本記事は、岡本文宏氏の著書『効率アップ! チーム力アップ! モチベーションアップ! リーダーの任せる技術』(あさ出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

任せることを変える
入社して間もない頃は任せたことに真剣に取り組んでいたスタッフが、数週間でやる気が低下してしまった、入社後数カ月で、惰性で仕事をしているように見えてきた……。
研修に参加するリーダーから、このような悩みをよく聞かされます。
これは、仕事に慣れることからくるダレが原因です。私はこれを、「ナダレ化現象」と呼んでいます。雪山の雪崩がごとく、業務が流れ作業的になってしまい、仕事の質が落ち、生産性がどんどん低下して、本来あるべき状態が崩れてしまうことを指します。放置するとミスが多くなり、顧客や取引先からクレームを受けるようにもなりかねません。
日々の仕事は、同じことの繰り返しが多くなりがちです。変化に乏しい日常が続けば、誰だってやる気が落ちてしまい、業務に対して気持ちが入らなくなるでしょう。
「仕事(商売)とは日々同じことを繰り返して行うもの。だから〝商い(あきない)〟は〝飽きない〟ように、自ら創意工夫をしなければならない」私がかつて勤務していたアパレル企業の役員から、入社して間もなくの研修でそのように教わりました。
仕事に慣れて日々の業務に飽きてしまうと、商品、サービスの品質が保てなくなります。
私がセブン‒イレブンのFCオーナーをしていた頃の話。納品される弁当の盛り付けの見栄えが、どんどん悪くなっていく時期がありました。酷いときには、弁当箱の裏側に野菜の破片が張り付いているものまで納入されるようになりました。これは見逃すわけにはいかないと思い、製造している工場にクレームとして伝えたところ、店舗からの発注数も落ちていないし、FC本部からの注意も受けていないので、とくに問題はないと思っていたし、商品のクオリティーが低下していることに気づかなかったと、工場長から聞きました。
仕事のマンネリ化が原因の「ナダレ化現象」はゆっくり進行するため、第三者から指摘されない限りなかなか気づくことができないので、要注意です。
トキメキがないとマンネリになる
恋人同士が付き合いだして、しばらくすると相手が傍にいるのが当たり前の状態になります。徐々に空気のような存在になり、出会った頃のようなトキメキやドキドキが薄れてきてマンネリ化します。この状態が進行すると、いつしか熱が冷めて破局が訪れます。そういう経験をお持ちの方も、いらっしゃるかもしれません。
仕事も同じです。初めて取り組む業務は、何もかもが新鮮に感じることばかりですし、覚えることだけで精一杯の状態です。そのときに感じていたドキドキやワクワク感は、仕事のやり方が分かってくると徐々に薄れてきます。仕事に慣れれば、スムーズに作業を行えるので良い面もありますが、トキメキがなくなるので、仕事への興味が薄れてモチベーションが低下していきます。
小売業の話になりますが、商品が売れなくなるのは、商品自体の問題という場合もあるものの、一番の原因は入荷して時間が経過した商品に対して、スタッフの気持ちが向かなくなってしまうことです。商品にトキメキを感じている間は、お客様へ積極的にお薦めをしたり、ディスプレイに活用したりしてアピールするのですが、興味が薄れるとそのアイテムの存在を忘れてしまいます。もちろん、商品は売れなくなります。月に1度や週に1度しか来店しないお客様と違って、スタッフは、毎日、店に出勤して、同じ商品を見たり触れたりするので、飽きてしまうのは致し方ないことではあります。
マンネリ化を防ぐために
まずは、部下が仕事に「飽きる」流れを排除することが必要です。可能であれば、担当する業務を定期的に変更するのも良いでしょう。たとえば、店舗であれば、数カ月おきに、順番にSNSでの情報発信の担当をしてもらうとか、季節に合わせて店内の装飾を変えていく担当に抜擢したりして、普段行っている業務とは別の仕事を割り当てて、トキメキが持続するようにしていくことがポイントです。もっと簡単なことであれば、朝礼の司会役を固定せずに、ローテーションで回していくのも良いでしょう。
私が経営していたセブン‒イレブンのFC店では、半年ごとに、スタッフが管理をする商品の担当を変えていました。デイリー商品(弁当・総菜など)の担当であったスタッフがスナック菓子の担当になったり、ドリンク類の担当者がカップ麺の担当になったりするように配置換えを行っていました。
そうすることで、前任者のときは死筋商品になっていたアイテムが急に売れ出し、ヒット商品に代わることがしばしばありました。
担当部門が変わると、別の視点を持って売場や商品に関わることになるので、前任者には見えていなかったことに気づけます。お客様にとっても、新たな視点を持って編集された売場は新鮮に映るので、結果的に売上アップにつながっていたのです。
