この記事は2025年7月4日に配信されたメールマガジン「アンダースロー:参院選 消費減税が最大の争点」を一部編集し、転載したものです。

アンダースロー
(画像=years/stock.adobe.com)

目次

  1. シンカー
    1. 米国:利下げが必要な環境は続いている
  2. 参院選 消費減税が最大の争点
    1. 自民党の現金給付の効果についてはどうご覧になっていますか?
    2. 自民党の現金給付は実質賃金の低迷に苦しむ現役世代に寄り添っていると言えるのでしょうか?
    3. 消費減税の効果についてはどうご覧になっていますか?
    4. 物価高対策として優れている政策は食料品の消費税引き下げか一律引下げどちらでしょうか?
    5. 消費税そのものを廃止するというのは、現実的ではないのでしょうか?
    6. 2024年度の税収の上振れについてはどうご覧になっていますか?

シンカー

米国:利下げが必要な環境は続いている

米国では直近の家計消費の伸び率が6ヵ月平均で2020年8月の水準にまで低下し、企業の成長期待の押し下げに繋がっていることが民間雇用需要の抑制にも表れつつある。エクイティ・ファイナンスなどを通じ消費に影響を与える住宅の価格は前月比マイナスで足元は推移していることに加え、高水準の消費者ローン金利でクレジットカードの延滞率は悪化基調が続いている。

雇用環境が徐々に減速していることが低中所得層を中心にさらなる消費余力の下押し要因となる。6月の雇用統計は雇用者数が前月比+14.7万人と、概ね前月(+14.4万人)と同程度の伸びとなった。4、5月の公表値はあわせて1.6万人上方修正された。失業率は4.1%と前月から改善した。労働せず、求職もしていない非労働力人口の増加で労働参加率は低下基調(23年11月62.8%→25年6月62.3%)にあり、失業率が下がりやすい状況が直近で続いている。

今回、全体の雇用の伸びのうち約半分を州政府・地方自治体の教育関連が占め、民間業種は+7.4万人と、前月(+14.4万人)から大きく減少した。製造業など製品生産部門で低い伸びが続くなか、これまで全体を押し上げてきたヘルスケアサービスなどサービス業が今回は弱かった。同日公表された5月貿易統計では、輸出入をあわせた貿易額合計は前月比―1.9%となったものの、相互関税の猶予もあり、水準的には駆け込み需要からの反動減の範囲内で推移している。

関税交渉の結果次第では、卸売り、小売、輸送、倉庫など母数が比較的大きい業種が影響を受けると考えられるため、引き続き注意が必要である。可決した政府の減税法案が可処分所得と消費のサポートに幾分か貢献する可能性はあるものの、FRBは、インフレ抑制のため引締め的な金融政策を維持していく方針であり、言い換えれば、名目成長率の抑制を続けていくスタンスである(SEPのPCEインフレ率を便宜的に実質GDP見通しに足せば、2025年からロンガーランにかけてそれぞれ4.4%、4.0%、3.9%、3.8%)。程度の違いは読みにくいものの、関税のコストが企業の利益マージン圧縮となることで雇用の減速基調は今後も続くことが見込まれ、利下げを行うべき状態は担保されていると言えるだろう。(松本賢)

参院選 消費減税が最大の争点

■ 自民党の現金給付の効果についてはどうご覧になっていますか?
■ 自民党の現金給付は実質賃金の低迷に苦しむ現役世代に寄り添っていると言えるのでしょうか?
■ 消費減税の効果についてはどうご覧になっていますか?
■ 物価高対策として優れている政策は食料品の消費税引き下げか一律引下げどちらでしょうか?
■ 消費税そのものを廃止するというのは、現実的ではないのでしょうか?
■ 2024年度の税収の上振れについてはどうご覧になっていますか?

以下は会田がコメンテーターとして出演している文化放送の「おはよう寺ちゃん」の内容の一部をまとめ、加筆・修正したものです。

自民党の現金給付の効果についてはどうご覧になっていますか?

