本記事は、山本 御稔氏の著書『「本当にあった事件」でわかる金融と経済の基本』(日本実業出版社)の中から一部を抜粋・編集しています。

嫌われ者の「税金」
私たちはなぜ、税金に対して抵抗感があるのでしょうか? それは行動経済学で言うところの「損失回避バイアス」と「現在価値バイアス」で説明できます。
まず、税金の使用目的が社会保障など国民のためであったとしても、それが自分にとってどのように利益になるのかの実感がわきにくいからです。そのためにお金を支払うということは、損だけを被ったように感じてしまいます(損失回避バイス)。
しかも、今、税金を納めてもそれによる利得を得るのはかなり先のことです。将来もらえるかもわからない利得のために、長い時間を割くことには抵抗感があるのです(現在価値バイアス)。
こうした感情から、当時、消費税に反対するデモ行進が起きたことは、何の不思議もありません。
消費税とは?
垂直的公平性と水平的公平性
消費税が導入される前、税制はシャウプ勧告に基づいていました。これは所得に応じた所得税を基盤とするものです。そして基礎控除額(総所得のうち一部の金額をあらかじめ引いておき、所得とみなさないこと)を設けて、所得が高くない人には税負担の軽減をしました。所得が低い人が軽減された分は“富裕税”として高額所得者が支払っていました。ざっくり言えば、たくさんお金を持っている人からはたくさん税金を納めてもらおうという「垂直的公平性」と呼ばれる税制です。今でも、それは所得税の累進課税制度(所得が多いと所得税率が高くなる)などで採用されています。
それから日本経済も成長し、GDPも世界第2位になりました。国民の多くが所得も消費も増やしてきました。そこで税金の内、一部を「水平的公平性」で考えてみようとなりました。「水平的公平性」とは、所得にかかわらない、均一の税金です。この考え方により間接税である消費税が導入されました。もちろん所得が十分ではない人もいるため、消費税によって過度な負担となるという問題も存在します。
消費税の使途については財務省が公表しています。2023年のデータでは年金、医療、介護、子育て支援が中心となっています。
消費税と景気
消費税と物価
1989年4月1日、日本で初めて消費税が導入されました。
今では買い物したら消費税は払うもの、というのはあたりまえになっているかと思いますが、当時は一大騒動だったのです。
昨日までは100円のモノを買ったら100円玉1枚で済んだのに、消費税導入後からは100円の買い物をした後で合計額が“勝手に”103円になることは、違和感がありました。その後、数度にかけて段階を踏んで税率が変更され、今に至っています。
消費税に限らず、増税には経済の失速の懸念が生じます。それはなぜでしょうか?
増税は景気を悪くする?
消費税が上がると、お金を使う消費(需要)は減るでしょうか? 販売側の販売量(供給)は減るのでしょうか?
「月に10回だけ1,000円のランチを食べにいく」と考えてみましょう。手元に1万円があれば、予定通り10回ランチにいくことができます。レストラン側にとっても、月に10食のランチで売上は1万円になります。需要と供給が均衡している状況です。
ここで消費税10%が適用されるとどうなるでしょうか。ランチ代は1,000円+100円=1,100円になります。消費できる総額は1万円ですから、実質1,100円となったランチならば9回しかできなくなってしまいます。
消費税は間接税であり、モノやサービスの本体の価格にプラスされる税金です。モノやサービスの消費税抜きの「本体の価格」はこれまでと同じなので、同じように需要も供給もあるかと言えば、当然そうではありません。
人々の感覚としては“価格そのものが上がった”と、とらえてしまいます。実際に支払う金額は上がるのですから当然です。
事実上価格が上がったと考えてしまうと、需要は減るわけです。そして欲しがる人がいないので供給も減ってしまい、最終的には経済が伸びなくなってしまいます。
先ほどの例で言えば、お店にとっては、今まで10回で合計1万円使ってくれていたお客さんが、9回で計9,900円しか使ってくれないことになります。これが何十人、何百人も積み重なったらどうなるでしょうか。
