本記事は、山本 御稔氏の著書『「本当にあった事件」でわかる金融と経済の基本』(日本実業出版社)の中から一部を抜粋・編集しています。

「本当にあった事件」でわかる金融と経済の基本
(画像=Creativa_Images/stock.adobe.com)

ギリシャに訪れた財政危機

2010年、ギリシャで財政危機が深刻化しました。会社にたとえれば、倒産しそうになったということです。なぜこんなことが国家レベルで起きたのでしょうか? これは、日本という国では起きないことなのでしょうか? そんな不安がよぎります。

話は財政危機発覚の1年前の2009年にさかのぼります。当時、ギリシャの一般政府雇用者、いわゆる公務員の比率は20%ほどでした。当時の日本は8%程度だったので、ギリシャは公務員が多い国だと言えるでしょう。ギリシャの公務員の給与は高く、また、退職後には年金として現役で働いていた時の給与の90%程度が支給されると言われていました。

当時からギリシャ国民は次のような心配をしていたそうです。
「公務員が多すぎるのではないか。給与や年金の支払いは必要ではあるが、その財源である税収が少ないのではないか? 税収が少ないと財政赤字(つまり国債などの発行による借金)が増えるのではないか」
しかし、当時の政府は「財政赤字はGDPの5.4%程度ですから大丈夫。つまり、借金は少なく、ほとんどが税金でまかなえていますよ」と言っていました。税収でまかなえている優秀な国がギリシャのイメージだったのです。しかし、そのイメージが激変する事件が起きました。

ギリシャでは2009年10月、政権交代が起きました。カラマンリス政権から、パパンドレウ政権に代わったのです。その時、新政権の幹部は驚いたそうです。公務員の給与や社会保障、そして退職者の年金などを合計すると政府支出の4割ほどだと言うのです。

政府支出はインフラなど“国全体の経済の発展のため”に使われるべきなのですが、カラマンリス政権は“公務員の給与や年金として”大半を使っていたのです。これでは国の発展にはつながりません。
それだけではありません。新政府は気づきました。
「え! ギリシャの財政赤字は5.4%と聞いていたけれど実際は12.7%じゃないか! 2倍以上だ。積み上げたらとんでもない借金大国かも!! (*)
* 数値データは、立法と調査354号「ソブリン・デフォルトの実像―ギリシャ危機から学ぶ―(桜井省吾)」より引用

ここからギリシャ財政危機が始まりました。

国債ってどんなもの?

「国債」とは、「国による借金」のことです。税金だけでは足りない分は、国債を発行して補います。「借金」と聞くと悪いことに聞こえますが、実は、これは特に悪いことではありません。税金だけで済むに越したことはないのですが、それだけでは足りない場合には、「税金+国債=歳入」として、どこの国も財政を成り立たせています。

ギリシャの問題は、国債の発行量やその残高をごまかしていたところにありました。ごまかすということは、思った以上に国債という国の借金が増えていた事実を隠したかったのでしょう。

通常、国債は、元本が保証されます。そのため、投資家は国債を、利息が定期的に入り満期時には全額が償還(払い戻し)される「安全資産」として認識していたのです。
ギリシャ政府の国債にごまかしがあったとなれば、利息や元本が払い戻されるのか不安です。それは安全資産とは呼べなくなります。投資家、特に外国の投資家は大慌てでギリシャ国債を売りました。

しかし、そもそも国が信用できないのですから、再び売り出された国債を誰も買いません。誰も国債を買ってくれないと、政府にお金が入りません。お金がないのですから、歳出ができなくなってしまいます。

そして、お金に困ったギリシャ政府は、2010年4月、IMFとEUに金融支援を要請しました。事実上の政府の財政破綻、つまり“国家の倒産危機”の表明です。これが「ギリシャ財政危機」という事件なのです。

財政危機で起きること

“国の借金”である国債に危機が生じた場合、何が起きるのでしょうか? 国債は政府が発行する「債券」であるので、政府が投資家に謝れば良いし、政権が代われば良いだけのこと…… だと考えることはできません。

おわかりのように、「政府」をつくり出しているのは国民です。国民が「やりたいことはいっぱいあるけれど、税金ではお金が足りない!」と要求します。それに対して政府は国債を発行し、借金してでも国民の声に応えるのです。

政府の国債による財政危機は、国民全員に対する危機なのです。
もっとも、ギリシャの場合には政府が国債の発行額を隠していたという、さらにとんでもないことがあったのですが……。

財政危機だと何が起きる?

まずは、国債が売られます。売られる理由はいくつかあります。経済状況に変化が起きて、既存の国債の利息では満足できない、あるいは国債を売った分のお金で株など、より想定できるリターンが高い資産を買う、はたまたより安心な銀行預金にするなどが主な理由です。ギリシャの場合は国債を発行する政府(国家)が信用できないので、国債を売るというものです。政府は基本的にはしっかりしているはずで、そのしっかりしているという前提条件のもとでの国債は、安全資産と言えるのです。

ちなみに信用力が著しく低下してしまうと価値がなくなるので、この時点でデフォルト(債権の利払いや償還という約束ができなくなること:債務不履行)の危機が生じます。

国債がデフォルト危機になったギリシャでは、次に、CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)の売買が始まりました。CDSとは、デフォルトに関する信用リスクを売買する金融派生商品です。このCDSの保証利率が上昇するというのはデフォルトの可能性が高いことを表わします。デフォルトしそうな商品に投資するにはそれだけ高めの利率がないと投資家は手を出さないからです。

そして、ついに社会保障や公務員の給与、ボーナスもカットされました。公務員の給与や年金が減るということは、その人たちの消費も減ります。これはスーパーや製品の売上の減少にもつながります。民間企業にも影響するのです。

それでもまかないきれなかった分は、税金を上げることで対応しようとしました。そうすると、税金が高いので全国民は消費や投資を控えます。国の税収も想定とは異なり、減ってしまいます。当然、GDPも低下します。最終的に、国民全員が我慢しなければならなくなったのです。

「本当にあった事件」でわかる金融と経済の基本
山本 御稔(やまもと・みとし)
コア・コム研究所株式会社取締役社長、東京国際大学特任教授、東京科学大学非常勤講師。1961年生まれ。同志社大学経済学部卒。シカゴ大学MBA。九州大学博士課程満期退学。中央信託銀行(現・三井住友信託銀行)、監査法人トーマツ(デロイト・トーマツ)にて資産運用・金融部門のパートナーを経て現職(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
「本当にあった事件」でわかる金融と経済の基本
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