この記事は2025年7月18日に配信されたメールマガジン「アンダースロー:成長ペースが鈍化する局面で利上げはできない」を一部編集し、転載したものです。

アンダースロー
(画像=years/stock.adobe.com)
  • 「各国の通商政策等の今後の展開やその影響を受けた海外の経済・物価動向を巡る不確実性はきわめて高く」、先行きの「成長ペースが鈍化する」と警戒感を示し始めた日銀は利上げを休止している。利上げの再開には、「不確実性」の低下と、内需のしっかりとした回復の確からしさが必要だ。「成長ペースが鈍化する」という警戒感がある間は、鈍化を加速させるリスクとなる利上げはできないだろう。
  • 目先の「成長ペースが鈍化する」局面が、どこで止まるのかが利上げの再開時期を左右する。この間、物価上昇率は減速を続けることも、日銀が利上げを焦らない理由となるだろう。参議院選挙で自公政権は敗北し、国民の困窮を救うため、これまでの財政健全化優先路線から積極財政路線に転換しなければ、政権はもたないとみられる。積極財政路線には、国債市場の安定の条件となる緩和的金融政策の継続が必要になる。
  • 日銀法には、「その行う通貨及び金融の調節が経済政策の一環をなすものであることを踏まえ、それが政府の経済政策の基本方針と整合的なものとなるよう、常に政府と連絡を密にし、十分な意思疎通を図らなければならない」とされている。政府の経済政策の基本方針が変化すれば、日銀の金融政策への影響も大きい。石破政権が退陣し、積極財政路線に加え、高圧経済の方針まで加われば、日銀の利上げは更に遠のくことになる。

6月のコア消費者物価指数(除く生鮮食品)は前年同月比+3.3%と、5月の同+3.7%から上昇幅が縮小した。5月の水準がピークになったとみられる。エネルギーは同+2.9%と、エネルギー補助金の再開などで、5月の同+8.1%から上昇幅が大きく縮小した。6月のコアコア消費者物価指数(除く生鮮食品・エネルギー)は同+3.4%と、5月の同+3.3%から上昇幅が若干拡大した。通信料(携帯電話)が大きく上昇(同+.11.9%)したことが寄与した。生鮮食品を除く食料は同+8.2%と、5月の同+7.7%から上昇幅が拡大した。6月のグローバル・コア消費者物価指数(除く食品・エネルギー)は同+1.6%と、5月の同+1.6%から変化はなかった。2024年7月から同+1.6%前後の安定した推移をしている。

6月の輸入物価は同-12.3%と大きく下落している。家計の貯蓄率(資金循環統計ベース)は+1.4%と史上最低水準まで低下し、貯蓄が出来ないほどに家計は困窮している。賃金の更なる大きな増加や減税がなければ、これ以上の大きな値上げには耐えられないとみられる。年末までには、物価上昇率の減速が鮮明になってくるだろう。来年半ばまでには物価上昇率は1%台前半まで減速し、その減速によって実質賃金が押し上げられ、内需の回復につながっていくだろう。内需の回復には、減税などの財政政策と物価上昇率の一時的な減速が必要になっている。7月の日銀展望レポートで2025年度の物価見通しを若干上方修正する可能性がある。今年の物価上昇率が高くなれば、消費の下押しによって来年の物価上昇率には下押し圧力がかかることになる。

「各国の通商政策等の今後の展開やその影響を受けた海外の経済・物価動向を巡る不確実性はきわめて高く」、先行きの「成長ペースが鈍化する」と警戒感を示し始めた日銀は利上げを休止している。利上げの再開には、「不確実性」の低下と、内需のしっかりとした回復の確からしさが必要だ。「成長ペースが鈍化する」という警戒感がある間は、鈍化を加速させるリスクとなる利上げはできないだろう。4-6月期の実質GDP前期比がマイナスになれば、11月に公表される7-9月期のプラス回復を確認する必要がある。利上げ再開は最速で来年1月となる。8月1日からトランプ米政権の25%の相互関税が発動するなどして、輸出・生産の減退と内需への下押しの波及で、7-9月期の実質GDP前期比がマイナスとなれば、来年2月に公表される1-3月期のプラスを確認する必要が出てくる。その場合は、利上げの再開は来年4月となる。

目先の「成長ペースが鈍化する」局面が、どこで止まるのかが利上げの再開時期を左右する。この間、物価上昇率は減速を続けることも、日銀が利上げを焦らない理由となるだろう。参議院選挙で自公政権は敗北し、国民の困窮を救うため、これまでの財政健全化優先路線から積極財政路線に転換しなければ、政権はもたないとみられる。積極財政路線には、国債市場の安定の条件となる緩和的金融政策の継続が必要になる。日銀法には、「その行う通貨及び金融の調節が経済政策の一環をなすものであることを踏まえ、それが政府の経済政策の基本方針と整合的なものとなるよう、常に政府と連絡を密にし、十分な意思疎通を図らなければならない」とされている。政府の経済政策の基本方針が変化すれば、日銀の金融政策への影響も大きい。石破政権が退陣し、積極財政路線に加え、高圧経済の方針まで加われば、日銀の利上げは更に遠のくことになる。


会田 卓司
クレディ・アグリコル証券 東京支店 チーフエコノミスト
松本 賢
クレディ・アグリコル証券 マクロストラテジスト

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