本記事は、山本 御稔氏の著書『「本当にあった事件」でわかる金融と経済の基本』（日本実業出版社）の中から一部を抜粋・編集しています。
お金と法定通貨
さっそくですが、質問です。あなたは日常的に誰の顔をもっとも見ていますか？ 家族ですか？ 友だちですか？ お気に入りの歌手や俳優ですか？ それとも会社の上司ですか？
おそらく正解は、1万円札、5千円札あるいは1千円札といった紙幣の肖像画の顔ではないでしょうか。渋沢栄一、津田梅子、そして北里柴三郎をこれから毎日のように、見続けることになるのです。
2024年7月の改刷は偽札防止だけを意図したものではありません。日本のこれからのありようを表現している部分もあるのです。
渋沢栄一は著書『論語と算盤』で、経済だけでなく社会貢献の必要性について記しました。渋沢栄一は、今の私たちが目指しているEGSやSDGsの重要性、津田梅子は女性の活躍や男女平等、そしてグローバル化の重要性を表わしているように思えます。
北里柴三郎は、私たちが日常的に必要としている医療の重要性や、イノベーションを思い起こさせます。お札の顔になった人々は、さまざまな願いや情報を表現しているのです。
それでは、このお札である「紙幣」や「硬貨」について、基本的なところから学んでみましょう。
日本銀行（日銀）が発行する1万円札、5千円札、1千円札は「日本銀行券」と呼ばれます。これは紙幣として、国立印刷局で印刷されています。
硬貨である500円、100円、50円、10円、5円、1円は、政府が造幣局で製造しています。これらの紙幣と硬貨は「法定通貨」と呼ばれます。
法定通貨とは、国が認めた貨幣（紙幣と硬貨をまとめて貨幣）のことです。それぞれの国や地域で確実に使えるパワー（強制通用力）を持っています。
日本で使える法定通貨は「円」です。円は、日本国内であればどこでも通用します。アメリカなら「ドル」が法定通貨であり、中国なら「人民元」が法定通貨です。
さまざまな国で政府によって法定通貨が定められ、それを基本的に中央銀行が管理しています。中央銀行とは、民間銀行のとりまとめなどの役割を果たす、国の金融機関の中核となる銀行です。そして、日本の中央銀行が「日本銀行」です。
中央銀行は世界に122行ある（2022年日本銀行調べ「海外の中央銀行・通貨当局」）と言われています。法定通貨は、各国でそれぞれ発行されているのですが、2021年にエルサルバドル共和国が法定通貨として暗号資産の一種であるビットコインを利用すると発表して、話題となりました。
「通貨」と「貨幣」、似たような言葉ですが、それぞれ意味に違いはあるのでしょうか？
「貨幣」は物々交換を簡単に行なうためにつくり出された“代用品”と言えます。古代の巨大な石貨や江戸時代の小判も貨幣ですし、今皆さんの手元にある渋沢栄一の1万円札も「貨幣」です。「貨幣」とは、モノの価値をはかる“手段”としての呼び方と言えます。
「通貨」という呼び方は、その貨幣が流通でも利用できる価値を備えたという意味で使われます。1万円札は日本銀行がその価値を証明していますので、日本国内のどこでも使えますし、世界でも流通しています。「円」は日本の「貨幣」であり、世界に流通する「通貨」なのです。
また、通貨と呼ばれるものの中には、「預金通貨」というものもあります。これは銀行の“要求払い預金”のことです。要求払い預金とは、銀行にお願いをすれば、いつでも紙幣などの現金で払い戻しができる、流動性が高い預金のことを言います。代表的なのは、私たちが一般的に利用している民間銀行の普通預金です。
現金通貨（現金）についても理解しておきましょう。
現金とは、中央銀行が定めた紙幣、硬貨である、いわゆる“物理的に存在するお金” “触ることができるお金”を意味します。ただし、会計上では、すぐに現金化できる銀行預金（預金通貨）や小切手も現金に含まれます。
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