本記事は、山本 御稔氏の著書『「本当にあった事件」でわかる金融と経済の基本』(日本実業出版社)の中から一部を抜粋・編集しています。

震災で発揮された日本の金融の強さ
震災の翌日の2011年3月12日のことです。この日は本来、銀行は休みの土曜日でしたが、銀行窓口が開設されました。銀行の支店も震災で被害を受けてしまい、建物の中の窓口には入れません。そこで外にテントを組み立てて応急の簡易窓口を設けました。とはいえ、震災の影響で口座保有者は通帳も印鑑も手元には持ち合わせていません。
銀行はこの状態でも、面談で聞き取りを行ない、可能な限りの本人確認をしたうえで10万円までの現金を払い戻しました。この緊急時の払い戻しは海外でも話題になり、日本人の震災時の“支え合い”のすばらしさが知られることになりました。
この事実は日本の銀行の「金融面での強さ」を示しています。
震災直後は銀行窓口が機能しなくなり、ATMも使えず、各種のカードも使えなくなり、買い物もできない状態でした。家計だけでなく、仕事上でも送金・出金ができなくなり、さらに小切手が使えなくなりました。
このままでは被災地だけでなく、被災地と関連する企業などの経済がストップしてしまいます。被災地が他の地域から物資やサービスを購入しても、その支払いができないのです。すると被災地以外の東京、大阪といった地域や海外の製品やサービスの供給企業にお金が支払われなくなり、最悪、倒産の憂き目にあってしまいます。こんな流れは絶対にあってはなりません。
金融インフラ(基盤・土台)の門番である、日本銀行と金融庁の動きは素早いものでした。震災のその日のうちに、「金融機関(銀行、信用金庫、信用組合等)への要請」、「証券会社への要請」、「生命保険会社、損害保険会社及び少額短期保険業者への要請」そして「火災共済協同組合への要請」が出されました。
金融機関(銀行、信用金庫、信用組合等)への要請 ※一部 ・預金証書、通帳を紛失した場合でも預金者であることを確認して払戻しに応ずること ・届出の印鑑のない場合には、拇印にて応ずること ・事情によっては、定期預金、定期積金等の期限前払戻しに応ずること ・今回の災害による障害のため、支払期日が経過した手形については関係金融機関と適宜話しあうこと ・災害時手形の不渡処分について配慮すること ・汚れた紙幣の引換えに応ずること ・国債を紛失した場合の相談に応ずること |
大震災によってさまざまなインフラに問題が起きている状況で、せめて預金の引き出しや小切手の支払いに問題が起きないにようにし、金融インフラに更なる問題が起きないようにという維持と意地が見られました。そして銀行を始めとする金融機関も即座に動いたのです。
東日本大震災により、災害時における日本での金融面の行動が強化されました。しかし、災害はいつ、どこで起きるか予測がつきません。
地震が起きると経済がストップします。ストップしている経済は地震が収まればまた再開されるわけではありません。元に戻すには時間と費用がかかります。
大震災対応 国債発行
大震災・地震による経済的被害
残念ながらこれまでも、大震災は何度も発生してきました。
大正時代に発生した、関東大震災では“ストック”と呼ばれる社会や民間の持つ財産の毀損額の大きさは46億円と、名目GDP比で30%ほどでした。まだ日本経済が大きくなかったこと、それゆえに大きな影響があったことは間違いありません。給与を得始めた新入社員が、まだ十分な貯金もないままで、多額の損を抱えるような状態だったのです。
一方、GDPが世界第3位だった2011年に発生した東日本大震災の影響は、GDPの比率では3.6%で、一見すると関東大震災よりは被害は小さく見えます。
しかし、2012年(震災の翌年)の名目GDPも下がり499兆円と500兆円を割り込んでしまいました。震災による負の影響が長引いてしまい、拡大したと言えるでしょう。経済的にも暗い時期となったのです。
ここで用いた「ストック」とは、社会資本(道路、治水施設、鉄道など)、住宅そして民間企業の設備など、経済的にも重要なインフラです。これらのインフラづくりには多大な資本と時間が必要で、それが毀損した場合には、復旧に向けてやはり多大な資本と時間が必要になります。
この復旧に十分な資本を使うことができれば経済が元に戻り、以前よりも伸びる可能性もあるのです。落ち込んだGDPの再生と潜在的な経済成長力の実現を期待することもできます。

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