本記事は、岡本文宏氏の著書『効率アップ! チーム力アップ! モチベーションアップ! リーダーの任せる技術』(あさ出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

常に部下への影響を意識する
リーダーは部下に大きな影響力を持っています。
話したこと、メールやLINEなどで伝えること、普段の行動など、少し大げさに言えば生き様を含め、すべてにおいて、良いも悪いも影響を与えています。
私がアパレル専門店チェーンの13店舗を統括するマネージャーをしていたとき、スタッフが店長に瓜二つという店が多くありました。話し方、歩き方、身のこなし方、髪型、服のセンス、笑い方まで似ている場合もありました。
電話で話をすると、店長なのかスタッフなのか分からないケースが多かったと記憶しています。
それだけ、スタッフはリーダーのことをよく見ているし、話していることを聞いているのです。職場で何気なく伝えた一言によって、スタッフの仕事へのモチベーションは上がりも下がりもします。
大切なのは、自分が伝えたことが、相手にどのように受け止められるのか、常に考えることです。リーダーが弱気な発言をしていると、スタッフのやる気も下がってしまいますし、逆に、前向きな発言を常にしていれば、部下もポジティブな発言をするようになります。業績にも影響が及ぶので、リーダーは使う「言葉」を慎重に選ばなければなりません。
たとえば、結びの言葉として、○○かな~と思います」といったフレーズを使う人を見かけますが、これは自信のなさや責任を回避する姿勢を表しているように捉えられるので避けましょう。リーダーは「です」と、断定して伝えるようにしてください。
話す内容も意識することが必要です。仕事を続けていれば、毎日楽しい、嬉しいと思えることばかりではないはずです。しんどいなぁとか、面倒だな~と思うこともあるのが普通です。そのことを自分の胸にとどめておいたり、プライベートで家族や心を許せる友人などに愚痴を言ったりするだけであれば大きな問題はありません。そうやって、ときどきガス抜きをして、ストレスを溜め込まないことは、心身を正常な状態に保つうえで必要です。
ただ、ネガティブなことを職場で話していたとしたら、言われた側はどういう気持ちになるでしょうか? 上司や先輩社員が職場で毎日、会社に対する愚痴を言って、やる気がなさそうに仕事をして、常にため息をついていたとしたら、その姿を見て、若手スタッフは、将来に不安を感じます。そんな人から仕事を任せられても、真剣に取り組もうとは思えません。
若手社員にとって、上司は自分の5年後~10年後をイメージするロールモデルです。先輩スタッフは3年後の自分の姿として捉えます。
ネガティブな感情を抱いていたとしても、その気持ちを言葉に出すことはお薦めしません。そういう言葉を聞けば、部下は不安になり、不信感を抱きます。
リーダーは職場にいるときは、すべて見られている、聞かれていると意識してください。もちろん、嘘はつかなくてもいいですが、ピンチの状態でも、ポジティブな姿勢を見せるなど、多少の演技は必要です。
部下と話をする際、言い方、伝え方、態度や表情にも気を配りましょう。語尾の上げ下げだけでも、相手への伝わり方が変わります。
たとえば、「はい」と返事をする際に、語尾に力を込めて「ハイ!」と言えば、相手に好印象を与える気持ちの良い返事になります。逆に、語尾を下げて「はい~( )」と答えると暗い印象を与えます。「はい~( )」と伸ばしながら語尾を上げれば、感じの悪い人だと捉えられてしまいます。
とくに、現場で忙しいときに部下から話しかけられると、「何⁉」と短く強い口調で返事をしてしまいがちになります。そういう場合は、一呼吸おいて、「ちょっと手が離せないけど、どうしたの?」などのように穏やかな口調で対応することを心掛けてください。少し丁寧な言い回しに変えるだけで、安心感を与えることができます。
リーダーの話し方、話す内容によって、部下のやる気は上がりも下がりもします。任せた仕事の出来栄えにも影響が及びます。
常に自分の態度や対応が、部下からどう受け取られるのか意識しておくことが大切です。
任せることでエンゲージメントを高める
「従業員エンゲージメント」を高く保つことは、企業の成長に不可欠です。
(株)マイナビが正社員1,200名を対象に調査を実施したところ、「エンゲージメントが高いと従業員の幸福度を上げ、離職率を下げる」という結果になりました。
https://hr-trend-lab.mynavi.jp/column/engagement/1327/
従業員エンゲージメントとは、従業員が自らの仕事に対して、熱意を持って取り組む姿勢や気持ちのことを指します。もともとは、90年代にアメリカで、給料や待遇面の充実度を示す「従業員満足度」を高めることだけでは、優秀な人材の流出を止めることができないと気づいて生まれた概念です。
その後、GAFAなどの大企業が取り入れたことで広がり浸透し、日本でも取り組みを行う企業が増えています。「心の時代」と呼ばれる現在、企業と従業員の間の感情的なつながりの重要性が認知されていることの証だと言えます。
エンゲージメントが高い従業員の比率が高まることで、現場の空気が良くなり、コミュニケーションが充実し、チームワークが上手く取れるようになります。その状況をSNSやホームページなどで紹介すれば、求職者から働きやすい会社と認識されるので、優秀な人材が集まりやすくなります。人手不足を解消する切り札の1つになります。
エンゲージメントの高い従業員は、仕事に対して積極的に取り組むがゆえ、生産性、仕事の質がともに高くなります。そういう従業員は自分の勤めている企業に対して信頼をおき、仕事自体に誇りを持っています。
働きやすく、働きがいのある職場と感じているので、離職率が低下し、優秀な人材の流出を防ぐことができるのもメリットです。
エンゲージメントを高める3つの鍵
エンゲージメントを高めるには、仕事をしっかり任せることが第一の鍵です。
任せられた仕事をリーダーの期待通りに完了することができれば、自信が付き、自分が成長できたと感じられます。ここで働けば成長できると感じれば、リーダーから任せられた仕事に熱心に取り組むことになり、エンゲージメントも自然と高くなるのです。
2つ目は、社会的に意義がある仕事を任せられていると感じることです。
とくに若い世代は、エシカルな活動やサスティナブルな社会の実現に貢献しているか否かで企業や商品、サービスを評価する傾向が強いと言えます。
普段の業務を通じて、社会貢献ができていると分かれば、自分の仕事を誇りに思えます。
そういう企業には長く勤めたいと思い、エンゲージメントも高くなります。
3つ目は、エンゲージメントを高める最短コースです。
それは、部下を企業やリーダーのファンにすることです。
「この会社が好き!」「この人と一緒に働きたい!」と思えれば、自然と貢献度が増し、エンゲージメントは高まります。

アパレル専門店チェーン勤務、セブンイレブンFC店経営を経て2005年メンタルチャージISC研究所(株)を設立。
延べ250社以上の経営者に対して「繁盛企業になるための人材育成、マネジメント」ノウハウを提供。金融機関、商工会議所、業界団体、ショッピングセンターなどでの研修、講演は年間約100回以上。NHK「おはようニッポン」などのテレビ、民放ラジオ、新聞、雑誌などに多数取り上げられている。
『ダイヤモンドオンライン』『週刊ダイヤモンド』『バンクビジネス』『アイデム 人仕事研究所』『飲食店経営』など雑誌への連載、寄稿は450冊を超える。著書は『仕事ができる人を「辞めさせない」15分マネジメント術』『独立して絶対にやるべきこと』『店長の一流、二流、三流』他、海外でも翻訳出版されている。
本業の傍ら、「著者×ミュージシャン」として、オリジナル曲を発表し、ライブ活動も行うマルチプレーヤーである。
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