落したため、2カ月後に食事券の再導入を発表しました。

アクティビストが日本株市場を大きく動かす 外国人投資家の思考法と儲け方
菊地 正俊(きくち・まさとし)
1986年東京大学農学部卒業後、大和証券入社、大和総研、2000年にメリルリンチ日本証券を経て、2012年より現職。1991年米国コーネル大学よりMBA。日本証券アナリスト協会検定会員、CFA協会認定証券アナリスト。組織学会、金融学会、日本ファイナンス学会会員。日経ヴェリタス・ストラテジストランキング2017~2020年、2025年1位。
著書に『低PBR株の逆襲』『米国株投資の儲け方と発想法』『相場を大きく動かす「株価指数」の読み方・儲け方』、『日本株を動かす外国人投資家の思考法と投資戦略』(日本実業出版社)、『アクティビストの正体』(中央経済社)、『良い株主 悪い株主』(日本経済新聞出版社)などがある。
アクティビストが日本株市場を大きく動かす 外国人投資家の思考法と儲け方
  1. 外国人投資家の現状
  2. 日本のアクティビスト活動は第3次ブーム
  3. アクティビストの隆盛は続くのか
  4. 資本効率を重視した経営とは?
  5. 2024年からの新NISAで投資が急拡大
  6. 日本は再び偉大になれるのか
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