本記事は、山本 御稔氏の著書『「本当にあった事件」でわかる金融と経済の基本』(日本実業出版社)の中から一部を抜粋・編集しています。

貨幣価値の下落と上昇
貨幣価値が下落したら、どうなるのでしょうか?
たとえば、日本の法定通貨である円の価値が変動(上昇・下落)すると何が起きるのでしょうか?
そもそも、江戸時代のような鎖国経済であれば、外国との貨幣の交換はほとんどありません。基本的なことですが「外国為替」とは“貨幣が異なる国・地域との貨幣の交換”です。貨幣(通貨)交換のレート(比率)が外国為替レートですから、もし海外とモノのやりとりがなければ、外国為替レートという考え方もありません。
円高と円安
外国為替レートで使われる、「円高」「円安」の意味について考えてみましょう。
外国の貨幣との交換レートが、自国にとって有利な状況になれば“高”であり、円の価値が上がったということで、これが「円高」です。
不利になれば“安”になり、円の価値が下がったということで、「円安」です。
円高になると海外のモノがお得に買えるようになったり、海外旅行がしやすくなったりします。企業なら輸入がしやすくなります。
逆に円の価値が下がる円安になると、外国人(海外の通貨を円に交換する人)が日本で消費しやすくなるほか、日本から海外への輸出が増えます。2017年頃からインバウンドの外国人旅行者が増えています。2019年には3,000万人を超え、新型コロナウイルス感染症の影響で一時縮小しましたが、2023年以降回復しています。円安が、この急回復の大きな要因です。
海外の方からすれば自国の通貨(ドル・ユーロ・元など)を円安の日本で円に為替交換すると、いっぱいモノを買えるという「安いニッポン」のお得感があるのです。反対に、日本人が海外にいく時は、苦しくなります。昨今、海外の企業が日本の企業を買収することが増えています。日本企業の技術力を評価している面も、もちろんありますが、円安の影響で買収費用が安く済むという面も大きいのです。
なぜ為替レートは変動するのか?
円高や円安という為替変動が起きるのには、さまざまな要因があります。たとえば、「輸出・輸入」すなわち貿易の状況です。輸出が多ければ貿易黒字になります。輸入した国はモノを得るのですが、それに対して輸出した国に支払いをしなければなりません。
日本が輸出すれば、輸入国は日本に(日本の輸出企業に)円を支払う必要があるのが原則です。輸入側は輸出側に円を支払うために輸入側の貨幣(ドルやユーロなど)を売って、円を買います。輸入側の国の貨幣売り・円買いが起きますので円高になります。日本の輸出が多い状態、すなわち円での支払いをしなくてはならない国が増える貿易黒字は、円高要因というわけです。
逆に日本の輸入が輸出より多ければ、貿易赤字となり、円安になります。また、輸出入以外に「金利」の状況も為替レートに影響します。アメリカの金利が日本に比べて高ければ、アメリカの銀行に預けたり、アメリカの債券を買ったりするためにドルを用意しますので「円売り・ドル買い」になります。金利が高い国の貨幣は、その高金利を求める需要が高まると貨幣価値は上がります。
さらに、政府や中央銀行による円買い・円売りといった、国による為替操作の動き、専門用語で言えば「介入」が為替レートに影響することがあります。
日本銀行は2024年に為替相場の想定以上の変動が、実際に企業や消費者に与える悪影響をゆるやかにするため、外国為替の市場介入を行ないました。

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