任せる業務を変えることは、マンネリ化を防ぎ、且つ、業績アップにもつながります。
チームに任せる
1人ひとりに仕事を割り振って任せるというシーンとは別に、チームに任せることもあるでしょう。その際、新たにプロジェクトを立ち上げるケースであれば、チームを編成するところから取り組まなければなりません。
仕事を任せるうえで、チームを構成する人数に最適なのは10人未満です。高いパフォーマンスとイノベーションを起こすには、2枚のピザでお腹を満たすことができる人数でチームを構成するべきだと、アマゾンの創業者であるジェフ・ベゾスも「ピザ2枚ルール」として提唱しています。
私自身の経験からも、10名以下でチームを構成することによるメリットは大きいと言えます。
アパレル専門店チェーンで大型店の店長を任されていたとき、店舗のスタッフの人数は、正社員が5名、アルバイトが2名の7名でした。各自が割り振りされた仕事に取り組み、機動力のあるチームとして稼働していました。結果として、1年で1億円の売上アップを達成することができ、売上額1位のフラッグシップ店にすることができました。少人数のチームとなると、自分がやらなくても、誰かがやってくれるというわけにはいかず、1人ひとりが任務を完了させていかなければ、目標を達成させることはできません。オーナーシップを持って仕事に取り組むようになるということです。
逆に、チームの構成メンバーの人数が多くなれば、成果を上げにくくなります。集団で作業を行う際に、人数が増えるほど、業務に取り組むことに対して、無意識で手を抜いてしまい、1人あたりの生産性が低下してしまいます。このことは、フランスの学者のマクシミリアン・リンゲルマンが「リンゲルマン効果」として発表しています。
これを回避するには、チームの中にサブリーダーを作り、マネジメント業務を分担することが有効です。セブン‒イレブンのFC店を経営していたときは、総勢30名ほどのスタッフを抱えていましたが、出勤する時間帯別に6名のリーダーを置き、それぞれが4~6名ほどのスタッフをマネジメントする構造にしていました。このときも、機動的なチームとして動くことができていました。
4つのタイプでメンバーを構成する
仕事を任せるチームを作るには、メンバー構成も大切です。同じようなタイプばかりが固まったメンバーで構成してしまうと、バランスが取れません。
できれば、リーダー以外に下記の4つのタイプがすべて揃うチームが理想です。
常に新しいアイデアを出して、チームの盛り上げ役や推進役となるタイプ、チームの行動や置かれている状況を冷静に観察できる分析家タイプ、行動力やアイデアを生み出す能力はそれほど高くないが、日々のやるべきことを黙々とこなしていける実務家タイプ、そして、温かな心の持ち主で、常にメンバーへの気遣いを欠かさない、潤滑油的な存在のサポート役となるタイプです。
リーダーや各メンバーが役割を兼務する場合もあります。
昔話に出てくるチームには、メンバーとしてこのようなタイプが存在しているので参考になります。『西遊記』であれば、リーダーは三蔵法師、推進役は孫悟空、分析家と実務家の役割は沙悟浄、サポート役は猪八戒。『桃太郎』であれば、全体をまとめるリーダーは桃太郎、推進役はサル、分析家はキジ、実務家とサポート役はイヌです。
このように、異なるタイプがチームに存在すれば、役割分担もしやすくなります。チームメンバーを揃える際に頭に入れておいてください。
既に構成されているチームであれば、各メンバーの特性を理解し、それぞれ、どのタイプに相当するのかを見極めたうえで、役割を与えていきましょう。

アパレル専門店チェーン勤務、セブンイレブンFC店経営を経て2005年メンタルチャージISC研究所(株)を設立。
延べ250社以上の経営者に対して「繁盛企業になるための人材育成、マネジメント」ノウハウを提供。金融機関、商工会議所、業界団体、ショッピングセンターなどでの研修、講演は年間約100回以上。NHK「おはようニッポン」などのテレビ、民放ラジオ、新聞、雑誌などに多数取り上げられている。
『ダイヤモンドオンライン』『週刊ダイヤモンド』『バンクビジネス』『アイデム 人仕事研究所』『飲食店経営』など雑誌への連載、寄稿は450冊を超える。著書は『仕事ができる人を「辞めさせない」15分マネジメント術』『独立して絶対にやるべきこと』『店長の一流、二流、三流』他、海外でも翻訳出版されている。
本業の傍ら、「著者×ミュージシャン」として、オリジナル曲を発表し、ライブ活動も行うマルチプレーヤーである。
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