問(寺島):第27回参院選がきのう公示され、20日の投開票に向け選挙戦がスタートしました。自民、公明両党が非改選議席を含めた過半数を維持できるかが最大の焦点です。与党の非改選議席は75。今回、50人当選すれば、全体の過半数125に達するため、政権維持へ石破総理はこれを目標にしています。参院選では消費税減税の是非が最大の争点となっています。石破総理はきのう、神戸市で第一声を上げ、野党が軒並み掲げる消費税減税を「医療、介護、年金の財源を傷つけてはいけない」と批判しました。1人2万~4万円の給付を速やかに実施すると強調しました。自民の給付案は国民一律2万円を支給して、さらに子どもと住民税非課税世帯の大人については1人あたり2万円を追加するとの内容ですが、現金給付の効果についてはどうご覧になっていますか?

答(会田):家計の貯蓄率はかなりの低水準まで落ちてきていて、家計は将来に向けた貯蓄もできないほど困窮しています。多くの国民は、給付も減税も望んでいるとみられます。給付か減税かという対立軸を強引に作り出そうとしている自公政権には、財政再建を優先して国民の生活の困窮に向き合っていないと、選挙当日に向かって、批判が高まって行くとみられます。給付金は貯蓄に回るという否定的な意見がありますが、貯蓄に回って良いと考えます。十分な水準の貯蓄があって初めて、消費者は消費を増やします。その水準の回復に寄与するからです。

自民党の現金給付は実質賃金の低迷に苦しむ現役世代に寄り添っていると言えるのでしょうか?

問(寺島):公明党の斉藤代表は、給付に対する批判を意識して、「バラマキではない。年金、賃金との差額を埋める物価高対策だ」と説明しています。自民・公明の公約では、住民税非課税世帯の大人1人に対して、4万円支給するとしています。住民税非課税の高齢者夫婦には計8万円が配られることになります。2023年の国民生活基礎調査によると、住民税非課税世帯は世帯主が65歳以上の世帯が75%を占めます。そして全国の高齢者世帯の5割弱が住民税非課税となっています。一方、住民税非課税世帯以外の大人は1人2万円です。石破総理は現金給付の趣旨について、「物価上昇に賃金上昇が追いついていない」と訴えていましたが、これでは、実質賃金の低迷に苦しむ現役世代に寄り添っていると言えるのでしょうか?

答(会田):政府は、経済再生と財政健全化を両立するとしてきました。国民の声を聴いて経済再生を優先するのが「経済あっての財政」の考え方です。一方、財務省主導の財政健全化を優先するのが逆立ちした「財政あっての経済」の考え方です。IMFの推計では、2025年の政府の債務残高GDP比が、コロナ前の2019年より改善しているのは、G7で日本だけです。更に、2025年の財政収支が、2019年より改善しているのも、日本だけです。一方、2025年初までに、実質消費がコロナ前の水準を回復できていないのも、日本だけです。明らかに、逆立ちした「財政あっての経済」になってしまっていて、政府が国民に寄り添っていないことで、現役世代は苦しんでいます。

消費減税の効果についてはどうご覧になっていますか?

問(寺島):一方、立憲民主党は1人2万円の給付に加え、食料品の消費税率を8%から0%に最長2年間引き下げることを訴えています。去年の衆院選で議席数を4倍に伸ばした国民民主党は、消費税の一律5%への引き下げを公約に盛り込んでいます。日本維新の会は2年間の食料品の消費税0%をできるだけ早く実施して、物価高に対応する考えを示しています。共産党、れいわ新選組、参政党、社民党も消費税減税や廃止を主張していますが、改めて、消費減税の効果についてはどうご覧になっていますか?

答(会田):逆立ちの「財政あっての経済」になってしまっていて、家計は貯蓄が十分にできず、消費も弱い状況です。消費減税は望ましいと考えます。「経済あっての財政」に立ち戻るきっかけとなるからです。トランプ関税をめぐる交渉でも、米国からの輸入を増やすことのできる内需の拡大が要求されているとみられます。米国は、消費税は日本の内需の拡大を妨げるものであると問題視しているとみられます。森山自民党幹事長は、「消費税を守る」と発言してしまったことも伝わっているでしょう。内需の拡大の本気度が見えないことが、交渉が失敗しつつあることの原因だと考えます。更に、防衛費の増額も求められています。石破政権が、プライマリーバランスの黒字化に固執していることも、消費税撤廃を含めた内需の拡大策と防衛費の増額を妨げる動きですから、交渉をより困難にしてしまっています。

物価高対策として優れている政策は食料品の消費税引き下げか一律引下げどちらでしょうか?

