この記事は2025年7月2日に配信されたメールマガジン「アンダースロー:日本経済メインシナリオ 2024-2029年」を一部編集し、転載したものです。

アンダースロー
(画像=years/stock.adobe.com)

■ 2024年(実績):実質GDP成長率は潜在成長率を大幅に下回る水準に停滞
■ 2025年:物価上昇率の大幅な縮小へ
■ 2026年:内需がしっかり回復して日銀は利上げサイクル入り
■ 2027年:企業の投資と消費の拡大
■ 2028年:デフレ構造不況脱却で潜在成長率が上昇
■ 2029年:高圧経済

2024年(実績):実質GDP成長率は潜在成長率を大幅に下回る水準に停滞

内需停滞にもかかわらず、日銀が拙速なマイナス金利政策の解除と追加利上げを実施して信用サイクルが下押され、グローバルな景気減速もあり、実質GDP成長率は+0.5%程度の潜在成長率を大幅に下回る停滞に。輸入物価の上昇の転嫁が進み、物価上昇率の高止まりが、実質賃金の下押しとなり、内需の回復も停滞。

内需は停滞しながらも、名目賃金等の上昇を背景とした日銀の利上げ姿勢継続により、長期金利は上昇。

2025年:物価上昇率の大幅な縮小

グローバルな景気減速とトランプ政権の不確実性の下押しの中、積極財政の推進で内需を支え、0.5%程度の潜在成長率なみの成長を維持し、デフレ構造不況脱却への動きは継続。実質賃金の上昇はまだ弱く、消費の回復はまだ緩慢。トランプ関税の交渉は失敗し、石破政権の政治的求心力は低下する。内需停滞もあり、年後半から翌年にかけて物価上昇率が1%前半に向けて大幅に縮小し、政局の動きもあり、日銀の利上げは止まる。夏の参院選での自公政権の敗北によって、政局が混乱し、石破政権は退陣に向かう。積極財政を推進する新たな政権が誕生する。所得税と消費税の部分的な減税へ道を開く。

減税など財政拡大への期待がデフレ構造不況脱却を織り込み始める一方で、米国をはじめグローバル景気の減速と日銀の利上げ停止が長期金利の上値を抑える。内需の持ち直しと利上げサイクルの再開が織り込まれることで長期金利は徐々に上昇。

2026年:内需がしっかり回復して日銀は利上げサイクル入り

グローバルな循環的景気回復と一時的な物価減速による実質賃金の上昇を背景とした内需の回復で、実質GDP成長率は潜在成長率を自律的に上回る。減税も支援に。企業貯蓄率の低下と内需の回復によって、年前半に日銀は中立金利に向けた本格的な利上げサイクル入り。半年に1回25bpの利上げ。ネットの資金需要が回復し、名目GDP成長率を加速。新政権の積極財政が支援に。

ネットの資金需要の回復に伴う名目GDP成長率の加速で、リスク資産は上昇が続き、イールドカーブもスティープニング基調が継続。

2027年:企業の投資と消費の拡大

企業の競争がコスト削減から投資に明確に変化する。実質賃金の上昇が加速し、消費の拡大につながる。実質GDP成長率は潜在成長率を十分に上回り、景気回復に加速感。物価上昇率は2%の物価目標に向かって拡大を続ける。日銀は四半期に1回25bpの利上げを続ける。物価上昇率と政策金利が同じようなペースで上昇し、実質金利はゼロ近傍が維持され、デフレ完全脱却を支援。

名目GDPの持続的成長でリスク資産の上昇は続き、日経平均株価は4万円台後半が定着。日銀の利上げに伴い長期金利も上昇するものの、利上げの到達点が意識され始めることで長短金利差のスプレッド拡大は止まる。

2028年:デフレ構造不況脱却で潜在成長率が上昇

設備投資のGDP比率はなかなか到達できなかった17%に近づき、企業の期待収益率・成長率の上振れで潜在成長率が上昇(+1.0%程度)。実質GDP成長率は1%台半ばの水準を維持。企業貯蓄率が正常なマイナスに転じて構造的デフレ圧力を払拭し、物価上昇率も目標の2%に達することで、アンカーされ、デフレ構造不況を完全脱却。政策金利は2%超まで上昇し、2%の物価目標の達成と合わせて、実質金利が若干のプラスに戻るところが到達点となる。

デフレ構造不況の脱却で名目GDPの成長が持続し、日経平均株価は5万円台が視野に。利上げが到達点に達し、GDPの伸び率がやや落ち着くことでイールドカーブはややフラット化。

2029年:高圧経済

日銀が若干の実質金利のプラスの水準で利上げを止めることで、総需要が総供給を持続的に上回る高圧経済となる。プラスの実質金利と円高は景気を下押すが、高圧経済が支えとなり、実質GDP成長率は引き続き1%を上回る。経済規模の持続的拡大の予見可能性による企業の投資の拡大で、企業貯蓄率のマイナス幅が拡大する中、名目GDPの拡大によって税収が増加し、財政収支は赤字を脱する。

実質の成長率は鈍化しながらも、ネットの資金需要の安定的な推移と名目GDPの拡大でリスク資産やインフレ期待の底割れは回避され、イールドカーブは緩やかなフラットニングに留まる。

日本経済見通し

図:日本経済見通し
(出所:日銀、内閣府、総務省、Bloomberg、クレディ・アグリコル証券)
実質GDP
(出所:日銀、内閣府、総務省、Bloomberg、クレディ・アグリコル証券)

会田 卓司
クレディ・アグリコル証券 東京支店 チーフエコノミスト
松本 賢
クレディ・アグリコル証券 マクロストラテジスト

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