問(寺島):最大の争点である物価高対策では消費税減税を掲げる野党に対し、与党は低所得者や子育て家庭支援に重点を置いた給付を掲げています。消費減税をめぐっては大きく分けると、・食料品の消費税を時限的に0% ・消費税を時限的に一律5%に引き下げ があるわけですが、どちらが物価高対策としてはいいのでしょうか?

答(会田):自民党でも、4割の議員が消費税引き下げを主張しています。中村裕之衆院議員、松本尚衆院議員、田中昌史参院議員が共同代表を務める責任ある積極財政を推進する議員連盟も、70名を超える議員の会員がいますが、軽減税率の0%への恒久的引き下げを提言しています。細かいことで争わず、消費税は撤廃してしまってよいと考えます。細かい争いになるのは、消費税は社会保障の財源で、高齢化によって社会保障は危機にあるという間違った認識です。年金制度でみれば、これから100年、日本経済は全く成長しないという悲観的な前提をおいて、危機だと騒いでいます。前提を1%成長に変えるだけで、年金基金は100年後に向かって積み上がり続けてしまいます。前提が0%なので、社会保険料と消費税を取りすぎて、国民を疲弊させてしまっています。前提を1%に変えれば、社会保険料や消費税率の引き下げはできるはずです。前提のちゃぶ台返しが必要です。

消費税そのものを廃止するというのは、現実的ではないのでしょうか?

問(寺島):一方、消費税そのものを廃止するというのは、現実的ではないのでしょうか?

答(会田):消費税の撤廃に、財源はいりません。企業は貯蓄を続けていて、財政赤字もほとんどなくなっていることによって、企業貯蓄率と財政収支を合計したネットの資金需要は、また消滅してしまっています。家計に所得が回る力が失われていることになります。家計に所得をしっかり回すためには、GDP比で5%、30兆円程度の支出が足りていません。消費税を全廃して、25兆円ほどの財政赤字を増やしても、まだ足りないくらいです。

2024年度の税収の上振れについてはどうご覧になっていますか?

問(寺島):財務省が発表した昨年度の国の一般会計税収は75兆2320億円でした。前の年度より4%増え、5年連続で過去最高を更新しました。このうち企業から徴収する法人税収は2兆円余り増え、バブル期以来の高水準となりました。消費税は国内の消費が堅調に推移したことに加えて物価の上昇を反映して、1兆9000億円余り増えました。この傾向が続けば今年度も税収が見込みを上回って推移する可能性がありますが、税収の上振れについてはどうご覧になっていますか?

答(会田):コロナで財政を拡大して、名目GDPが停滞から拡大に転じたことで、毎年のように、税収が予算から上振れています。財政を拡大すると、財政が改善することがすでに明らかになっています。決算では、剰余金が2兆2000億円台となっています。しかし、財務省が勝手に国債発行を減額してしまったため、実際の予算対比の剰余金は7兆円強もあります。財務省が勝手に国債発行を減額する手法で、剰余金を小さく見積もることは、自民党の政治家の間でも、マクロ政策の選択肢を狭めると、近年、財政民主主義を揺るがすものだと問題視されるようになっています。

図1:米国住宅価格と実質消費支出

図1:米国住宅価格と実質消費支出
(注:住宅価格はS&Pケース・シラー住宅指数
出所:S&P、BEA、クレディ・アグリコル証券)

図2:米国クレジットカード金利と消費者ローン延滞率

図2:米国クレジットカード金利と消費者ローン延滞率
(出所:FRB、NBER、クレディ・アグリコル証券)

会田 卓司
クレディ・アグリコル証券 東京支店 チーフエコノミスト
松本 賢
クレディ・アグリコル証券 マクロストラテジスト

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